第24話 めんどくさいの、裏側。

「…何言ってるの弥太。私は大丈夫…力が揺らいだのは…さっき階段で躓いちゃって、多分そのせいよ」


「んなわけあるか」


即答された。


「…何があったか俺にはわかんねぇし、ステラが何にそんなに悲しんでるのか分からねぇけど…契約した以上、俺はお前の味方だ。ステラはもう一人じゃねぇ、だから独りになろうとすんな」


その言葉にじわりと視界が歪むのを感じる。

味方――それは私がずっと欲しかったもの、欲しかった言葉。

めんどくさがるふりをして求めてこなかったもの、諦めてきたもの。

望んでしまえば失ってしまう時に耐えられない、昔母にズタボロにされたぬいぐるみのように。



それを弥太は言葉にしてくれた。

押し込めた真っ黒い心がじわりと溶ける。

言葉ひとつでこんなに嬉しいと感じてしまう私は単純なんだろう。

だけど、心を殺すのも生かしてくれるのも心だけなんだ。


「……私の、味方になってくれるの?」


「おう!ヤタガラスの一族は騙すような嘘つかねぇんだぞ。それにマオも銀狼も、俺達みんなステラの味方だ」


恐る恐る顔をあげるとにっと笑う弥太の顔が視界に広がった。

その瞬間、最大限まで歪んだ視界からぽたぽたと水が溢れた。

弥太はそんな私を見て、励ますでもなく慌てふためく訳でもなくただ優しく頭を撫でてくれる。

大きな手のひらは暖かくて涙の止まらない目を弥太の胸に押し付けながら、ふと兄がいたらこんな感じなのだろうかと思った。






◇◇◇

泣いた事で心が落ち着いき、顔をあげると弥太が指先で目元の涙を拭ってくれる。


「…すっきりしたか?」


「少し…」


こくりと頷くと乱暴にわしゃわしゃと頭を撫でられた。それが心地好くてぐりぐりと頭を擦り付ける。

すると弥太の手が止まった。


「弥太?」


不思議に思い見上げると手で目を覆い上を向いていた。


「………何してるの?」


「いや、あー………なんでも、ねぇ。気にすんな」


よく分からないけど本人が何でもないと言ってるなら気にしない様にしよう


そう思い頷くと背中に腕を回されぎゅっと抱き締められる。

私はその中に収まりながら初めて味方ができた喜びを噛み締めていた。






暫くそうやってくっつきながら他愛もない話をしていたが、不意に部屋の外から夕食の支度ができたと知らせる侍女の声がした。

いつの間にかそんな時間になっていたらしい。


「じゃあ、俺は帰るけど何かあったらすぐ呼べよ?絶対だからな?」


「分かってる、約束するわ。ありがとう弥太」


弥太はカラス姿に戻ると窓際から外へ飛び去っていった。

その背中を見送り、部屋の鏡で自分の姿を確認する。もし泣いた跡が残っていたらまためんどくさい事を言われるのは分かっていた、だから証拠を隠滅する必要がある。

けれど幸い目は腫れておらず少し赤いけれど、擦ったと言えば言い訳できそうだ。

私はドアの前でひとつ深呼吸するとドアを開けて食堂に向かった。


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