第6話 八月の夜

八月に入ると、少し状況が変わる。

ユイがボクとの暮らしに随分と慣れてきて、普段からより明るい声が聞こえるようになっていた。そんな折、ユイから提案が出された。

「キョウちゃん、ユイ働きたい。今日、駅前で買い物してたら『もりや食堂』の女将さんに会ったの。そしたらね、ウチで働いてくれないかって言われたの。まかないのおばさんが辞めるんだって。夕方の仕込みまででいいって言うから。いいかな。」

「ボクも帰ってくるのが七時ぐらいだから、それまでに戻ってくれればいいよ。それにおばさんのとこだったら、ボクも安心して預けられるし、いい話だと思う。」

「よかった、いいのね。」

「でもいいのかい。下町の食堂で。もっと可愛いお店とかの方が良かったんじゃない?」

ユイは大きく首を振って、

「もう今までの生き方も生活もどんどん変えていくの。キョウちゃんもキャバクラにいたときのユイはもう忘れてね。キョウちゃんと暮らしていくんだから。」

ボクは思わずユイを抱きしめる。少し汗ばんだ肌がボクの皮膚と密着する。ムッとする熱気とともにユイのさわやかな体臭がボクの鼻腔を誘う。もうユイの唇を求めないとボクの体がストライキを起こしてしまう。

「キスしてもいい」と目を見てボクがお願いすると。

「ダメな訳ないじゃない」そう言って唇を差し出してユイは目を瞑る。

ボクはやや上からユイの唇を襲うように被せて、少し強行に開かせる。中では女神様がボクの訪問を待ち受けてくれているので、遠慮なくワルツに誘う。

ボクたちの共演はしばらくの間は続けられたが、やがてワルツの曲はバラードへと変更されていく。

猫のようなしなやかな体がスルスルとボクの腕からすり抜けてゆき、その体を追いかけるように覆いかぶさっていく。

ベッドはもう少し先に見える。しかしボクの分身はその距離をガマンできないようだ。まるで襲うようにユイの体を引き寄せ、衣服を一枚ずつ剥がしていく。

「ライトは消してくれる?」

猫は基本的に夜行性だ。そしてボクよりも夜目が利く。

すばやく電気を消したボクだったが、一瞬にしてユイの所在を見失っていた。どこにいるのだろう。

いたいた。ユイはちゃんとベッドの上にはびこっていた。

しなやかな体としなやかな目線をボクに向けて。そして誘われるままにベッドに惹かれていく。つかまったのはボクだった。

ユイはボクの上に覆いかぶさるように体を預け、ボクの唇を奪いに来た。

ネットリとした女神様が先制攻撃を仕掛けてくる。防戦一方のボクは終始圧倒される。

やがて女猫は女豹に変わり、鋭い爪でボクをがっしりと捕獲する。まさに肉食女子の本領発揮か。

少しばかりわざとおびえたような目をしてみせると、うれしそうにボクの首筋に牙を当ててくる。その瞬間、今度捕まえたのはボクだった。

さきほどまで尻尾を巻いておびえていた負け犬が、ひるがえしたように狼に変わると、牙を剥いていた女豹があっという間に子猫に変わる。今度はユイがおびえた表情をみせた。途端にボクは体を入れ替えてユイの首筋に牙を立てていく。

まだまだボクたちの睦言は大人になりきれない幼い恋人同士のように、息遣いと反応を戯れの中で試しているかのようだった。

それでもボクはユイのしなやかな体に魅了され、その滑るような肌に翻弄される。さらには手のひらに余るほどのユイの大きな胸の膨らみが、いつでもボクの男としての要望を満たしてくれる。

手で弄び、唇で凌辱する。それだけで、彼女を征服していくかのような錯覚に陥るから不思議だ。

さらにユイの肌の匂いを確かめるように堪能し、彼女の息の匂いも覚え込む。鼻から出てくる息の匂いがボクは好きだ。きっと女性の鼻息の匂いの中に男が興奮するフェロモンが含まれているのだろうと信じて疑わない。だから猫を被っていた男がくちづけの後、急激に狼へと変貌するのである。というのがボクの持論。

