勇者、定時に帰宅。

豆太郎

第1話 定時帰宅

ピッ...ピッ...ピッ....


「お前が勇者か?俺がこのダンジョンのボス大ゴブリンだ!よくも子分たちをボコボコに...」


ピーピーピー


「ん?なんの音だ?お前か!」


「あ、定時になったんで帰ります。じゃ、また今度」


「え?定時って何?勇者だよね?ここで帰るの!?普通はそのまま戦うでしょ?だってもう目の前にボスよ?」



「定時は、定時です。普通って何ですか?残業が当たり前なんですか?最悪の上司だ」

「あなたみたいなゴブリンが社員は家族だ!とか下らないこと言うんです!小ゴブリン達も可哀想だ!」


周りで倒れていた小ゴブリン達が小さく頷いていた。


「では!俺は帰るので!失礼します!」


「おい!ふざけるな!ちょっ...」



ショワ

大ゴブリンの言葉を聞き終わる前に

ダンジョン脱出魔法【カエルマ】で

ダンジョン入口まで出た。


「あ、そうか」


王国式連絡機を取り出して、ある所に連絡をした。


「もしもし。あ、勇者管理課ですか?大ゴブリンの目の前で定時になったんで帰ります。」


「え、大ゴブリンの所まで行けたんですか?」


「はい、でも定時なんで。失礼します。」


「あのっ..」

ピッ


早く帰りたいのはやまやまだが、報告義務は守らなければならない。


「あー...こっから馬車で王国まで1時間だよ...車内で何するかなー...」

「あ、結構ゴブリン狩ったし剣研いでおくか」


それで、なんかかんやで一時間過ぎて王国についた。


「んーやっぱり車内は疲れる」


大きく伸びをして外を見回すと

綺麗な紫色の夕焼けが山の向こうへ隠れそうになっていた。


「さてーご飯たべいくか。」


そして、辿りつく。


ここは俺のいきつけの食堂兼BAR カエラ・ズマダ 

通称【カエラ】だ。

いつも通り、賑やかでそこそこ席が埋まっている。

カウンター席がチラホラ空いていたので空いている席へ座った。


「いらっしゃいーー!あら、勇者様じゃない!」


「うるさいなー、わざわざ勇者って呼ぶな!」


「冗談じゃない!怒んないで!」

「で、ダリー今日は何食べるの?」


「ミンミンドリのソテー定食1つ」


「はいはーい、いつものね!」


『ミンソテー定食一つー!!』


いつもこんな調子で話しかけてくるのは

幼馴染のナージ。カエラの看板娘で、

カエラのマスターはナージの親父さんだ、小さい頃から世話になっている。

夜ご飯は基本的にカエラで食べるのが俺の日課みたいになっている。

親父さんのご飯はいつ食べても美味しい。

今日も黙々と食べていく。


カエラはいつも繁盛しているから2人と話せることがなかなかない、迷惑にならないようにさっさと食べて出よう。



「ごちそうさまー!」


「あいよーダリーまた来いよー」


親父さんが笑顔でこちらに手を振っている。

軽く手を振り返してそのまま帰路についた。


次の日―――


朝起きたら国王の秘書がやってきて国王の間に来て欲しいとの事だった…


「おぉい!勇者よ!何故大ゴブリンを前に帰ってきたんじゃ!」

「というか良く、ボス前で帰れたのぉ...」


朝から煩い…

国王のおじさん、俺の雇い主だ…


「だから説明しているように、定時だから帰ってきたんです。」


「いやーあのなー勇者よ」

「分かるぞ?帰りたいのは分かるが、目の前にボスおったら戦うじゃろ?」


「仕方ないじゃないですか、定時のアラームなったし」


「だから!ボスがいたら倒すじゃろ!?目の前じゃぞ!?」


「なんですか?国王が残業強要ですか?」

「いや、そういうわけじゃ…」


「弁護士さーーーーん!!」


「はい、勇者様どうされましたか」


眼鏡でスーツのスラッとした黒髪の女性がどこからともなく現れた。

どうもこの弁護士さんは日の国からきた元旅人で前の職業はNINJA?とやらだったらしい...

