第8話 「攻略しなければいいのよ!」-スピカ視点-


学校を早退した私は、心配する侍女達に「休みたいからそっとしておいて」と伝え自室に入るなりノートを鞄から引っ張り出してペンを走らせた。

思い出した限りの情報をノートに書き込んでいく。



前世の記憶と今の記憶を照らし合わせる限り、ここは乙女ゲームの世界で私はヒロイン。

そしてお姉様が悪役令嬢。


攻略対象は全部で四人。

その全てのルートでお姉様は破滅する。

地下に幽閉されたり、成金貴族老人に無理矢理嫁がされて酷い暴行を受けたり、国外追放されたり、生きたまま人間標本にされたりしてしまうのだ。

プレイヤーの時は悪役ステラに対して「ざまぁ!悪い事するからこうなるんだよ!」と思っていたけれど少なくともこの世界のお姉様は悪なんかじゃない、寧ろ私にとって絶対的な善だ。


破滅エンドとかそんなの絶対だめ!!

お姉様は幸せになるべき方だもの、破滅フラグなんてこの私が木っ端みじんにしてやるんだから!


ふんすと気合いをいれては各ルートを覚えている限り書き込んでいく。どこでフラグを折ればお姉様の破滅を回避できるのか調べなくては。

攻略対象全員のルートをノートに書き込んだところでふと私は思い付く。


「………待って、そもそも私が攻略対象と仲良くしなければ……誰のルートにも入らないしお姉様も破滅しないんじゃないかしら」


思わず唇から溢れた自分の言葉に私はまさにその通りと頷く。

目から鱗とはこういう事を言うのだろう。



私ってば天才!?発想の転換ってやつね!

そもそもお姉様は誤解されやすいだけで優しいし、魔法も強さもチートだし格好いいし悪役令嬢どころか最強に素敵な令嬢と言っても過言ではないんだから。寧ろ女神と形容しても良いくらいだわ!

そんなお姉様が破滅だなんて私が許さない、ゲームのシナリオ通りにヒロインが動くと思った?

残念でした、私は攻略対象よりお姉様ラブだもの

なんでお姉様のルートがないのかしら?百合ファンの為にも作るべきだわ……私はそういう趣味は無いけれどお姉様相手ならいける気がする

寧ろ私が独自にルートを開拓してお姉様とのエンディングを迎えるべきなのかも…何それ美味しい……美味しすぎる…お姉様の手を取って駆け落ち…いいかも…おっとよだれが…

何はともあれ、まずは攻略対象達を何とかする必要があるわね…!

私がお姉様を守り抜く、あわよくばお姉様ルートを開拓するわよ!



そう決意して拳を握りしめ、誓う様に天井に突き上げたその時。

控えめに部屋の扉がノックされ侍女の声がした。


「スピカお嬢様、お見舞いにニクス王子殿下がお見えです…いかがいたしましょう?」


戸惑ったような声に恐る恐る扉を開けば、そこには今さっき関わらないようにしようと誓った人物の一人――ニクスが無表情ながらも困惑したような雰囲気を纏うお姉様を従えて立っていた。


困惑するお姉様も素敵です!!今すぐ抱き締めたい!…じゃなくてこんなイベントあったっけ?

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