スタートライン

第一声はこうだった。


「どうなった?!」


「あらあら、元気なお目覚めね・・・」


多くのベットが横に並んだ一室、医務室だった


「あ・・・」


急に大声を出したものだからチラホラとベッドに横になる患者たちからの目線が痛かった


「あ~・・・すいませぇ~ん・・・」


静かに硬いベットに戻る


「やっと起きたと思ったら騒々しいわね」


「あ”」


「なに?その反応、私がここにいる原因はあなたのせいなのだけれど?」


カーテン越しに聞こえるこの声はまさしく、アイラ・F・エンゲルその人の声だった


「それを言うなら僕だって・・・お互い様だ」


「まったく・・・訓練でここまで大げさな処置を受けるなんて私達ぐらいよ」


大きなため息混じりの声で愚痴りだす


「まぁな」


確かに、現に僕の体中には包帯がぐるぐるに巻かれているし少しやけどもしている、カーテン越しに見えるアイラも腹部をよく擦っている。


「でさ、結局あのあとどうなったの、全く記憶が無いんだけれど」


「あのあと?あ~そうね・・・」


少し考えアイラは喋りだした








「普通に痛かったわ・・・」


真っ白な発光体が悠斗に向け襲いかかる


その時悠斗にはなにも見えていなかった


発光のせいでもあるがそれ以上に別の要因で何も見えていなかった。


負ける


大きく彼の心にあったのはこの感情だった。


負ける。そう思ってしまった人間は次に何を考えるだろう?それも自身は認識していないが、とびっきりの負けず嫌いの人間がだ。


そう、次に思う感情は


「負けるか」


である。


「負けるか」「終われない」「勝ちたい」


そして



この感情願いを抱いき、真っ白な世界に飲まれていった。


「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」


その瞬間、悠斗は謎の言葉とも取れない謎の咆哮とともに体を持ち上げた


ジュウウウウウウウ


肉が焼ける音がした。


肉が焦げる匂いがした。


ボゴォ


何かを強打する音がした


「がぁっ・・・・!!!」


次の瞬間一番最初にふっとばされたのは悠斗ではなく


アイラの方だった


「ガハッ・・・ゲェホ!ゲェホ!」


ヒューヒューとまともに呼吸ができていないのか空気が漏れる音を出しながらなんとか呼吸をし、体制を立て直す。


次の行動まで一瞬だったが、アイラは思考をフル回転させ、今の状況を整理していた。


なぜ?!多次元防壁は私のほうが暑かったはず・・・なのになぜ・・・なぜ私はを喰らっているの?!


理解不能だった、確かに今のような深度が3とか4とか30以下の低次元であればゴリ押しで多次元防壁なんて壊せる、だけどそれは戦闘に慣れていて感があったりそれに見合った強さがある人間に限る話、さっきまでチューニングすらまともにできなかった人間が防壁無視の攻撃をできるとは到底思えなかった。


相手の悠斗は今の光線をモロに受け軽度の火傷を負っているつまり魂と実体の深度が近かったということそして私の深度は30以上は深かったはず、私も意地になってい、ただからこそ理解不能だった、あちらはせいぜい深度10まで潜れれば及第点という実力で私はその3倍以上の深さにいた、魔術がクリーンヒットする深度ではないがそれでも魔術が効く範囲差、完全に私が有利だったはず、魔術の干渉域も多次元防壁も全て私が上を行っていたはず。


なのにこれじゃあまるで


多次元防壁が無効化されたみたいじゃない・・・!


いや、それは不可能だ無効化なんて聞いたことがない、それに、これに近いこと出来るのはサルベージぐらいだ、じゃあ彼はあの一瞬でサルベージを?いや無理だ不可能だそう言い切れる。なぜならあの状態で私の深度を正確に観測し引き上げるなんて相当の手慣れでも難しい、であれば感やら運やらで?いいやそれこそありえない運や感であれば多少の誤差が出るはず、その誤差でサルベージに逆らうことぐらいは私にとっては容易いこと。


じゃあなぜ?!


