第9話 神様は買い物したい
「そうだ、お前の世界に行こう」
朝一番の攻撃を受けた俺に向けて、牛乳を腰に手を当てながら飲んでいたリスタがそんなことを言ってきた。
「は?いやいや、俺はもう死んでるから向こうに帰れないんだって」
「安心しろ、そんな道理、滅ぼせばいいのだ」
そう言うや否いや、もうお決まりになりつつある、空間を引き裂く技を使い、そこに手を突っ込んだクリスタ。
数秒ほど何かをまさぐった後、まるで親猫に咥えられる子猫のような体勢の神がそこから引っ張り出された。
「おい」
「まず、私の身の安全を保障してくれるならどんな願いでも叶えるわ、だからお願い、ズボンだけは履かせて」
上着はイチゴのプリントされたパジャマ、下半身はパンツの状態の神が、顔を赤くしながらそう言い始め、クリスタが不服そうにそれを認めた。
「手間のかかるやつだ」
「知ってる?神を顕現させるのって本当は数万人規模の生贄とか必要なのよ?もしくは千年単位の祈りとかさ、むしろ私から言わせればあんたが手間かけなさすぎんのよ」
俺に対する時のような、すぐ切れる感じではなく、クリスタを下手に刺激しないように、加納な限り落ち着いた声色でそう語りかける神。
「あぁ、それと、どうせなら私も連れてきなさいよ、ゲーム買いたいし」
「おお、ゲームか、確かに俺も欲しいな、ちなみに何買うんだ?」
もう帰れないと思ってた元の世界に帰れることとか、神の定める理を簡単に捻じ曲げることとか、最近はもう感覚がマヒして来て、慣れてきた自分が怖い。
「ワンダースワンよ」
「いや古い、なんでよりによってワンダースワンなんだよ」
「シーマンしたいじゃない」
シーマンて、あんた、神様なんだから似たような事他の生物でやってるでしょうが・・・。
「あの顔が良いのよね」
「シーマンとはなんだ?」
そこで、好奇心旺盛なウチの子が食いついてしまった。
この子、なんだかんだ神とテトリスとか、ぷよぷよするの好きなんだよね、まあ、負けそうになると未来の可能性とか滅ぼして好きな形のやつしか来ないようにするんだけどさ。
「そうね・・・こいつみたいな感じかしら」
「おい、まて、俺のどこがシーマンなんだよ、というかお前ほんと変な趣味してるよな」
「ほほう、レオンのような物か、それは私も興味があるぞ」
君の場合はサンドバッグ的な意味ででしょうが。
「さて、ズボンもはいたことだし、さっさと行くわよ?」
「仕切るな、これは私とレオンの旅行なんだぞ」
「そうだそうだ!イチゴパンツにイチゴパジャマとかお前は東西南北のどれなんだよ!キャラが安定しねえ野郎だな!」
めきゅ、という音を立てて、俺の顔面に神の拳がめり込んだ。
意外と人間って柔いのね、なんて声が聞こえるが、割と痛みがシャレになってない。
「それにしても、本当に丈夫よね、改造した私が言うのもおかしいんだけどさ、今のパンチだって、殴られた相手がクリスタ・アバントヘイム以外の生物なら間違いなく死滅している効果のある攻撃なのに」
「お前は膝カックン感覚で何とんでもない攻撃を人の顔面にしてくれてんだよ!」
あ、ちなみになんだが、悪魔氏は神の登場辺りで既に気を失ってます。
泡ふいてるけど、どうせ掃除はあいつの仕事だからな、俺は気にしないぞ。
とまあ、そんなこんなで、いつもの感覚で世界を引き裂き、俺のいた世界に舞い戻ってきた訳だが、あまりにも適当な流れだったためか、何も感動しないし、驚きも大してなかった。
よくよく考えれば、クリスタがいる時点でこうなるのはわかってたのかもしれない。
東京都台東区秋葉原に到着した俺達は、その場でつい足を止めてしまった。
俺は昔見た景色がこうもごちゃごちゃとしていたことに驚きと、興味の欠片もなかった建物の建築技術に感動し、クリスタは目の前に広がる様々な日本独自の文化に目を輝かせ、神は・・・ティッシュを配るメイドをガン見していた。
「興味深いものが多いな!マキナの世界にいた時にも思ったことだが、科学とはやはりすさまじいとしか言えん、このような不可思議な現象を、魔法を使わずに行うのは、人類の英知のなせる技なのだろうな」
「は、何よあれ、絶対私の方が似合うわ、地球の神もだめね」
クリスタが珍しくまともなことを言い、神がわけわからんことを言っている。
最近になって気が付いたが、クリスタは意外とまともなところがあり、神は正直ポンコツだと思う。
だって友達いないし、電話無視すると出るまでかけてくるし、メッセ無視するとすぐに催促くるし、ほんとポンコツ。
ちなみに二日放置すると泣きながら家に来る。
我が家の最新式の扉は神の侵入も阻めるようで、その時は神が泣きながらドアを小一時間叩いてた。
「さて、さっそく観光しようじゃないの、とりあえずあれな、神、お前は別行動」
早速神をはぶいてやろうとしたが、神はなぜかそれを快く受け入れ、1人でさっさとどこかに行ってしまった。
残された俺達は、集まる視線(主にクリスタに)を無視しながら、この世界でしか体験できない文化をクリスタに見せるために動き始めた。
「知っているぞ、これはテレビという物だな?」
電気街方面を歩いていると、クリスタが視界に映る、名称を知っている物をゆびさし、俺に報告してきてくれる。
こういうところはなかなかどうして可愛らしい。
散歩をするには少し熱い様な気候の中歩いていたので、少し汗が出てきてしまったので、近くにあったコンビニでボディーシートでも買おうと、入店したんだが・・・・・。
「おお!これも知っているぞ!レオンの記憶で見たことがある!使いもせず、何故かずっと部屋においてあった奴だな!」
コンビニの中で、全体に聞こえてしまうような大きな声でそう言ったクリスタが指差していたのは・・・・
「じゃらっしゃいッッッ!!!!」
レジに持って行くために手に持っていた朝に積んだオレンジの飲み物をついつい握りつぶしてしまった。
まあ、何を指差していたかというと、あれだ、恋人との距離を0.02mm隔てる素敵アイテムだ。
サガミさんがオリジナルな、近藤のムーだ。
「だらしゃっいッ!!!」
即座にクリスタを引き摺り、握りつぶしたせいで中身の滴り落ちるそれをレジに突き出せば、ひきつった顔の店員がぴってしてくれた。
もうヤダ。
一口も飲んでいないのに中身の少なくなったそれを、コンビニから出てすぐに空にし、その場から足早に歩き去る。
当然クリスタのことを引っ張るのを忘れない。
次に、少々訳あって、俺達は某専門店に入店することになった。
まあ、理由は簡単だ、俺の読みたかったラノベの続きが出ているんだ。
それだけだ。
そう思って、クリスタの手を引きながらラノベコーナーに差し掛かった時、ふとクリスタが足を止めた。
俺の全力程度では一ミクロンも動かない。
何かと思って彼女の視線を辿ってみれば、背中に巨大なリュックを背負った神が、BL同人を山の様に積み上げ、今新たなる一冊に手をかけ、涎を垂れ流しにしている現場だった。
「・・・あの世界がダメな奴しかいねえ理由が何となくわかったわ・・・」
結局神はそのままその本を購入し、カバンに押し込んでいたんだが、小脇に抱えているブツをちらっと見れば、男の子が、ブラウスを乱し、赤い顔をしている姿の書かれた抱き枕だった。
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