第33話 悲観的になるのは、めんどくさい。

弥太から噂話を聞いた翌日、私は朝早くに家を抜け出していた。

まだ朝日が上りはじめた時間だ、皆よく眠っていることだろう。


弥太の話を聞いてぐるぐると考え結果、私はそっとこの村を出ていくことにした。

お世話になった人達に迷惑はかけられない。

村から出て暫く歩いた所で自分の現在地を確認するため、高台に上がろうと顔を上げた所で私は動きを止めた。


「よぉ」


少し離れた木の枝にカラス姿の弥太が止まっていたからだ。


「こんな朝っぱらからどこ行くんだ?」


「えー……っと」


上手い言い訳を考えながら、とりあえず木から離れる。

すると弥太は木の枝から下りて人の姿に変化した。


「…まさか俺が言った噂を真に受けて『村の人達に迷惑はかけられないからここから出ていこう』とか思って出ていこうとしてた訳じゃないよな?」



わぁ…弥太、すごーい……エスパーみたい…



言い訳以前に弥太には私の浅い考えなどお見通しのようだ。

図星の為、言葉に詰まった私を見て弥太は呆れたようにため息をついた。


「図星かよ。あのな、俺達はそんな事これっぽっちも思わねぇって」


「で、でも…」


「つか迷惑とか思うならそもそもステラをここに連れてきたりしてねぇよ」


「それは…そうかもしれないけど」


「かもしれない、じゃなくてそうなんだよ」


ハッキリ言われてしまいまた言葉を返せずにいるとくしゃりと頭を撫でられた。


「…もし噂が本当なら…村の人達も私を匿ったせいで酷い目にあわされるかもしれない…そんなの嫌よ」


「噂が本当かどうかもわかんねぇのに心配したってしかたねぇだろ」


弥太の言葉はもっともだ、けれどどうしても不安が拭えない。


「そんなに心配なら直接確かめに行くか?」


その言葉に顔をあげると弥太がじっと私を見詰めていた。


「もし噂が間違ってたらまた村に戻ってゆっくり考えりゃいいし、本当だったらその時は――俺がステラを守るから一緒に来い」


弥太はにっと笑って見せるとこちらに手を差し出す。

その笑顔にこのまま弥太とずっと一緒なのも悪くないと思えた。



そうよね…悲観的になったって何も変わらない、それならもっと楽に考えてもいいのかも

まずは事実を確認、後の事はそれから考えたって遅くない

…弥太は凄いな、いつも私の気持ちを前向きにさせてくれる…

それに弥太に言われるとあんなに悩んでいた事が些細なことに思えるから不思議よね



「…ありがとう、弥太。確かめに行くわ」


弥太の手に自分の手を重ねて私達は人里のある方へと向かうことにした。







◇◇◇


森の中をそのまま進むのは迷ってしまう可能性があったので私は弥太には抱き抱えられ、空を移動していた。

弥太は人の姿になっても飛べるらしい、背中の羽は飾りじゃなかったようだ。


「あ、弥太!あそこ、王家の馬車が見える」


「行ってみるか」


人のいる場所を目指して進んでいくと小さな村を見つけた。その入り口に見たことのある王家の馬車が止まっている。

護衛の量からするにあれはニクスの馬車だろう。


弥太は少し離れた場所に着陸すると私をそっと地面に降ろす。

村人達に見つからないように私は自分と弥太に姿を隠す魔法をかけた。あまり長時間使えるものではないが情報を集めるにはこれで充分だ。

姿を隠しているとはいえ、見つからないように慎重になりながら私達は王家の馬車に近付いた。



「お姉様の気配………!」



その時だった、王家の馬車からスピカが飛び出してきたのだ。


「ステラ嬢が見つかったのですか!?」


スピカに続いてアステル、そしてニクスが馬車から降りてくる。


「……お姉様がいた気がしたんです…けど気のせいだったみたいですね」


私達の姿が見えていないスピカは悲しげに目を伏せた。

その表情に、今すぐ姿を表してしまいたくなるが噂を確かめないうちは魔法を解除できない。


私は馬車の裏側に隠れてそっと様子を伺う事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る