第8話 サンドバッグはチーレムしたい

「オラぁ!飯が出来たぞ!さっさと起きやがれ!」


そう言って俺の部屋のドアを蹴り開けたのは、先日から何故かうちに居候することになった悪魔くん。

名前は聞いたけど忘れた。


口が悪いし、見た目も不良だけど、性格は実は真面目で、料理と編み物が得意なんだそうだ。

しかも俺に脱衣所で待つように言われて一晩その場で待ち続ける素直さ。

キャラがブレッブレですわ。


まあ結局朝一で俺が殴られるところを目撃した悪魔くんは、もうそれだけで戦意喪失。

足を小鹿さんみたいにしながら逃げようとしたところをクリスタに捕縛され、何故かウチの新たな家政夫さんになったわけだ。


ただし選択は俺がやる。

こんな何処の馬の骨とも分からん奴に俺のパンツとブラジャーを洗わせてたまるか。


「クリスタ様、朝です、起きてください」


俺にはあの態度、そしてクリスタにはこの態度、ふざけんじゃねえと言いたい。

何なら朝一で俺と一緒に殴られっか?あ?


「なんだ貴様、どこから沸いた」


・・・殴る必要はないらしい。

今の会心の一撃で悪魔くんの心折れたっぽい。


なんでこんなにキャラ濃いのにすぐに忘れられるんだろうね。


「クリスター、朝飯が冷えるから早く起きなさい」


「む、仕方ない」


俺の姿を確認するなり、布団からのそのそと出て来て、可愛らしいパジャマを俺に見せてくれた。


「んんっ・・・っと」


っと、の所で俺は殴られて、地面を削りながら2キロくらい先まで吹き飛ばされたわけだけど、最近この一連の動作に慣れてきた気がする。

俺もだけどクリスタも。


全身の焼ける様な痛みを堪え、立ち上がると、俺が作ったマイロードが徐々に元に戻り始めてる。

クリスタに環境破壊の恐ろしさを話してやったからな最近はそう言うことに気を使ってくれてるんだ。


しーおーとぅーって奴は目に見えないし、触ることもできないし、感じることもできないが、増えすぎると女性のおっぱいを垂れさせる、と言ったら泣きそうになりながら環境を大事にすることを誓ってくれた。

あの姿はマジ永久保存したいくらい可愛かった。


傷がないから痛みはすぐに引き、俺は長い長い2キロの旅路を歩み始める。

ってか走る。

じゃないと朝飯が冷えるから。


「ただいまー・・・って、何してんだ?」


俺が家に帰ると、なぜか悪魔くんが地面に転がされ、それをクリスタが踏みつけているという、俺がやられているのであれば日常的な絵面の光景に出くわした。


「知らない男が私の洗濯物を物色していた、今滅ぼすか検討中だ」


「滅ぼすに一票」


何だコイツ、俺がいない間にクリスタ《俺の》パンツをどうするつもりだったんだよ。

八つ裂きにしてサンドバックにした後、神のテトリスの相手1年間させんぞ。

ちなみに俺なら最後のやつで精神が崩壊する。


少し前にぷよぷよしたらあいつ通信切はじめやがったし。


「まっ、まってくれ!俺は別に悪気があったわけじゃ・・・・」


「悪気があるかどうかは関係ない、私が滅ぼしたいかそうでないかが問題なのだ」


流石にさっきは冗談いきおいで滅ぼすに一票入れちまったが、このままだとせっかくの雑用係がいなくなる。

買い出しとか結構面倒だと思ってたんだよね。

それをこいつに任せられるのであれば、まだ少しくらい生きている価値はある。


「クリスタ、カボチャのタルトがあるんだ—————」


“が”を言う前に俺の手の中からカボチャのタルトが奪われた。

網膜が光を投影するよりも早く動いたため、まさしく俺の目にはクリスタが全く映らなかった。

流石だぜ・・・。


「仕方ない、今日の所は許そう」


ホクホク顔で低い声を出すクリスタがそのまま仕事に行き、ようやく解放された悪魔くんは泣きながら俺に縋り寄ってきた。


「助けただなんて思うんじゃねえぞ・・・」


「じゃあ手を離せよ」


男に泣きながら掴まれる俺の気持ちを考えろよな。

というか、普通こういうのって美人で従順なメイドとかが来るんじゃねえの?

なんでヤンキー系の男が来ちゃったのよ。

どうしてこうなるの、俺のハーレムはどこ行ったんだよ。


「あぁ、もういいや、ほんとどうでもいや、これも全てあの神がいけないんだ、クリスタを神界にでも送り込んでやろうかな」


そんなことをポツリとつぶやいた直後、俺のポケットのスマホがぶるぶると振動を始めた。

まぁ、神からの電話なんだけど。

こいつ真夜中に海外ドラマで感動したとかでも電話かけてくるからうっぜェんだよな。


「なんだよ」


『ちょッあんた!何とんでもない事言ってくれちゃってんのよ!今アンタの発言で展開に緊急避難速報が流れたんだからね!』


待て待て、クリスタって神界でどんな扱いなの?


