第29話 自分が、めんどくさい。

子供達を銀狼とマオに任せ私は弥太と家の裏手に移動する。


「……さっき、こっそりステラの家を見てきたんだが…どうも面倒な事になってるみたいだ」


「どういう事?」


首をかしげる私に弥太は私の家まで行った理由とそこで見聞きした事を話してくれた。




私が元の家に帰るかどうか悩んでいた事を知っていた弥太は、帰してもいい場所か調べるために学校や住んでた家を偵察に行ったらしい。

そこで聞いたのは悪意に満ちた私の噂だったそうだ。


「ステラ・カークラは魔物を呼び出して契約し、学校を襲わせた」

「ステラ・カークラは有り余る魔力のせいで闇に堕ち魔物の手先となった」

「ステラ・カークラは妹に愛する王子を取られ嫉妬に狂い、妹の命を狙っている」

などなど……。



さすが悪役、というべきかしら?

噂には尾ひれがつくものだけどここまで悪いものばかりって私が悪役だからよね……この世界の悪役システム、かなり優秀だわ

有もしない事を脚色して、人々に誤解を真実と思い込ませる…まるでSNSね



げんなりするどころか寧ろ感心してしまう。


「そんな噂を真に受けたのか分からねぇが、王子がお前を探してるそうだ。街の人間の話じゃ魔女を探しだして討伐するんだと。まぁ、これも噂話だから信憑性はないけどな」



けれど噂話とは言え、もし本当だったら…

それに、私がこの村にいる事がばれたら弥太達だけじゃなく住民達に被害が及ぶかも…



「…噂だって言ってんだろ、気にすんな」


どうやら私は深刻な顔をしてしまっていたらしい。

弥太は明るい声でそう言うとむにっと私の頬を引っ張る。


「………痛い」


抗議の声をあげると今度は引っ張られた頬をさらりと撫でられた。


「ステラ、何か思うことがあったら何でもいいから言葉にしろ。いくら魔力があって、人には無い力を持つ俺達でも人の心の中までは分からない。だから言葉にして、教えてくれ。その為に言葉があるんだからさ」


「……っ…」


弥太の言葉を受けて素直に思ったことを口にしようとしたが、喉元で止まってしまう。



……私のせいで弥太達が酷い目に合わされるかもしれない、なんて言ったら…嫌われたり、ここから追い出されたりするのかな…



彼らがそんな事するはず無いと思いながらもどこかで『もしも』と考えてしまう自分が、素直に言葉にするのを止めていた。


「なんでも…ないわ。大丈夫」


口から出たのは嘘。


「……そうか。何かあったら絶対に言えよ?」


弥太は暫く私の目を見つめていたが、やがてするりと頬から手を離す。



弥太は心配してくれてるのに、素直に言葉にする事すら出来ないなんて……私ってこんなにめんどくさい性格してたのね



そろそろ家に戻ろうと告げる弥太の背中を眺めながら、私は小さなため息をつくのだった。

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