第47話 こいつ、めんどくさい。(※流血表現注意)

「貴様か!我らが主を狙い、我が同胞を呪いによって蝕んだのは!」


銀狼の怒りの声などリゲルはまるで気にしない。


「呪い…?どういうことなの?」


銀狼の言葉によれば弥太は呪いに蝕まれているようだ。

私の呟きにリゲルは不機嫌そうな顔から一転、楽しげに頬を緩めた。


「本当はステラ、君を呪うつもりだったんだけどね?そこのカラスがことごとく邪魔してくるからウザくて呪っちゃった。大部蝕まれてるからもうそんなに長くないんじゃないかな」


「おのれ…貴様ぁっ!」


銀狼が牙を向き飛びかかる。

リゲルは肩を竦めため息をつくと、払い除けるような仕草をした。それと同時に銀狼の体が壁に打ち付けられる。


「ぐ、あっ」


「銀狼っ!!」


マオが駆け寄ろうとするが一瞬で距離を詰めたリゲルに寄って捕まってしまう。


「離しなさいよっ!」


「マオ!」


……このままじゃまずい…待機してる皆に知らせないと


私はリゲルに気が付かれないようにアステルから預かっていたガラス玉に魔力を込める。

これで増援がくるはずだ。


リゲルはこちらに気が付くこと無く、捕まえたマオの腰に腕を回して拘束の魔法をかけた。するとマオの手足は鎖で縛られてしまう。


「何よ、こんなものっ!」


鎖に噛み付き外そうと必死になるマオにリゲルは満足げに頬を寄せる。


「無駄だよ、それは簡単には解けない拘束魔法。ようやく……ようやく貴女を手にいれることが出来た、ずっと貴女が欲しかったんだ」


まるで恋人を見詰めるような熱の籠った視線を向けるリゲル。

私にはマオが鳥肌を立てたのが見えたけれどリゲルには見えていないらしい。


「……む、無理無理無理無理!!こいつ無理ー!!気持ち悪い!」


マオの全力の拒否にリゲルは恍惚の笑みを浮かべる。


「はぁ…堪らない。その拒絶すらも愛して僕だけのものにしてあげるよ…まずはステラを殺して君を縛る名前の契約から自由にしてあげる」


「言葉が通じてない!?通訳!誰か通訳……やっぱしなくていい!気持ち悪すぎ!!触るな変態!」



………なるほど、こいつはめんどくさい…



どうやらリゲルの目的はマオらしい。

その為に私を狙い、私を守ろうとする弥太をこんな目に遭わせたと。


「悪役は死に損ないのカラス共々、葬ってあげるよ」


「ステラちゃん!」


マオの声に顔を上げればリゲルが攻撃魔法の塊をこちらに向けて発射するところだった。



馬鹿ねぇ、そんなものここで撃ったら自分も無事じゃすまないって分からないのかしら



最初に出てきたのはそんな感想。

あれを消す為には塊に送り込まれている力を絶てばいい、そうすればあのタイプの攻撃魔法は消滅させられる。リゲルの隣には丁度装飾品の甲冑がある、あの位置からならマオを傷付けることなくリゲルの力を絶てるはずだ。

私は手を前に出すと氷柱をイメージして魔法で作り上げる。


「そんなもので最大まで強化された僕の魔法に反撃出来るとでも思ってるの?」


「えぇ、充分よ」


私がそう言うとリゲルの顔が醜く歪む。


「調子に乗るなよ!悪役令嬢ごときが!!」



女の子受けする綺麗な顔もここまで歪むと残念ね



私はリゲルに対して怒っているのだ。

そうは見えないかもしれないが、体が熱く腹部がもやつく。腸が煮えくり返るというのはこういう気持ちをいうのだろうか。



「…貴方、ほんっとうにめんどくさいのよ」


ため息混じりに告げるとリゲルの横にある甲冑目掛けて発射した。


「マオ、避けて!!」


「なっ!?」


私の声にマオは隙をついてリゲルから離れる。

氷柱は甲冑に命中しその衝撃で甲冑が手にしていた斧が攻撃魔法に力を送っていたリゲルの腕を切断した。



「ぐ、あああぁぁっ!!!」



ぼとりと腕が落ち血が溢れリゲルが叫び声をあげる。

同時にリゲルから魔力を絶たれた攻撃魔法は消滅し、マオを捉えていた拘束魔法も霧散した。


「うっわ、グロ…」


マオがポツリと呟く。

私としては自分を殺そうとした人間を腕一本で許してあげるのだから感謝してほしいくらいだ。


「正当防衛だから仕方ないわよ」


しれっと口にした私をマオがなんとも言えない表情で見つめていた。

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