第50話 双子の、成長。

目覚めて数日で弥太はすっかり回復していた。

回復後にいろいろ話を聞いたのだが、弥太はその嗅覚で私が呪われそうになるのを察知し、その犯人の匂いを覚えて特定に至ったらしい。

アステルに事情を話したのはアステルから犯人であるリゲルの匂いがした為、協力者にできると考えたからとのこと。もしアステルが共犯者だったらどうするつもりだったのだろう…。

その事を銀狼とマオに指摘され、弥太は今さら気が付いたようで項垂れていた。

その後、二匹にこっぴどく叱られ今度何かあったらすぐに伝えるように念を押されていた。



弥太も完全復活し、穏やかな生活に戻ったころスピカとニクス、アステルがやって来た。弥太の見舞いとリゲルが断罪されたと言う知らせをもって。

そこで私はスピカがニクスの婚約者になったと言うことを聞かされた。

いつの間にか二人の仲は進展していたらしい。


「スピカちゃんおめでとー!」


「ありがとう!って言ってもまだまだ問題山積みなの。覚えなきゃいけないことも学ばなきゃいけないこともたくさんあって、気付かされることが多くて。毎日大変」


苦笑するスピカに私も祝福の言葉を述べる。


「おめでとうスピカ」


「ありがとう、お姉様………それから…ごめんなさい」


スピカは礼を述べ私に向き直ると頭を下げ、そして謝罪の言葉を口にする。

何に謝られたか分からず首をかしげているとスピカは頭を下げたまま言葉を紡ぐ。


「私、ニクス殿下の婚約者って立場になっていろんな人に出会ったの。いろんな言葉を聞いて、いろんな事を感じた…それで気がついたの。私は『お姉様が大好きな自分が好き』なだけだったんだって。私は自分しか見えてなかった…。お姉様を…助けようとしてなかった…」


スピカは頭を下げたままだ、表情は見えない。けれどその声には後悔が滲んでいた。



……だから私はこの子を『味方』だと思わなかったのね



そう思った。

私は弥太に出会えて初めて味方が出来たと感じたのだ。

自分を慕う可愛い妹がいたのに彼女を『味方』と思えなかったのはスピカが好きなのは私ではなく『可哀想な姉を慕う自分が好き』だと言うことに無意識に気が付いて居たからだろう。

互いに向ける愛情は確かに本物だったかもしれない、けれどそこには弥太達と築けたような『信頼』は含まれていなかったのだと今になって思う。



私もスピカの幸せを願いながらどこかで『無関心』で興味がなかった…

それどころか両親や『悪役令嬢』なんて立場を理由にして自分を憐れんでいたのかも…全く、自分の事ながら呆れるわ

傷付くのが怖くて『めんどくさい』を理由に逃げていただけじゃない



「…スピカ、顔をあげて」


私の言葉にスピカはゆっくりと顔をあげる。


「私も、ずっと自分の事に気がつけなかった。弥太達のお陰で少しずつだけど…いい方向に変われている気がするの。私でさえそうだもの、スピカだってきっと大丈夫よ」


私達はこれから別々の道を進む。

スピカはニクスの婚約者として。

そして私はただのステラとして。


スピカと私の視線が重なる。

私達は生まれてはじめてちゃんと向き合えた気がした。

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