第34話 私の、帰る場所。
「アステル、魔力検知器の様子は?」
ニクスに声をかけられたアステルは肩から下げた鞄から手のひらサイズの方位磁石に似た道具を取り出す。
方角を指し示す針はくるくると回って役目を果たしていないようだ。
「先程からこの様子で……どうも調子が悪いようです」
「国宝とはいえ、あまり手入れされてなかったのだろうね」
ニクスが小さくため息をついてスピカに視線を向ける。
「とにかく村の人達にこの辺りでステラ嬢を見掛けなかったか聞いてみよう」
「はい…」
力なく頷くスピカの肩をそっと支えながらニクスはアステルと護衛を連れて、近くの民家へと歩いていった。
「……どうする?追いかけるか?」
スピカ達が村人達と会話している様子を眺めながら弥太が首をかしげる。
「…止めておく。討伐って言うのは噂だったみたいだし家に帰りましょう」
そう告げると弥太は驚いたように目を瞬かせた。
「…お前にとって俺達のあの家が帰る場所ってことでいいんだな?」
弥太の言葉に今度は私が驚いた。
私は弥太達と住んでいるあの家が自分の帰りたい場所だと無意識に思っていたのだ。目の前にスピカがいるのに、姿を現して彼女を安心させるよりもあの場所に帰りたいと。
スピカを大事に思う気持ちに変わりはない、でも同じくらい…もしかしたらそれ以上に、私は皆といられるあの場所を大事に思ってるのかも…
今まで私が大事に思っていたのはスピカだけだった、スピカが居て笑ってくれるのが私の唯一。
けれど、今は違う。
弥太、マオ、銀狼…私を迎え入れてくれた村の人達…皆で過ごすあの家。
それが今の私が大事に思うもの。
「弥太の言う通りね…皆がいるあの場所が私の帰りたい場所だわ」
「なら帰ろうぜ、俺達の家に」
にっと笑う弥太に私は頷く。
けれどその前にきちんとスピカと話さなくてはいけない。そうしなければ彼女は私を心配したまま探し続けるだろう。
私は大丈夫だからって伝えないと…
両親の事が少し気になるけど、あの人達はスピカには甘いから…私のようにはならないでしょうし…
さすがのあの人達でも王子様がスピカの事を気に入ってるって知ったら、あの子に下手なことはしなと思うもの
「弥太、帰る前に妹と話をしたいの。少しだけ待ってくれる?」
「妹……ってあれか、あの真ん中にいる女」
弥太は確認するように目を細めて頷く。
「わかった、ただし俺はステラの傍から離れねぇからな。もし何かあった時守れねぇのは嫌だ」
弥太なりに私を心配してくれているらしい。
その気持ちが嬉しくて頬が緩む。
「ありがとう、弥太」
弛んだ顔のまま礼を述べると、弥太はほんのりと頬を染めてぷいっとそっぽを向いてしまった。
面と向かってお礼を言われたのが恥ずかしいのだろう、その様子に心が暖かくなるのを感じながら私達はスピカ達が戻ってくるのを待った。
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