ただ、わかっていることは、ボクがユイに惚れているということ、愛おしいということ、彼女の体に溺れているということ。

ユイもボクのために準備をしてくれているので、遠慮なく彼女の中で終了することができる。男にとって最高の瞬間ともいえる。

今日も暑い夜はボクたちの熱い吐息とともに更けていく。


お盆の期間、ボクの会社は当然のことながら休みになる。

ユイが働いている定食屋もお盆は休みだ。

つまり、ボクたち二人が旅行に行くことのできるチャンスの期間なのだ。

ところが、元来面倒臭がりのユイにとって、旅行などという七面倒臭いことなど喜ぶわけもなく、休みの日は一日中部屋でゴロゴロとまどろんでいる。

ひなたぼっこに明け暮れる猫そのものである。

「まだ出かけるのが怖い?あれからもう二カ月も経っているよ。」

「そうね。でも一日中キョウちゃんとゴロゴロしてるのが幸せ。ねえ、もっとキスして。」

虚ろな目でそういわれると誘われるままにユイの女神様に会いに行く。

ボクの会社は土日の休みだが、食堂はそうはいかない。ボクに合わせて日曜日には休みをくれているが、土曜日はパートに出ている。ボクもさほど忙しい身の上ではないので、ユイをからかいがてら店に蔓延る。

と言ったところがボクたちの普段の土曜日。だからお盆休みという期間は、何日もずっと一緒にいられる、結構な久しぶりな機会でもあった。

かといって二人して遠出するゆとりもないのも事実である。せめて一泊ぐらいは無理してでも出かけてみたいと思っていた。

「そうだ、ユイの実家は木更津だっけ?お父さんやお母さんに挨拶に行ったらダメかな。」

「まだ早いよ。キョウちゃんはまだユイの十分の一もわかってない。あともう少しユイのことわかったら、きっとユイのこと嫌いになるわ。だから、もうちょっと待った方がいいと思うの。」

こういう系統の話をすると、ユイはほとんどと言っていいほどブルーな面影を見せる。ボクよりも十歳以上も若い彼女が、ボクが想像もできない過去を持っているとでも言うのだろうか。

そんなとき、いつもボクは不安になりがちな気持ちを払拭するために、自分を奮い立たせようとする。

「ボクは結構我慢強いし、自分で言うのもなんだけど、かなり打たれ強いよ。何でも話してくれていいんだよ。」

「ありがとうキョウちゃん。でもね、だからって別に隠し事があるわけじゃないの、私の性格の話なの。みんな最初は優しいの。でもだんだんそっけなくなってくるの。たぶん、私がつまらないからなのね。」

「でも、元カレは未だにユイのことにご執心じゃないか。」

「あれは違うの。彼が私のことを捨てたかったのに、私の方から出て行ったから、彼のプライドがそれを許してないだけ。もうとっくに私のことなんか愛してないのよ。そうでなかったら、あんなこと・・・・。」

そこまで言ってシマッタとおもったのか、急に口をつぐんだ。

「どうしたの?あんなことって何?」

しばらく下を向いて黙っていたが、意を決したようにボクの目を見て、

「暴力をふるうのよ。あの時の私は、体のあちこちに痣があったわ。自分でも悲しいぐらいに。それが耐えられなくて逃げてきたの。」

それを聞くと即座にユイの体を引き寄せ、ぎゅっと抱きしめる。

「ボクがそんなことするわけないじゃない。それに、ユイが面倒臭がりなのは、ちゃんとボクのデータの中に入っているよ。つまんなくないよ。だってそんな時はユイの、体を弄べばいいだけでしょ。」

ユイは軽くゲンコツを作り、ボクの頭をコツンと叩く真似をする。

「でも、それでもいい。ユイの体はキョウちゃんのために捧げる。好きにしていいのよ。もう何度も助けてもらって、返すものはこれしかないの。」

うるんだ涙でボクを見る。

「そんなつもりで助けたんじゃない。体が目的じゃない。萌愛が、ユイが欲しかっただけなんだ。今でもおんなじだよ。」

「だから、何にもいらないの。キョウちゃんが居てくれるだけでいいの。」

「でもね。ちょっとボクたちにも刺激が必要なときがあるんだよ。ボクにもユイにも。だから、たまにはお出かけしよ。遠くじゃなくてもいいから。ねっ。」

「うん。ありがと。」

また一つユイとわかり合えた。そんな気がした八月のお盆休み初日のことであった。


翌日、朝早くから出かけることにする。

ボクのクルマでドライブに。家族をもたないボクのクルマはちょっとしたスポーツタイプのクルマだ。行く先は山梨の韮崎あたり。今は葡萄の最盛期、葡萄狩りに行こうというのがボクのささやかなデートプラン。

考えたら、二人でお出かけデートなんて初めてかもしれない。

ココから山梨までは、高速道路を使えば約二時間ぐらい。きままなドライブデートにはちょうど良い時間だ。

「ユイは運転免許は持ってるの?」

「持ってなあい。」

「わかった。免許を取りに行くのが面倒臭かったんでしょ?」

「せえーかーい!でもキョウちゃんいいの?こんな面倒臭がりの女でも。」

「その分。ボクがマメになればいいんでしょ、がんばるよ。ドライブは好き?」

「好きよ、誰かが運転してくれるなら。」

「その答えを待ってたよ。」

ユイが面倒臭がりであることが、初めから解っていれば、結構どうってことない問題なのである。なんでもかんでも代わりにしてあげる必要はないけど、期待しなければいいだけのことだから。