それ以外はよく知らないけどいつもお世話になっている人だ。


「弁護士さんさっきの話聞いていましたか?」


「はい、王国憲法第8条で労働者の合意がない状態での残業は禁止されています。これは数年前に働き方改革で国王様が決めた事ですが...」


「ということですが、国王?」

「そもそも!一ヶ月前まで武器屋で働いていた俺に『お主には勇者の素質がある!』とか言って勇者にしたの国王ですよね!?」


「ぐぬぬ、分かった!わかった!じゃが、次は必ず倒すんじゃぞ!」



「分かってますよ。定時以内なら任せてください。1ヶ月間しっかり戦ってきましたから」


「はぁ...よろしく頼んだぞ」


「では、これで失礼します。あ、弁護士さんありがとうございました。またよろしくお願いします」


「はい、勇者様また何かありましたらいつでもお呼びください。」


俺は城を後にした。


「あやつは大丈夫なんじゃろうか...ワシの感であやつを勇者にしたが、心配になってきたぞ...」


「大丈夫ですよ。勇者様は1ヶ月でボスまでたどり着いたんですから、《一人》で。」


「ほ、あやつ一人でダンジョン攻略しとるんか!?あやつ一ヶ月前まで戦った事すらなかったんじゃぞ!?」


「そうですよ?知らなかったんですか?」


「いや、城に毎回一人で来るからなんでじゃろうとは思っていたが...そういうことか。

いやぁ、ワシの感は鈍ってなかったようじゃの!」


一ヶ月前――――――――


「うーん...あの炭鉱にゴブリンが大量に住み着いておったとは...」


王国から少し離れた村でゴブリン数体が家を荒らして金品を盗んで逃げたとの情報が入った。

どうやら村の近くにある旧炭鉱にゴブリンが住み着いているらしい。


国王は頭を抱えた。

「んー...昔は勇者も何人かおったが今では長年平和じゃったからのぉ...勇者は皆おじさんじゃ...勇者候補を探さんといかんな...」


国王は王国内にお知らせをだした。


《勇者候補募集のお知らせ》


未経験大歓迎!20代前半の人歓迎!男性のみ!

旧炭鉱へ現れたゴブリン達を倒すだけの簡単なお仕事!

先輩勇者も簡単なお仕事からステップアップして大きな舞台へ羽ばたいています!

アットホームな職場でお昼休憩には王国式球技(バレー)なんかもやってます!

応募まってまーす!


《おわり》


「で、そのブラック企業のありがち募集でこれだけ集まったのじゃな?広報よ…」


「はい…すいません。引継ぎ受けたばかりでよくわからなくてありがちな言葉を並べてしまいました」


「あきらかにただのおじさんとか混じってるんじゃがこれ本当に大丈夫なんか?」



面接

志望理由を教えてください。


一人目

「あ~なんか?勇者になったら女の子にモテるって聞いて?勇者よくわかんねぇけど余裕っしょ!ウケる!」


「ウケない!不合格」


二人目

「ドゥフフ…ゆ、勇者にな、なったら…こ、このマリアちゃんのフィギュアとそっくりの人を…嫁に…ドゥフ…嫁に出来るって聞いてきました。」


「ない!王国にこんなオタクおるんじゃな!わし、ビックリ!不合格!」


三人目

「国王様は鳩神を信じますか?私と共にお祈りしませんか?」


「鳩神ってなに!明らかに君は怪しい!不合格!」


集まった人々みんなこんな感じの人ばかりで国王は不合格にしていきました。


その夜…

「こんなにまともな人間が一人もこない事あるんじゃろうか?」


「まぁ私に息子がいてあんな募集の所で働こうとしたらとりあえず止めますけどね」


「じゃな、お主の通りじゃ」


BAR カエラ

夜のカエラは夕方とはうって変わり、静かな雰囲気のBARになる。

ナージの親父さんがお酒好きで趣味も兼ねてやっているが、

静かな雰囲気で酒も上手いのが揃っているという事でなかなか評判だ

国王も常連でお忍びで良く来ている。


「のぉマスター?お主の知り合いにおらんかの?勇者候補」


「ん~一人居ることには居ますけど、ダリーと言うんですがいい奴なんですがね、少しだけ癖があるんですよ」


「おー!少しくらい癖があっても問題ないわい!そやつはどこにおるんじゃ?」


「鍛冶屋で働いていますよ?大体午前中に行けばいると思いますが…そんな簡単に会いに行くんですか?」


「ちょっぴり緊急事態じゃからのぉ!早ければ早いほどいいじゃろ!」


「まぁ…私が推した事黙っといてくださいね…?」

(ダリー…すまん)


次の日の早朝 鍛冶屋


コンコン


「ダリーという名の少年はおるかの?」


「はい、僕ですが…」


「おぬしか!おぬしは今日から勇者じゃ!」


「え?」―――――――――――――――――――――



「ただいまー」


国王の間から帰宅した。

ただいまと言ったものの別にだれか居るわけじゃない。

さぁこの後どうするか…


なんだかんだ疲れたのでベットへ寝転んだ


いつの間にか眠りについてしまった...















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