第35話 喧嘩に巻き込まれるのは、めんどくさい。
スピカ達が戻ってくるタイミングを見計らって姿を隠していた魔法を解除した。
「スピカ」
名前を呼べばスピカははっと顔を上げて目を見開く。
ニクス達も私の姿を見つけ安堵の表情を浮かべるが、すぐ傍にいた弥太に対して身構えた。
「お姉様……っ!」
スピカは私に駆け寄ろうとするが弥太の姿を見て足を止めた。
「その…人は?」
「彼は弥太、私の友達よ。大丈夫、悪い人じゃないし噛みついたりしないわ」
スピカは弥太を警戒しながら私の方にやってくると手を伸ばしてぎゅっと抱きついてきた。
「良かった無事で…!…怪我、してない?どこか痛かったり苦しかったりしない?」
「えぇ、大丈夫よ」
安心させようと頭を撫でてやるとスピカは安堵したように息を漏らす。
それを見ていたニクスが私達に一歩近付いてきた。
「ステラ嬢、無事で良かった」
「全くです…あれほど騒ぎを起こしておきながら平然と……しかし無事で良かった」
意外な事に二人とも私を心配してくれたらしい。
……って、そんなわけないか
スピカが私を心配してくれたからその付き添いなのよね、きっと
そうでなかったら私の事を心配する理由なんてないもの
ついそんな風に考えてしまうのは私の悪い癖なのだろう。
スピカから少し体を離して、二人に頭を下げる。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。私の身を案じて下さった事感謝致します……けれど、私は戻るつもりはありません」
「…え、どうして……お姉様?」
私の言葉に最初に反応したのはスピカだった。瞳に目一杯涙を溜めてこちらを見つめている。
「お姉様は…そこの人に拐われたのに?誘拐犯と一緒にいるなんて…危ないよ?」
「違うの、スピカ。殿下とフォーン様も私の話を聞いて下さい、彼は……弥太は私を誘拐した訳ではないのです」
「誘拐……じゃない?」
スピカが目を瞬かせるとはらりと目に溜まっていた涙が落ちる。それを指先で拭うと私は微笑んで見せた。
「そうよ、元々私が言葉選びを間違えたせいなのだけど…弥太達は私を助けようとしてくれたの」
そして私はあの時の詳細とステラ達に本来の場所に戻って生活するより、こちらでこのまま弥太達と生活したいと話した。あの場所には帰りたくないと。
一人だったら伝えることができず、流されるままあの家に戻っていたかもしれない。けれど私の傍には弥太がいる。
たったそれだけの事は私の気持ちを言葉にする勇気をくれた。
言葉を選ぶのは大変だったけれど、私の意思をうまく伝えることはできたと思う。
てっきり途中で話を遮って容赦なく連れていかれるかもしれないと考えていたが、ニクスもアステルもそんな事はしなかった。
「……そうか、ならばステラ嬢のご両親には私が誤魔化しておこう」
ニクスは口を開くとそう告げる。まさか協力してくれるなんて思っていなかったから驚いた。
「しかし、殿下にそのような……」
「いいんだ。私もスピカ嬢に言われるまで、ステラ嬢を悪く思い込んでいた……せめてもの償いだよ。なんて、私の自己満足かもしれないけど」
私は慌てて首を横に振る。
王子様からの言葉は私やスピカが両親に話すより効力がある、願ってもない事だ。
「ありがとうございます、殿下」
「………私も協力させてください」
私がニクスに頭を下げると同時に口を開いたのはアステルだ。
「最近まで殿下の様に……貴女を誤解していました、それどころか直接責め立てるような事を……本当に申し訳ありません」
「お気に為さらないで下さい、フォーン様。今までの事があったから私は自分の居場所を見つけることが出来たのです」
そう言うとアステルは少し悲しそうな顔で微笑み、傍に来てこちらを見つめる。
「……また、会いに来てもいいですか?私は…今度こそ本当の貴女を知りたい」
つまり、友達になりたいという事かしら?
「えぇ、構いませ……わっ!?」
頷こうとした所で後ろにぐいっと引っ張られた。何事かと首を動かし振り替えれば弥太が私の体を自分の方に引き寄せたらしい。
「小僧、近すぎるぞ」
不機嫌そうな声が上から降ってきた。
「……ステラ嬢のご友人である貴方は彼女の交遊関係に口を出す権利などないのでは?」
「……ほぉ、俺に喧嘩売ろうってか?」
「事実を述べたまでです。決めるのはステラ嬢ですから」
睨み合う二人の間に火花が見えた気がする。
喧嘩するのは勝手だが喧嘩に巻き込まれるのはめんどくさい、私は弥太とアステルから少し離れたスピカに向き合った。
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