それよりも、今は彼女に何かをしてあげることの幸せの方がボクには大きい。

彼女にしてあげた分は、少なからず返ってくる。少なくともベッドの上では。


朝の十時に出発して、十二時前には韮崎に到着する。

ココにはボクのお気に入りのワイナリーがある。

飲んべの彼女にうってつけの観光スポットだと思って、ここを選択したのだ。

ボクはドライバーだから飲めないが、ここはそれ以外の人は無料でワインを試飲できる。しかも浴びるほど。

今日のデートは、いつもボクに合わせて飲みっぷりを制限している彼女のために連れてきた場所なのである。ぶどう狩りなんかは、まだ余力があれば行けばよい。

「私だけ飲んでもいいの?」

「だってボクはドライバーじゃん。一緒に飲んだら怒られるよ、色んな人達から。」

その瞬間、ユイはボクの胸に飛び込んできた。

「ユイ、別にお酒のこと、チョー我慢してたわけじゃないのよ。でもうれしい。飲み過ぎないようにするね。」

「そこはお願いしますね。抱っこして車に運べないし、車で吐かれても困るし。」

「うふふ。」

いつも通りのユイの笑顔と微笑みが見られた。それだけでボクはすでにうれしい。連れてきてよかった。やっぱりたまにはこういうデートも必要だなと思った。

因みに試飲できるワインは赤と白と四種類ずつ。

しかし、自由なユイのペースはとても試飲のペースとは思われぬ飲みっぷりだ。逆に見ていいて惚れ惚れする。

あるお客さんが、「奥さん、すごく飲まれますねえ。」などと声をかけてくれる。

ユイのことを「奥さん」と呼んでくれるのが、はにかみながら多少嬉しい自分がいる。

ユイもそれを聞いては否定もせずに、やはりはにかんでいる。

「ランチは園内でBBQができるんだけど、行く?」

すでにそこそこ酔っぱらっているユイは、イケイケ状態である。

「行こ、キョウちゃんも楽しまないと。ユイばっかり楽しんでちゃ悪いから。ちゃんとお昼を食べに行こ。」

そうと決まれば、ユイの気分が変わらぬうちにBBQを申し込む。

「肉はビーフとポークとラムが選べるらしいけど、どれがいい?」

「ユイは何でも食べられる。キョウちゃんの好きなのにして。ユイはそうしてほしい。」

最後のセリフを言うのに、上目づかいで甘えた声で迫る攻撃を仕掛けてきた。

「じゃ、ボクは羊を選ぶけどいいかな、ボクのカワイイ子羊ちゃん。」

文字にすれば恥ずかしくなる文言かも知れないが、今のボクたちにはこれぐらいが丁度良いのかもしれない。

肉を焼くのはもちろんボクだ。酔っぱらいのユイに任せてしまうと、すべてが炭になってしまうだろう。ここは、そこそこマメなボクが主導権を握る。

焼いては食べ、食べては焼く。食も進むがユイのワインも進むことこの上ない。

それでもユイはまだまだ酩酊していない。ユイの限界線はどこにあるのだろうか。

萌愛を拾ったあの日、彼女はことのほか泥酔していた。あのとき、いったいどれぐらい飲んでいたのだろう。想像するだけで恐ろしい。

「ユイ、飲み過ぎないようにお願いね。」

「大丈夫よ、まだまだ全然平気。」

「例えばだけど、ビールでジョッキならどれぐらいまで大丈夫なの?」

「んんんんと、大ジョッキを八杯飲んだことがある。そのあとでレモン酎ハイを三杯飲んだけど、別に平気だった。」

「じゃあさ、ボクがベロベロの萌愛ちゃんと会ったときはどれぐらい飲んでたの?」

「あの時はねえ、もうどうにでもなれって思ってたから、ビールと酎ハイを五杯ずつぐらい飲んで、それでも全然酔えなかったから、ワインを三本空けて、そこからは自棄になってウイスキーを飲み出したからあんまり覚えてないけど、ボトル一本は空いたと思う。」

ボクは途中から聞くに耐えない量になっていることに気付いた。

今日はまだワインのボトルで例えると一本とちょっとぐらいかな。少し安心する。えっ?安心するのか?

