第32話 王子様はヒロインを攻略したい-ニクス視点-
魔力を持たない女子生徒、スピカ・カークラ。
彼女に興味を持ったのは最近だ。
昼時に姉妹で食事をしている際、ほとんど無表情な姉に対して楽しそうに語りかける姿を見て『なぜ、自分の事を見てくれない相手にそんなに楽しげに接する事ができるのか』と思ったのが切っ掛け。
双子と言えど妹のスピカに比べ姉のステラは言葉も鋭く、貴族令嬢でありながら愛想も全くない。
なのになぜそんなに楽しげに笑えるのか。
それがとても気になり、私は彼女達に接触した。
接触してみて分かった事はステラは私が思っていたよりずっと、スピカを大事に思っていると言うことだ。
そしてスピカもそんな姉を大事に思っている。
私は彼女達の事を噂などに翻弄されて正しく理解しようとしなかったのだ、そんな自分を顧みて恥じた。
いずれ全ての国民を率いていく王になる人間として、人を知り自分で判断する力を養わなければいけないと感じた。
けれどその前に、私の無知でスピカには不愉快な思いをさせてしまったことを詫びなければ。
けれど彼女は簡単には頷かなかった。まさか断られるなんて思っていなかった私は自分の至らなさに思わず眉間にシワを寄せてしまう。
断られて当然だ、それだけ嫌な思いをさせたのに……詫びたいといいながらこれでは私の自己満足ではないか…本当に私は考えが足りないな
自己嫌悪しているとステラがスピカに何か話しているのが聞こえた。
その後、渋々といった様子でスピカは私の申し出を受け入れてくれたのだ。
どうやら気を使わせてしまったらしい……。
そんな申し訳無い気持ちも込め、私はステラに礼を述べた。
お詫びと称して人気があると言うカフェにやった来たが、そこで私の心は彼女に強く惹き付けられる事になる。
何故かと言えばもともと愛らしいと思っていた所に加え、動作がいちいち可愛いのだ。
笑われてむくれる所も、ケーキひとつに喜ぶ所も、ステラの話を振れば嬉しそうに語り出す所も可愛らしい。多くの人に好かれる理由もわかる気がした。
彼女を見送る時にもこのままずっと一緒にいられたならどんなに良いだろうと思ってしまうほどに私は惹き付けられていた。
翌日、アステルにどれほどスピカが可愛らしかったのかを語って聞かせれば心底呆れたと言うようにため息をつかれた。
「そんな事を聞かせるために殿下はわざわざ私を早朝から呼び出したと?」
言い方にトゲがある。
「こんなことを話せるのはアステルくらいだからな、許してくれ」
そう言って笑えば肩を竦められた。
「…まぁ…ステラ嬢が悪人ではないという点については同意します。噂などあてにならない」
ぽつりと呟かれた言葉に思わず目を瞬かせる。
女性に全く興味のないアステルがそんな事を言うのは珍しい。
「…アステル、ステラ嬢が気になるのかい?」
率直に尋ねてみればぎろりと睨まれる。しかし耳が赤く染まっているから図星なのだろう。
器用なのか不器用なのかわからない男だな…
自分の事もそうだが幼馴染の恋路も気になる。
何せ互いに初恋だ。
成就しない、という言い伝えもあるがそんなもの自分の努力次第だろう。
照れ隠しにこちらを睨む友人の肩をぽんぽんと叩きながら私は「勝負はこれからだ」と気合いをいれた。
けれどその日、ステラが誘拐されるという事件が起きた。
真っ先に連れ去られた姉を追いかける彼女を慌てて止める。ステラの魔力はかなり強い、いざとなれば自分で逃げ出す事もできるだろう、それに彼女を誘拐した者達と周りのやり取りを見ていたが彼らはステラを周りの悪意から守ろうとしていた様に見えた。
彼らはステラの味方か――それとも敵なのか。
どちらにしても何の準備もなしに乗り込むのは危険だ。
そう思い必死にスピカを止めるが彼女は酷く取り乱していた。
あれだけ大事に思っていた姉がさらわれたのだから、無理もない。
そんなスピカの必死さが私にはとてつもなく愛しく思えた。だから『恋人』の振りを提案した。
彼女の姉を探すのにそんなことをする必要は全くなかったのだが利用できる、と考えてしまったのだ。
我ながら悪人の様だと自嘲してしまうがスピカはその提案を受け入れた。
期限付きの偽りの恋人。
もちろん期限が来れば彼女を開放するつもりではある。
…滑稽だな、こんな形でしか彼女を手元に置けないなんて…
けれど今は少しでも、彼女の傍に…
そんな自分勝手なことを考えながら私は彼女と『恋人』の契約を交わした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます