戦術

「さて、じゃあ始めましょうか」


アイラは土を蹴り感覚を試しながら言った


「あぁ、よろしく頼む」


ここは軍用エリアの訓練エリア。戦闘員が各々自主的に訓練を積む場だ


「で、どう教えてくれるんだ?」


「逆に聞くけどどう教えてほしいの?」


「あ~・・・そうだなぁ、恐怖とかテンパってても応戦できるようにスムーズにチューニングが出来るコツとか・・・かな」


「そう、なら私がやろうとしてる方法がベストね」


アイラは訓練用の長杖をまるでバトントワリングのようにくるっと一回転させ戦闘態勢を取る。


「チューニング・・・深度は・・・3・・・いや2」


独り言のようにぶつぶつと呟きアイラの姿が光の三原色のごとく三色に分身し一瞬のうちにもとに戻る。


「おい、さっきから何言って・・・」


「あなた言ったわよね?


「あぁ・・・」


アイラの構えている長杖が一瞬キラッと光る。嫌な汗が背筋を流れた


「チューニング深度は2!さっさと合わせなさい!!」


甲高い謎の音とともに無数の発光体が眼前を埋め尽くす。


「まじか!」


俺が考えるより早く、無数の光線が僕の体を焼いた。


「あっつ!!!」


チューニング深度は2、実体と深度の差がほぼないためこの状態での魔術は体にダメージが入る。


「おいまて!まだ武装さえ展開してねぇ相手に攻撃とはどういうことだよ!」


「あらあら、そんなのそちらがどんくさいだけじゃなくて?しかも深度2でギリギリ致命傷にならない程度の深度設定にしてあげてるんだから感謝こそしてほしいわね」


そう言い、アイラは上空へ浮遊し始める。


「くそ、上に行ったら攻撃が届かないだろ!」


「何言ってるのかしら?あなたの装備してる打撃武器の有利範囲までわざわざ降りてあげる道理はないわ?私の得意なのは魔術、防壁があるとは言え痛いものは痛いのよあれ」


「いきなり実戦形式とは・・・確かに非常時ではあるが・・・急すぎるぞ」


「実戦でそんなこと言っている暇があるとでも?ちなみにさっきのであなた一回死んでるのよ?次は死なないことね」


そう言い切るとまた同じように発光体が空を埋め尽くした。


チューニング深度は2・・・この場合深度を3以上にしないと体にダメージが入る事になる・・・行けるか・・・?


発光体が輝きを増し風船が割れたように次々発光、視界を埋め尽くすほどの光量とともに光線が自分に向かってくる音がする。


いや・・・!やるしかない!


「チューニング!!」


深度なんてわかんねぇ!とにかく深くまで!


辺り一帯に降り注ぐ無差別の光線という爆撃


周りは土煙で覆われる


「へぇ、やれるじゃない」


「ハァ、ハァ」


ボロボロではあるがなんとか致命傷は避けることができた


「次は俺の番だ!」


「かかってきなさい、相手してあげるわ!」


相手は魔術、しかも空中に受ける。それに対して俺は足と拳を使う格闘武装。普通に戦えば攻撃が通らない圧倒的な不利の状態


「付け焼き刃だけど・・・!やってやる!」


俺は片足に意識を集中させ


「エンチャント・・・」


ゴッ!何かが割れる莫大な音が鳴り響き…


バァゴォオン!!!それは上空から2トントラックを厚い氷が張った池に落とした用に、大地が割れた


「クエイク!」


「へぇ・・・!そんな芸当ができるとは!」


アイラは不敵に笑い、発光体を周囲に展開させる、それも先程とは桁違いの光量で


「何考えてるかはわからないけど!これおしまい!」


カッ!!360度全方向を眩しい光が埋め尽くす


ボゴォォオン!もはやそれは訓練と言うには無理があるほどの爆発音だった。


割れた土は手のひらサイズ、大きくても1m50cmほどのサイズにまで粉々に砕けていた


アイラは勝利を確信した。なんのために大地を砕いたかはわからなかったが全方向からの攻撃あれを完全に防げるものはよほどの戦闘スペック差がない限り無理だ、現にまるで自身を守る様にに砕いた土の塊が今では粉々に砕き、一面を土煙で埋め尽くすほどの火力、C級ドールズが耐えられるはずがない。


誰もがそう思える光景だった。


土煙の中にある闘志を失っていない覚悟の籠もった瞳を目にするまでは。


「粉々にする手間が省けたよ・・・!」


宙に浮く土塊に思いっきり拳を叩きつける。


「墜ちろぉ!!!!!!!」


全力で殴られた土塊はまるで銃弾のような速度で宙に浮くアイラの腹に自壊する前にめり込む。


「がっぁ・・・・!」


肉体にダメージを与えるためにチューニング深度を低く設定していた故の結果だった。悠斗のチューニング深度は3、対してアイラのチューニング深度は2、深度は1しか変わらない魔術は普通に効く深度だ故に深度を下げなかった、しかし多次元防壁はアイラのほうが薄かった、故にアイラは今の攻撃をほぼ全てのダメージを受けることとなったのだ。


「しまっ・・・」


内蔵に響く攻撃を喰らいぼやける視界でアイラは次の攻撃に備える


「行くぞ!歯ぁ食いしばれ!」


「?!」


次も土塊での攻撃だと思い、前方に防壁の準備をしていたのに、悠斗はまっすぐこちらに走ってくる。


「エンチャント!!」


足からは軽い焚き火ほどの火が出現する


「・・・・!!!な、」


悠斗の攻撃が眼前まで迫る。


この状況、普通の人間であれば攻撃に耐えるために体中に力を入れるだろう、目を閉じたり歯を食いしばったりと、しかしアイラは違った。


「なめるなぁああああ!!!!」


途端に形勢は逆転した


「つぅ・・・!」


アイラの周囲に突如として発現した発光体は悠斗の蹴り技に反応し、アイラを守る盾となりそして守るべき対象に害を与える悠斗への矛となったのだ。


派手にふっとばされれ、地面に強く打ち付けられた


「がぁっ・・・はっは・・・」


地面に打ち付けられ息がうまくできない悠斗


「普通に痛かったわ・・・」


倒れ込む悠斗を見下すようにアイラは武器を構え


悠斗は真っ白な光に飲み込まれた。

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