第45話 自分が狙われるとか、めんどくさい。
「弥太が何処にいるか知ってるの!?お願い、教えてスピカ!」
「お、お姉様…?」
どうしてスピカが弥太の居場所を知ってるのか危ないとはどういうことなのか。
私が問い詰めるようにスピカの肩を掴むとアステルがそっと私の手を剥がした。
「ステラ嬢、事情は行きながら説明します。こちらへ」
そう言って私達は馬車へと案内された。
馬車の中ではニクスとスピカが隣に座り、私はアステルの隣に座る。
マオと銀狼は動物の姿に戻りマオはスピカの膝の上に、銀狼は私の足元にお座りした状態で乗り込む。すると馬車はどこかに向かって走り出した。
「弥太殿のいる場所に行く前に、私から状況を説明します。ステラ嬢は弥太殿から何か聞いていますか?」
「……何も聞いてません。今朝、急に居なくなったので…」
アステルの問いに首を横に振ると彼は視線を伏せて「そうですか」と短く呟く。
「ステラ嬢、リゲル・ルトナをご存知で?」
「ルトナ様…ですか。もちろん存じ上げております」
アステルに尋ねられ頷く。
ルトナ家はアステルのフォーン家と同じく三大公爵家のひとつである。
そしてリゲル・ルトナと言うのは私のひとつ下の学年に在籍している男子生徒で、スピカの攻略対象の一人であったはず。
社交界での面識は全くといって言いほど無かったが、校内で見掛ける程度には知っている。
ここで名前があがると言うことは、その人物が弥太が居なくなったのと関係しているのか。
「どうも…リゲルは貴女の命を狙っているようなのです」
「私を?」
……命を狙われるほど面識も無いし関わったことすらないのに?
ほぼ初対面の相手から狙われるとか、なにそれめんどくさい……
「…王家の情報網を使って密かに調べさせた、リゲルがステラ嬢の命を狙っているのは確かだよ」
アステルの言葉をニクスが裏付ける。
「ま、待ってください。ルトナ様とは全くといって言いほど面識や関わりはないのですよ?それなのになぜ…」
「理由は分かりません、いくら調べてもそれだけは分からなかった……けれどリゲルは何らかの形で貴女に接触し、呪いをかけようとした。それに気が付いたのが弥太殿です。ステラ嬢に最近接触してきた少年がいると聞いています、恐らくそれがリゲルです」
そう言われて思い浮かぶのは城下町でぶつかった少年だ。
けれど彼は私の知っているリゲルとはかけ離れている。
その事を告げるとアステルが渋い顔をした。
「…リゲルは強力な魔力強化薬を買い集めていました。薬を使ってステラ嬢にも見破れない視覚操作魔法、もしくは錯覚魔法を使ったと思われます。これに見覚えは?」
アステルは懐から一枚のハンカチを取り出した。それは無くしたと思っていた少年のハンカチ。
「…あります。城下町であった少年から借りたものです」
「これには呪いがかけられていました。これを持つ人間を殺す強い呪いです。今は効力を失っていますが、弥太殿はこれに気がついて私に協力を求めてきたんです」
「弥太が……」
弥太は私の知らないところで私を守ろうと動いてくれていたらしい。
「弥太殿は犯人がリゲルであると突き止め、ルトナ家の警備が手薄になる昨晩を狙って忍び込みリゲルを捕まえるつもりでいたんです。リゲルを引き渡して貰う為、私もルトナ家の近くで待機していたのですが……弥太殿は朝になっても屋敷から出てきませんでした。昨晩の内に乗り込めればよかったのですが…無事が確認できない事には迂闊に動けず…」
忍び込んだまま屋敷から出てこない…その言葉に何か嫌な予感がして私はぐっと手を握る。
「弥太は……無事なんですか?」
「……分かりません」
目を伏せて俯くアステルを庇うようにスピカが口を開く。
「私も…弥太さんとフォーン様の話をこっそり聞いて知っていたの…だからニクス殿下に協力してもらって情報を集めたんだけど…それくらいしかできなくて…」
申し訳なさそうに俯くスピカの膝でマオがぴしっと背筋を伸ばした。
「なるほどねぇ…黒幕を捕まえようとして逆に捕まっちゃった、てところかしら。馬鹿よね」
「師匠、そんな言い方…」
スピカがマオを注意しようとするがマオはつんっとそっぽを向く。
「馬鹿よ、馬鹿。大馬鹿。なんのために私たちがいると思ってるの?仲間に黙って一人で格好つけようとしてこの様なんて馬鹿以外のなにもでもないわ」
「今回ばかりは我もマオに同意だ。我ら三匹、共にステラ殿を主に持つ仲間。いくら主を守るためとは言え、我らに相談無しとは薄情だ」
銀狼もふんすと不満げに鼻をならしている。
「弥太みたいな大馬鹿は帰ったらお仕置きよ、爪研ぎの刑だわ!ね、ステラちゃん!」
「マオ……」
私の不安が伝わっていたのだろう、銀狼もマオも励ましてくれようとしているのかもしれない。
「これからリゲルの屋敷に乗り込むつもりだ。人を呪い殺そうとするリゲルを放って置くことはできない…そこでステラ嬢、弥太殿救出のために協力してくれないか?」
「もちろんです、絶対に弥太を助けます」
こちらを見つめてくるニクスを真っ直ぐ見つめ返して私は頷いた。
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