第28話 めんどくさいと思わない場所

学校から連れられてこられたのは彼らの村だった。

あれから一週間、私は村の人達の手伝いをしながら弥太達の住む家で生活している。

村に到着した直後、帰って誤解を解かなければと焦る私に弥太は不思議そうに尋ねてきた。


「そんなにしてまで帰りたい場所なのか?」


弥太は何気なく尋ねただけなのだろう。

普通は肯定するものだと頭で思いながらも出来なかった。

帰れば両親には怒られ言葉の凶器が飛んでくるのは分かりきっているし、学校では飛び出してきた時のように魔女などと批判される。

そんな場所に戻らなければいけないと思った理由はただひとつ―――スピカがいるからだ。



でも、もし……スピカにも拒絶されたら?



スピカに拒絶されたら私があそこに戻る意味が無くなる。

スピカに連絡を取る手段は魔法を使えばいくらでもある、けれど確かめるのが怖かった。

あんな騒ぎを起こして、姉が魔女だと非難されスピカはどう思ったのだろうか…人伝に何を聞いてどう感じるのだろうか。双子なのにさっぱりわからない。

それに加えて私は今後どうするべきなのか…ずるずると考えていたらあっという間に一週間が過ぎてしまった。




「ステラちゃん、これ隣のおばさんが昨日のお手伝いのお礼にってくれたよ」


そう言って帰って来たマオが木の実がたくさん入った籠を差し出してくれる。


「こんなに…これでクッキーを作ってみんなでいただきましょうか」


「やったー!」


満面の笑顔で喜ぶマオにこちらも嬉しくなる。

以前の貴族の暮らしより、大変だけど自分達で生活していくこの暮らしが私には向いているようだ。

近所の人達とも上手くやれているし、何よりここで生活している住民達は誰一人として私を否定しない。

それどころか本当の家族のように扱ってくれる。

分からないことは一から何でも教えてくれたし出来なくても向き不向きがあるからと明るく励ましてくれて時に厳しく、けれど優しい住民達は私を受け入れてくれたのだ。

私がずっと欲しかった家族の姿がここにはあった。

たった一週間だけど、私はここが自分の居たい場所だと感じている。

『居るべき場所』と『居たい場所』は違うものだと初めて知った。

帰らなければという気持ちも薄れていた……ただしスピカの事を除いて。



「おーい、ステラちゃん?次はどうしたらいいの?」


不意にマオに声をかけられ我に返る。

どうやら物思いに耽ってしまったらしい。


「次は好きな形にまとめてくれる?あ、厚さは均等にね」


「はーい!」


形を整えた生地をオーブンに入れ焼き上がるのを待っていると、匂いを嗅ぎ付けたのか近所の子供達が遊びにやって来た。


「こんにちはー!」

「ステラお姉ちゃん、マオお姉ちゃん、あーそぼー」

「いい匂いするねぇ」

「お菓子?お菓子?」


やって来たのはヤタガラスの子供と白い兎の子供がそれぞれ二匹。窓からぴょこっと顔を出している。


「今クッキーを焼いてるの。皆の分もあるから焼き上がったら一緒に食べようね?」


そう言って招き入れると子供達はぱっと目を輝かせた。

最初の頃は動物に人の食べ物を与えていいのか悩んだが、ここの住民達の食生活は人間と同じらしく特に問題はないのだと銀狼が教えてくれた。皆と同じものが食べられるというのは幸せである。


その後焼き上がったクッキーをお茶請けに子供達とおやつの時間を過ごしていると、出掛けていた弥太と銀狼が帰って来た。


「ステラ、ちょっといいか。話がある」


帰って来た弥太はいつになく真剣な顔をしていた。

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