『いい?あんたが転生した理由はね、あんたがクリスタの攻撃を全て受け止めるために送り込まれたの!じゃないと簡単に神界なんか滅ぼされるんだから!いうなれば神界の命運はあんたに掛ってるの!そこんとこ分かってる?』


「いやおま、お前今初めてそんな事言ったじゃん、ってか俺がクリスタの攻撃全部受け切るとか無理だからな?あの子の寝起きパンチ一発で地面抉りながら2キロも吹っ飛んだんだぞ?この間なんかな、この世界で出せる最高出力を調べるとか言われて、危うく世界一周旅行しかけたんだぞ!」


『別にいいじゃない、あんたどうせ死なないんだし』


「いてえんだよ!もう何がどうなったかわかんないくらい痛いんだよ!もう最近痛いって何だっけって感じになってきてるし、なんか夜中に頭の中に俺の無く声が聞こえてくるんだよ!完全に心がもうやられてんだよ!」


『あんたメンタルそんなに弱かったんだ、ちょっと意外ね、まあでも所詮は人間ってところかしら、心が壊れたら新しい奴を送らないといけないといけないんだから、できる限り粘りなさいよ!』


あぁ、駄目だ。

もう頭にきた。

いい加減にぶっちさんだぜ。

ぶっちのレオンさんだぜおい。


「くぅぅぅりぃぃぃすぅぅぅたぁぁぁ!モンブランあげちゃう!!」


目の前にモンブランを餌代わりにした釣り竿をぶら下げれば、地面の中から突如としてクリスタが現れ、そしてそのモンブランに食いついた。


「ッしゃあああぁぁぁぁおらああぁぁああ!!!」


クリスタの一本釣り。

これが俺がサンドバッグ生活で身に着けた最強の奥義だ。

あ、ちなみに釣り針の代わりに、ビスケットが付いてます。


「クリスタさんや、いきなり呼んで済まない」


「ふむ、きにふるな」


むしゃむしゃとモンブランを頬張り、ご満悦のクリスタにも聞こえる様に俺は電話をスピーカーにして神と話し始めた。


「俺をリコールするといったな、別に俺はそれでもかまわない、だが、それをするのならまず、俺じゃなくクリスタの意見を聞くんだな!!!」


『・・・・・・・・』


圧倒的強者の援軍で、俺のテンションはうなぎのぼりになった。

レオンはスーパーハイテンションになった!


「なに?レオンをリコールだと・・・?」


なんだか背景に“ゴゴゴゴゴゴゴ”とか出てきそうな感じにキレ始めたクリスタパイセンが、目の前の空間を引きちぎり、その中に手を突っ込むと、俺のスマホから何やら叫び声が聞こえて・・・・


「ぐす・・・ごめっ・・・ごめんなさい・・・・」


失禁しながら涙を流す神をクリスタが引っ張り出してきた。

おいまて、この床を掃除するの俺・・・じゃねえわ!!!

ジャンジャン失禁しよう!させよう!

どうせあの雑用がやるし!


「おうおうおう、神様よ、俺のことをリコールだ?あ?お嬢ちゃんちょっと世の中舐めすぎなんじゃね—————」


めきゅ、と、俺のハンサムフェイスに女神パンチがめり込んだ。


「おい、貴様、自分の立場が分かっていない様だな、レオンをリコールなどさせない、そんなことをもし画策してみろ、神界を亡ぼし尽してやる」


「し、神界が滅びたら・・・全ての秩序が失われるわ・・・そうなればあんただって・・・・」


びくびくしながらもなんとか威厳を保とうと、そう言い返した神。

だけどさ、そう言うのは普通の最強には通用しても、この最強には通用しないのよね。


「であれば、秩序が無くてはならない道理も滅ぼすまでだ」


ということでございます。

基本的になんでも滅ぼして解決できる方なんですようちの子。


「神であろうが、運命であろうが、時間であろうが、秩序であろうが、理であろうが、何であろうが関係はない、私とレオンの邪魔をするというのであれば、全て滅ぼすだけだ、貴様らはたまたま私とレオンを引き合わせたから滅ぼされていないだけだと知れ」


何それカッコイイんですけど。

ってか俺愛されてる?もしかして全ての存在よりも愛されてる?

え、え、何この胸のドキドキ。


「そして、できればもう少しイケメンに改造しなおしてきてくれ」




「あ、はい、もう帰っていいっすよ」


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