第48話 悪癖は、めんどくさい。

その後駆けつけたニクス達によってリゲルは捕縛された。

重症の怪我を負ってはいるが、命に関わりそうな部分は治癒魔法をかけてあげたので死ぬ事は無いだろう。

元より殺すつもりなんて更々無いし、相手が悪人だとしても人殺しの業を背負うだなんて真っ平ごめんだ。

リゲルが連行されるのを視界の隅でとらえながら弥太に向き直る。

弥太の体を柔らかいクッションの上に横たえると手を翳して呪いの解除と治癒魔法をかけた。すると弥太の呼吸は安定し始める。

あとは目を覚ませばもう大丈夫だろう。



…よかった、これで弥太は大丈夫

昔は嫌々詰め込まされていた知識だけれどこんなところで役に立つなんて…今回ばかりは両親に感謝しなきゃね



彼らが幼い私に無理矢理詰め込んだ知識を役立てる日がくるとは思わなかった。


「…ステラ嬢」


ふと声をかけられ振り替えるとニクスがいた。

スピカとアステルは外に待機させているのだろうか、姿が見えない。


「リゲル・ルトナ捕縛に貢献してくれた事、礼を言うよ」


「…勿体ないお言葉です」


「リゲルはステラ嬢を貶める為に、裏で色々悪どいことをしていた様だ。証拠も揃っている、然るべき罰が与えられるだろう。最も…彼はステラ嬢の手によって罰を受けている様だけれどね」


「あれは正当防衛です」


悪びれも無くそう告げればニクスは苦笑浮かべる。


「そうか…」


「…それと殿下。どうか私達がここに居た事はどうか内密にお願い致します」


忘れかけていたが私は行方不明の貴族令嬢なのだ。

見付かったところであの両親の事だ。無理矢理連れ戻されることはないと思うが、面倒な事は避けたい。


「分かっている。馬車で村の近くまで送らせよう」


ニクスはひとつ頷くとくるりと背を向けた。


「…………すまなかった」


ぽつりと聞こえた謝罪は何に対してのものか、確かめること無く私は眠ったままの弥太を腕に抱えマオと回復した銀狼を連れて村へと戻った。





◇◇◇



村に戻って一日たっても弥太は目覚めない。

ベッドに横たわる弥太にずっと寄り添っている私を心配して、マオと銀狼が代わる代わる顔を出してくれる。


「ステラ殿、弥太は我が見ているゆえ少し眠った方がいい」


食事を運んできてくれた銀狼に私は首を横に振る。


「仮眠を取ってるし大丈夫よ、銀狼だってまだ体調は万全じゃ無いんだから休んでいて」


銀狼はリゲルに受けた時に足を負傷していた。私の治癒魔法で後遺症は残らないが油断は禁物である。


「しかし……」


心配してくれる銀狼を安心させようと微笑みを浮かべて見せる。


「大丈夫よ、私結構頑丈だから。それに弥太が起きた時、私が体調崩してたら怒られちゃうだろうし…絶対に無理はしないわ」


そう告げると銀狼は渋々納得して部屋を後にした。

静かになった部屋に窓からふわりと風が入ってきて、弥太の黒い羽を揺らす。

指先でそっと撫でてみてもその目は開かない。



…私はまた弥太に助けられたのね…



弥太はリゲルから呪いを受けてまでも私を守ろうとしてくれた。

それだけではない。私を害する回りからだけでなく、潰れそうになっていた心も弥太は救ってくれていているのだ。


「ごめんね……弥太。迷惑ばっかりかけて…ごめんなさい」


私が居なければ弥太はこんな目に合わなくて済んだのに。

ついそんなことを考えてしまい申し訳なくなる。


「私、どこまでいっても悪役なのかもね…何度も私を救ってくれた弥太をこんな目にあわせちゃうんだもの」


悪い癖だと分かってはいるけれどつい後ろ向きに考えてしまう。


「……駄目ね、このままじゃ…もっと前向きにならなきゃ…弥太も呆れちゃうわ」


「ほんとだよ、お前の悪い癖だよなー。すぐそうやってうだうだ悩んだ挙げ句に悪い方向に考えるところ。迷惑だなんて思ってねぇっつの」


「そうなのよ、分かってはいるんだけど…………………………え?」


聞こえてきた声に顔を上げれば真っ黒い瞳が私を見つめて楽しそうに笑っていた。

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