「っ・・・!」


思えば長いようで短いこの思考を巡らす時間も眼前のが行動を取ったことにより次の行動を考える事に思考が置き換わる


「ガァッ・・・・!!!」


「っ・・・!」


大地がえぐれるほどの脚力でこちらに向け一直線で


この状況に鉢合わせた人間、それも同等、それ以上の力量差がある状況。普通は恐怖しとっさであればこう叫ぶだろう。


「来るなぁあああああ!!!!!!」


アイラの全方にヒヤッと冷たい空気が舞う


「ガッ」


短い鳴き声とともにが動きを止める


アイラの前には氷の壁が生成されていた


「ウガアアアアアアアアアアアア!!!」


しかし、そんなのあってないかのように氷を砕く


眼前の悠斗だったもの


あれは最速もう人間ではなかった


いや、性格には人間だ、何も変わっていない


しかし、あの意味不明な叫びに思考が麻痺しているとも取れる一直線で力技しか使わない戦法。まるでと戦っているような感覚に襲われる。


もうそこには、単純な恐怖しかなかった。


「はぁ、はぁ、なにあれ・・・さっきまでの何も知らない新兵はどこ行ったのよ・・・!」


私も同期で同じくまだ新兵だが、それでも彼とは明確と入れるほどの実力差はあったと思う。


なのに今では防戦一方な状況に追い込まれている


それもそうだ


いくら攻撃しても攻撃をやめない、まるで獣だ


しかしアイラの目から見れば人の形をした獣、恐怖しかないのも当然だ


「けど、いいじゃない、もうそろそろ慣れてきたわ」


少しずつ息も整ってきた


慣れた手付きで長杖を構え直す


「かかってこい」


その一声と同じくが襲いかかってくる


「慣れれば、どうってことはなかったわね」


ぼそっと一言


「防壁が効かないのは謎だけれど」


杖の先端に光が集う


「別にいいわ、だっての話でしょ?」


カッと一際眩しく発光する


「次は自棄にならないことね」


ゼロ距離での魔力オド


それも、今の状況で使えうる全てのオドを収縮した魔力砲


その威力は到底人に使うものではなく、ましてやゼロ距離砲撃なんてするものではないのはこの現場を見た誰もが思ったことだろう


訓練場の土は土の下側からの爆発の影響により粉々に砕けていた。





「おいおい・・・なんだコレ・・・通報があって見に来たがこれは・・・・」


かの魔力砲の威力はとんでもない轟音を使用していた訓練場の外まで響かせていた


その影響か管理人がメディカルに連絡を入れてくれていたのだ


「ここで、実用器でも使った殺し合いでも起きてたのか・・・?」


そう思えるほどの惨状であった。


「おい、いたぞ!」


もうひとりのメディカルが訓練場で倒れ込む二人を見つける


「おいおい!こりゃたまげた、この子たちC級じゃないか!しかも訓練器で!」


驚きが先に出てしまう、訓練器でこの惨状を作り出してしまうって・・・


「とんでもない新兵がいたもんだな・・・」


「そんなことはどうでもいいから早く運ぶぞ!ふたりとも気を失ってる」


「あぁ、わかった」


二人を担ぎ急ぎ医務室に連れて行く


「だけどこの訓練場、当分は使えねぇな」


苦笑いしか出なかったが、それ以上に頼もしさもどこかにあった






「って感じらしいわ」


「・・・・全く覚えてない」


なんか想像以上のことになっていたらしい


「そっか、僕は暴走していたのか」


「暴走・・・たしかにあれ似合う言葉って暴走が一番ね」


「そっか、はぁ~~~~」


「大きなため息ね」


「まぁね、だって戦闘中にまた暴走したらどうしようかって」


暴走、聞いた話じゃあんな暴走してたら命がいくつあっても足りないだろう


「そうね、けどこの私を気押しするほどの力はあった、それにあの謎の力も」


「謎の力・・・多次元防壁を無効化するっていう?」


「無効化・・・まぁよくわからないけど実際私の防壁を突破できるほどの力があるのは事実ね」


無自覚、暴走の危険がつきまとうかもしれない謎の強力な力


「その力を使いこなせれば」


「手の届く範囲を守れる力・・・」


そう、僕は力がほしい


「ここがあなたのスタートラインじゃない?」


「スタートライン…?」


「そう、あたなは真の意味で戦う力と自分が目指す場所が明確にわかった、そう思えない?」


確かに、今までは漠然としていた、チューニングを使えればレイダーが倒せる、しかしそれでもB級以上のレイダーともなればチューニング以外の能力も求められる、そして僕は今、チューニング以外のレイダーに対抗しうる力の存在に気がつけた


この力は謎が多すぎる上に暴走の危険がある諸刃の剣


だけど


「今はこれが僕の武器だ」


どうなるかはわからない


けど僕はこれでスタートラインに立てたそんな気がした。

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