第51話 三角関係の巻き添えは、めんどくさい。

あれから一ヶ月が過ぎた。

私は相変わらず村で弥太達と生活をしている。大きく変わった所は特にない、強いて言うなら伸ばしていた髪を切ったくらいだろう。

伸ばし続けると手入れがめんどくさいと言うのもあったが、心機一転のつもりでばっさりと肩まで切った。マオはお揃いと喜んでいたけれど弥太は少し残念そうな顔をしていた。


ある日の事、アステルが珍しく一人で村に遊びに来た。

弥太をはじめとした三匹は出払っているので、留守を任されていた私が出迎えお茶を淹れてもてなす。

彼は挨拶もそこそこに目を見開いた。


「髪を切られたのですね」


「えぇ。短いくてとても楽です」


そういって微笑むと苦笑される。


「長いままでも素敵でしたよ」



……何だろう、口説かれているような錯覚に陥るわ…



さらりと砂糖入りの言葉を吐き出すアステルに私は困惑する。

今までの誤解が溶けたのは嬉しいがまさか私相手に彼が砂糖を吐くとは思わなかった。

きっとアステルはスピカに嫌われないように私にも優しくしようというおまけ程度の気持ちなのだろうけど、もし私が本気にしたら困るのは彼なのでは無いだろうか。


「あの、フォーン様。そう言った誉め言葉は意中の女性にしか言わない方がいいと思うのです」


「えぇ、ですからそうしています」



……そうしてる?

あぁ、なるほど!私で練習して本命の女性にはちゃんと伝えてるってことね

でもスピカにはもう決まった相手がいるのだし良くないわ…



私で練習するのは構わないのだが、三角関係に巻き込まれるようなことはごめん被りたい。


「…ステラ嬢は容姿を褒められても嬉しくはないのですか?」


真剣な顔をしたアステルに問われ私はしばらく思案した後、自分なりの見解を述べる。


「自分の容姿にそれなりに自信がある方は誉められれば喜んで下さると思いますよ。私の場合は…まず疑ってしまうので参考にならないと思いますわ」


「……称賛の言葉を素直に受け取れない、と言うことですか」


「えぇ」


頷けばアステルは指先を口元に当てて考え込んでしまった。



やっぱり私の意見じゃ参考にならないよね…



私は自分の容姿を誉められたとしても相手の言葉を疑ってしまう。その理由は言わずもがな両親である。

スピカと同じ格好をしてもスピカは『可愛い』、私は『不恰好』と言われ育ってきた。

刷り込みのようなものでずっとそう言われ続けると衣類への興味なんて無くなるし、仮に誉められても「この人も本心では不恰好だと嘲笑ってるに違いない」という被害妄想に取り憑かれてしまうのだ。


現在は両親から離れられたお陰で少しずつそんなマイナスな気持ちや思い込みから解放されつつあるが、心に根付いたものはなかなか剥がしとる事はできない。


「申し訳ありません、お力になることが出来なくて…」


「いえ、謝らないでください!」


申し訳なくなり謝罪すればアステルが慌てて顔をあげる。


「…ではステラ嬢が言われて嬉しいことやしてもらったら嬉しいことを教えてもらえませんか?」


「構いませんが私で宜しいので?あまり参考にはならないと思いますが…」


「ステラ嬢でなければいけないのです、どうかお願いします」


目の前のお茶に突っ込みそうな程頭を下げられてはノーだなんて言えず、私は自分なりの嬉しいことをアステルに話した。

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