第44話 迷子の、ヤタガラス。
「もうっ!ほんと何処に行ったのよあの鳥頭!!」
「落ち着けマオ、喚いたところで見つからない。弥太の魔力をたどれない今、地道に探すしかないだろう」
喚いているマオの少し後ろを歩きながら私は周囲を見回して弥太を探していた。
探しながら思い出すのは昨晩の事。
就寝しようとしていた私の部屋に弥太は訪れていたのだ。
――――
話があるといってやって来た弥太を部屋の中に招き入れる。
「……弥太?」
部屋に入ってからぴくりとも動かない弥太が心配になり、そっと頬に手を伸ばしてみると驚くほどに冷たかった。
「水浴びでもしたの?すごく冷たい」
慌てて毛布を持ってこようと踵を返せば突然伸びてきた腕に抱きすくめられた。
「大丈夫だ。気にすんな」
囁くような低い声が聞こえて耳が急に熱をもったように熱くなる。耳だけではなく、心臓の鼓動が早くなり顔全体が熱い気がする。
近いどころか密着…ゼロ距離すぎない!?
顔だけでなく体も冷えているのかひんやりしている。
心配ではあるが避けられていた分の距離感を一気に縮められると動揺を隠せない。
「で、でもこのままじゃ体に良くないわ…人間と違って弥太達の体は頑丈なのかもしれないけど風邪引くかもしれないし…」
声が裏返りそうになるのを押さえながら告げるが弥太は離してくれない。
「ステラ…俺はお前に会えて良かった」
ぽつりと弥太が呟く。
「弱いくせに強がりで、全部抱え込んで吐き出し方も知らなくて……その癖、変なとこで素直で…お前といるとほんと退屈しねぇわ」
「それは…誉められているのかしら」
「おー、誉めてるぞ。めちゃめちゃ誉めてる。大変なこと辛い事たくさんあったのにちゃんと生きようとしてる…ほんとすげぇよ、ステラは偉い」
くくっと楽しげに笑う声が聞こえる。
弥太の笑い声を聞くのは久しぶりな気がした。
「私だって弥太に会えた事、感謝してるのよ。お陰でマオや銀狼にも出会えた…それに弥太はずっと逃げたしたかった場所から連れ出してくれたもの」
「もっと感謝してもいいんだぞ?」
「そうね。ありがとう弥太」
尊大な台詞につい笑みが溢れる。
また弥太とこんな風に話せるのは嬉しかった。
「…でもよかった。弥太ここ数日私のこと避けてたから嫌われたんじゃないかって心配してたのよ」
「は?俺がお前を嫌うとかあり得ねぇから。避けてた理由は……言えねぇけど、ステラを嫌うなんて絶対ない」
やはり何か理由があるのだろう。
少なくとも嫌われていなかったと分かった、それで充分だ。
ひと安心していると後ろで弥太が小さく呻いた。苦しいのか呼吸がわずかに荒い気がする。
やはり体が冷えたことで体調を崩したのかもしれない。
「大丈夫?具合が悪いならすぐに寝ないと…」
「大丈夫だ…つっても、お前は心配しそうだな」
弥太の笑う声にもちろんだと頷いて少し緩んだ腕の中で向きを変えると額に何かが触れた。
「今日はもう寝る、おやすみステラ」
そう言い残して弥太は自分の部屋に戻っていった。
額にキスされたと気が付いたのは弥太の姿が見えなくなってからだ。
――――――
動揺してなかなか寝付けないまま朝になり、弥太の具合を見に部屋に行ったら彼の姿はもう無かった。
弥太が何も言わずに居なくなったことなどない。具合が悪そうだったのに何処に行ったのか。
心配になった私はマオと銀狼に手伝ってもらい、村の周辺を探していた。
「もうっ!全然見つからないっ!銀狼、弥太の匂いとか辿れないの?」
「先程から探してはいるのだが地面には残っていない、恐らく匂いを残さぬように空を飛んだのだろう」
「なんでそんなとこばっかり知恵を使うのよ!帰ってきたら羽で織物させてやるんだから!」
むきーっとマオが喚くのを横目に私はなんだか胸がざわついていた。
弥太、一体どこにいるの?
どこかで倒れたりしてないといいけど…もし倒れたりしたところを野犬に襲われでもしたら…
さっきから頭の中に嫌な考えばかり過ってしまう。それを振り払うようにばちんと頬を叩くと草の影や木の陰に弥太の姿がないかと必死に探した。
探し始めて半日過ぎた頃、一度村に戻った私達の所にスピカがやって来た。
今日はニクスとアステルを連れている。
「ごめんなさいスピカ…今日はちょっと忙しくて…」
相手をすることは出来ないと告げた私にスピカは首を横に振る。
「今日は遊びに来たんじゃないの。お姉様、弥太さんが…危ないかもしれない」
スピカの口から出た弥太の名前に私は息を飲んだ。
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