戦場

僕たちが軍用エリアに到着するときにはもう戦闘は始まっていた。


「ギリ間に合ったかな?」


「あぁ・・・間に合ってはいるだろうな」


前方の方で重火器の発砲音がけたたましく鳴り響いている


「…そんな暗い顔してどうしたの?」


軍用エリアに着いた頃から嶺二の顔は暗いままだった。


「いや、なんでもない。急ごう」


「え?あ、うん」


僕たちはほんの少しの不安をいだきながら戦闘エリアの検問を通り戦闘に参加した。






僕たちは一度もレイダーとの戦闘を経験したことはなかった。だからわからなかったんだ。


あの黒い化物の恐ろしさを。



「やっぱりか・・・!」


「嘘・・・なにこれ」



戦況は火を見るより明らかだった。


「相手はB級じゃ…」


そう、B級レイダー。決して等級の高くないレイダー


だがそうは思えなかった


「こんなのに敵うわけ・・・」


あれはまるで


赤ちゃんが目につく物すべてを口に入れてしまうように、当たり前にの行為のようにあの黒い巨人は軍事基地を破壊していた。


「嫌だっ!!離せ!!嫌だぁあああ!!!ああああああたすk」


「っ・・・!」


ゴキャ


鈍い音がした


「クソが・・・!クソが!クソクソクソクソクソ!!!!!!」


重火器を乱射するドールズ


しかし巨人はまるで効いていないと言わんばかりに、飛んでいる鬱陶しいハエを叩き落とすが如く、人を叩き潰す。


兵器すらそうだ、巨人の前ではおもちゃにすらなりえない


「こんなの・・・勝てるわけ・・・」


勝てるわけがない。そう思ってしまうには十分すぎる光景だった。


人が簡単に死んでいく、それはまるでのように簡単に脆く破壊されていく。


「ヒッ・・・」


巨人と目が合う


逃げなくちゃ


逃げなくちゃ


殺される


殺される


「・・・ッ!!おい悠斗!!何してんだ!!逃げるぞ!!」


遠くで嶺二の声が聞こえる


「あ・・・くっ・・・」


「悠斗!!」


足が動かない


逃げなくちゃ


わかってはいるんだ。


頭も体も逃げろと警告をしている。


だけど足が動かないんだ


嫌だ、死にたくない


死にたくない


それに反応するように巨人の手は僕に迫る


死が近づいていくる


嫌だ


嫌だ


嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ






『こんなところで終わってたまるか』






僕は強く


それが誰に対して願ったものか、それを叶えられとも思わない、というか思うことすら許されない状況下でも


そうのだ。「俺はまだ死にたくない」と



「待たせたね」



そう聞こえた気がした


瞬間、巨人の頭は吹っ飛んでいた。


「間に合ってよかったよ……一人でも命を救えたのであれば…よかった」


「あっ・・・」


「うん、いいよ、あの状況でよく逃げなかったね、良い顔してたよ君」


そう言うと彼女は巨人に体を向け、戦闘態勢を取った。


巨人は頭部がない状態にもかかわらずゆっくりと立ち上がった。


「チューニング…抜刀、アラカタ!」


彼女の姿が光の三原色のごとくぼやけ一瞬にしてもとに戻る


「消えろ、雑魚」


彼女は装備していた刀を虚空に向け一閃する。


その瞬間


巨人はバラバラに砕け散るのだった。


あれほどの驚異をたったの一刀で完膚なきまでに叩き潰した。


「大丈夫かい?君」


「あ、はい。ありがとうございます…」


僕は伸ばされた手を取り置き上がる


「あの…」


「ごめんね、到着が遅れてしまって…そのせいで余計な被害を…」


「あぁ、いや、それはその」


僕の一存で、それは良いんですなんて無責任なことは言えないので言葉に詰まる


それより僕には気になることがあった。


「あなた…もしかして…」


