第40話 仲裁は、めんどくさい。

「お姉様、師匠!こんにちは!」


天気のいい昼下がり、マオと一緒に刺繍と言う名の内職をしているとスピカが遊びにきた。


「いらっしゃい、スピカ。今日学校は?」


「テスト期間だから午前中で終わったの。だから遊びに来ちゃった」


そう言って微笑むスピカの後ろにはアステルが居る。


「…スピカ嬢に誘われてご一緒させて頂きました。ステラ嬢…その、よければこちらを」


挨拶もそこそこにアステルから差し出されたのはマカロンに良く似たお菓子。


「お菓子ー!スピカちゃん、お茶しよー!」


私が受け取るよりも先にマオが目を輝かせてアステルの手からお菓子を奪取すると、スピカを連れて自分の部屋へと行ってしまった。

お茶と言うのは建前でおそらくスピカからその後の恋愛事情を聞き出すつもりなのだろう。


「すみませんフォーン様…マオはお菓子に目がなくて…」


「いえ、お気になさらず」


マオの態度を詫びるとアステルは苦笑浮かべ首を横に振った。

私は彼を客室に通すとお茶を入れてもてなした。


「…ここでの暮らしはどうですか?何か不便なことはありませんか?必要なものがあれば手配しますからいつでもおっしゃってください」


私の淹れたお茶を飲みながらアステルは気遣いの言葉を口にする。誤解されていた頃に比べれば私への態度がだいぶ柔らかくなっている気がした。

そのお陰か私は彼に対してめんどくさいと思わなくなっている。


「お気遣いありがとうございます、大丈夫ですわ。貴族の生活に比べれば不便もありますけれど…今の暮らしの方が心が満たされてる気がするんです」


「……そうですか。確かに…今の貴女は表情豊かでつい見とれてしまいます」


アステルにそう言われ思わず自分の顔に触れてみる。

特に意識したつもりはないが表情豊かになっているらしい。



それにしてもさらりと女性受けしそうな台詞を言えるのはさすがと言うべきかしら…



変なところで感心しながらアステルと会話していると突然、上から弥太が降りてきた。


「小僧、ステラに近付くな」


弥太は相変わらずアステルと気が合わないようだ。

なるべく喧嘩はしないで欲しい、仲裁はめんどくさい。


「…以前からお伝えしていますがそれを決めるのはステラ嬢であり、貴方ではありません」


「減らず口め!ステラは俺のっ………ん?」


言い返そうとしてアステルに詰め寄った弥太は眉を寄せて首を傾げると、いきなりアステルに抱きついた。


「な、何を!?」


「いいから動くな」


抱き付くほどに弥太はアステルを気に入っていたのだろうかとじっとその様子を眺めていると、やがて弥太はアステルを解放した。


「…私は男に興味はありませんよ?」


「気色悪い勘違いしてんじゃねぇよ。それよりちょっと顔貸せ、話がある」


「ちょっ!?襟を引っ張らないでください!首、首締まっ…!?」


「いいから来い。ステラ、こいつ借りるぞー」


私の返事も待たずに弥太はアステルの襟をひっぱり何処かへと連れていってしまう。



……本当は弥太もアステルと仲良くしたいのかしら?

気になるけど…友達だからってあまり干渉するのは良くないわね

…もしかして本当に禁断の愛?いや、まさかそんな……まさかねぇ



もしそうならひっそりと応援しよう、なんて事を考えながら私は二人を見送った。

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