第46話 めんどくさい物を、壊す。

ルトナ家の屋敷には私、マオ、銀狼で屋敷に忍び込むことにした。

弥太の無事を確認しないことには迂闊に兵を送りこめないというニクスの判断だ。


マオと銀狼は動物化していれば小回りもきくため弥太の捜索がしやすい。

私はもし弥太が怪我をしていた時にすぐ手当て出来るようにと捜索に志願した。

苦しそうな顔をしていた弥太の事が頭から離れなかったのが理由でもある。


「弥太殿が見つかったらこれに魔力を流し込んでください」


屋敷に忍び込む直前、アステルは私に小さなガラス玉を渡してきた。


「こちらに魔力を流すと対となるこちらが光る仕組みになっています。弥太殿が見つかったらすぐに私達も踏み込みます……どうかお気をつけて」


私はガラス玉を手のひらに握り混むとこくりと頷いた。


「お姉様…無理しないで」


屋敷に視線を向ける私にスピカが心配そうに呟く。



…正直なところうまく行くのか不安の方が大きいし、怖い…そりゃそうよね、自分を殺そうとした人の所に乗り込むんだもの…

でも、自分の命を狙われるより…弥太を失う事の方がよっぽど怖い…

弥太にはたくさん助けられてきた、今度は私が弥太を助ける



「絶対大丈夫よ、スピカ。私の魔力は最強なんだから弥太一人余裕で助けられるわ」


自分にも言い聞かせるようにそう告げて笑顔を見せる。昔の私ならこんな風に胸を張って言葉にすることなんて出来なかった。でも今は違う。

そんな私にスピカは大きく頷いた。


「うん、私のお姉様は最強に素敵なお姉様だから絶対に大丈夫よ!」


微笑み返してくれたスピカに見送られ私達は屋敷へと忍び込んだ。






◇◇◇


屋敷に入る前に私は自分とマオ、銀狼に姿を消す魔法をかけ裏口からこっそり中に入る。

屋敷の中では使用人が働いているが私達が見つかることはない。


「銀狼、弥太の匂いとかわかる?」


「……!こちらから僅かに弥太の匂いがする!」


声を潜めて尋ねると銀狼は匂いを辿って廊下を進む。

たどり着いたのは書斎のような部屋だった。部屋には誰も居らず、奥へ続く扉がひとつある。


「あの向こうだ」


……この向こうに弥太が…どうか無事でいて!


焦る気持ちを押さえつけ慎重にドアを開ける。鍵はかけられていなかったのかすんなり開いた。

中の様子を伺うと人の姿は見えない、けれど部屋の角に小さな鳥籠を見つけた。その中に横たわる黒い―――


「弥太!!」


視界に入ったその姿に飛び出しかけた私を銀狼が制する。


「ステラ殿、不用意に近付かない方がいい。なにか嫌な匂いがする」


「ちょっと待って」


銀狼が鼻をひくつかせるとマオが人型に変化し、書斎から適当な紙を持ってくると丸めて鳥籠の方に投げた。

するとそれはパシンと弾かれこちらに飛んできた。

紙は僅かに焦げている。どうやら近付けない様に魔法がかけられているらしい。


「どうする?迂闊に近付けば危ないわよ」


マオが憎らしげに鳥籠の方を睨んだ。


「……私があれを解除してみる」


「出来る?」


その言葉にマオが首をかしげるが私は心配させないように笑って見せる。


「大丈夫。この中で解除できるのは私だけだし…絶対に弥太を助けたいもの」


私が声をかけてもピクリとも反応しない弥太に不安が募るけれど、それで尻込みしても事態が好転しない事は明白だ。



解除出来るかなんて正直わからない…

でも、弥太の事だけは諦めたくない

あんなめんどくさそうなもの、壊してやるんだから!



決意を固め私は自分が知りうる限りの解除魔法をぶつけた。

そのうちいくつかが効いたのだろう、薄い氷が割れるような音と共に見えない壁にヒビが入りくだけ散った。


「……やった…の?」


「ふむ…もう嫌な匂いはしない、恐らく大丈夫だろう」


銀狼が頷くのを確認して鳥籠にそっと近付き扉を開ける。


「弥太…?助けに来たよ!」


声をかけるが弥太はピクリとも動かない。瞳は閉じられ、体はぐったりと横たえられたままだ。

そっと手を伸ばして小さな体を抱き上げると呼吸しているのがわかった。


「弥太…?ねぇ…弥太ってば」


「…これは」


繰り返し弥太を呼ぶが反応がない。

銀狼が近付いてくん、と鼻を鳴らした瞬間険しい顔付きになる。

その時だ。


「まさかあれを破っちゃうなんて吃驚したなぁ。悪役補正で能力強化でもされてるわけ?」



後ろから聞こえた声に振り返れば不機嫌そうなリゲル・ルトナが出口を塞いでいた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る