「ん?私?」


この長い黒髪に真紅の瞳。


「ふふん、私の名は―――」


そしてこの剣技はまるで・・・


霧島綾きりしまあや!SS級ドールズだよ」


「…」


絶句


「おーい、どうしたの?」


いや、絶句もするだろう、今ではSS級ドールズなんてテレビに出ている有名人より有名な存在だぞ。


しかものこの人ってたしか


「霧島先輩・・・」


霧島綾、歴代最年少でSS級人形戦闘員になるなど、基本スペックが規格外であり50年前のオドの木が出現する際の英雄「霧島雄悟きりしまゆうご」の孫でもある。そして僕たちの通う高校の生徒会長でもある。


「先輩・・・もしかして中央の生徒?」


『中央』セントレア・マグナ附属高校の通称、中央と呼ぶのは大体が日本人だが。


「2年です」


「へー、後輩かぁ、そっかそっかじゃあなおさら良かったよ助けられて」


「あの、あと先輩、僕と一緒にいた他の二人は知りませんか?」


「ん?あぁ先に避難させたよ。まだ警戒エリアだしね、警戒レベルも引き上げられてるよ」


「へ?でもC級ドールズも呼び出しが…」


「あぁ、それならさっき解除、引き上げされたよ、今ここはA++級警戒エリアだよ、マニュアル通りであればB級なんだけど、最終防衛ライン突破されているし、さっきみたいなタイタン種が出てくると半端なチューニングじゃ効果ないしね。」


恐らく、僕が固まっているときに通知は来ていたんだろう、嶺二もマイクも逃げてたし


「そうですか・・・」


「君も避難エリアまで行ったほうが良いよ、今救護を呼ぶから、少し待ってて」

 

「ありがとうございます」


「…なんで君、あのとき逃げなかったの?」


「それは・・・その、足が動かなくって・・・」


「あはは、そっか。そりゃそうだよね、怖いよね。私も怖いもん。レイダーって始めてみた?」


「はい。実戦は初めてです」


「そっか、初めてでタイタン種か、そりゃ固まりもするよね」


「僕、目の前で助けを求めてる人がいたのに何もできなかったんです」


目の前で助けを請いながら握りつぶされたドールズ達の姿が頭をよぎる


「そっか、悔しいよね」


「先輩もその…そういう経験が?」


「あるよ、いつもさ」


霧島先輩の表情が一瞬暗くなりすぐにもとに戻る


「手の届く距離の人すら守れない、今だってそうさ、私がもっと早く到着できていれば怪我人なんて出なかったと思う」


「けど、先輩は僕を守ってくれました」


ふと口から出た言葉。無意識の言葉だった


「あ、いやその」


「フフ、ありがと、私は全部を守れない。だけど、守れるものはすべて守る。あたり前のことだけどそう思って私はいつも戦線に立ってるんだ」


その言葉に嘘はなかった。その瞳に曇りはなかった。彼女の嘘のない言葉。


人を見る目とかそういうのに自身があるわけじゃないけれど、今の言葉はとても強い決意で固まった意志を感じた。願いではない強い意志。そうすると決めた意思を感じたんだ。


「けど、君もいい顔をしてたよ、新兵であんな顔できるなんて、すごいよ」


「顔…ですか?」


「うん、最後まで諦めてない顔、あの顔ができるなら…私も君みたいになれたら良かったんだけどね」


「先輩?」


その言葉に隠された意味を僕は理解できなかった。だけど戦う先輩を見た僕は思わざる得なかった。そんな悲しい雰囲気を出すなんて・・・と


「まぁ、一年しか年変わんないのに何いってんだって感じだけどね」


ははっと笑ってごまかす、そこにはさっきの雰囲気はなかった


「あ、来たようだね、さぁここはまだまだ危険だ、後ろで物資支援とかしてくれると助かるな」


「はい、わかりました、先輩もご無事で」


「フフ、ありがと」


別れの言葉を交わし、僕は前線を離れた。

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