ボクたちは、隣同士いちゃいちゃしながら、ユイはワインを、ボクは羊を十分に堪能し、幸せなBBQを終えた。

「大丈夫?まだ余力ある?ぶどう狩りに行く?」

「ユイは全然大丈夫よ。ちょっとお酒臭いけど。キョウちゃんが連れて行ってくれるんだったら、どこでも行くよ。」

「いかがわしいところでも?」

「行きたいの?いいよ。」

「嘘だよ。今日はユイと一緒にぶどう狩りをしたい。きっと楽しいと思うよ。」

「うん。連れてってね。」

久しぶりに弾む会話。今日のユイはいつもよりも口数が多い。よく喋るときのユイは、きっと機嫌がいいのだろう。そう思うだけでボクの心はキュンキュン弾んでいた。


葡萄園はワイナリーから車で約二十分。少々酒臭いユイは窓を開けて。新鮮な空気を吸い込んでいた。少しでも酒気を振り払うかのように。

ユイが窓を開けているので、エアコンが半分しか効いていないが。都心と違って山梨の山の空気は暑さにも優しい。

ボクのターゲットは昔懐かしいキャンベルだったのだが、今となっては古臭い葡萄なんて作っている農家はない。ならば、次のターゲットは甲州種である。これならばこのあたりで作っている農家は少なくない。

ネットで下調べをしておいたブドウ園は、夏休みだけに盛況だ。それでも数分待てば中に入れた。さあ、葡萄狩りのスタートだ。

「一緒に楽しもうね。折角来たんだし。」

「うん。」

ワインの匂いをプンプンさせて、可愛い女の子が葡萄狩りにいそしむ。

ボクはその姿もポートレートに収めていた。手を伸ばしかけるその姿は、釣り下がる葡萄にじゃれる猫。そんなタイトルがお似合いの一枚になった。


楽しい一日だった。

帰りの道のりは高速道路を使わずに国道沿いを走った。

翌日も休みだし、高速道路は混んでいると抜けられないし、山道をつたって帰れば五時間ちょっとの行程である。イチャイチャしながら過ごすドライブにはちょうど良い時間かもしれない。事実楽しいドライブだった。

酔ったユイは、山梨を出発してしばらくしてからウトウトしだし、軽く二時間ぐらいは夢心地の時間をお過ごしになられていたけどね。

寝顔のユイも可愛くて仕方なかった。ボクはほくそ笑みながらハンドルを握っていた。

山梨を出たのが午後四時頃だったか。さすがに少し混んでいる。

そろそろ東京に入ろうかという午後六時三十分を回ったころ、

「ねえ、ユイちゃん。そろそろお腹すかない?」

「そうねえ。何にもしてないのにねえ。」

「何が食べたい?今日ぐらいは、定食じゃないもの食べようね。」

「じゃあ、お昼はお肉だったから・・・・・、そうだ、回るお寿司食べに行こっ。」

「そうだね。いい考えだ。丁度あそこに見えてきたよ。」

いいタイミングだった。

チェーン店だが、悪くない店だ。価格均一店ではないが、その分いいネタを揃えている。

ボクとユイはカウンターへ並んだ席を確保する。どうせユイは飲んべの本領を再発揮するに違いないし。

ユイはビールでスタートし、ボクは茶碗蒸しからすすり始める。

ボクは魚卵と貝に目がないタイプで、イクラに数の子、それとツブ貝、アカニシ貝を頬張っていく。ユイはまぐろを中心に組み立てて、赤身、中トロ、ネギトロの順にツマミにビールをあける。

「遠慮しないで、大トロだって食べたらいいんだよ。」

「うふふ、アリガト。美味しいものは最後に取っておくのよ。」

ボクはあまり魚をチョイスしない食べ方がデフォであり、あとはイカやタコ、なんとかしてエビぐらいまでにたどり着く。

ユイはまぐろを堪能した後は、ブリやヒラメ、渋い感じのアジまでツマミにしていく。

寿司ネタ一つでこれほどまでに好みが違うのかと思うと面白い。今日は、新しいボクたちの一面をお互いで発見できた日になった。

とても些細なことだけどね。


アパートに戻ってきたのは、午後十時を回った頃だった。

今夜はなんだかんだで疲れた体をゆっくりと休めよう。

二人で仲良くシャワーを浴びることにする。

「キョウちゃん、お疲れ様でした。今日はユイが体中を洗ってあげる。でも、先にユイの体を綺麗にしてからね。あとで呼ぶから、ちょっと待っててね。」

そう言ってボクを残して先に入る。

十分ちょっとで準備ができたようで、バスルームの中からボクを呼ぶ声が聞こえた。

「いいよ、来て。」

なんだか、いけない風俗店にお世話になるみたいだ。

「お世話になります。」

「いらっしゃいませって、言って欲しい?」

「そんなことないよ。萌愛ちゃん。」

「うふふ。遊んであげる。」

そう言ってボクを椅子に座らせて、ボクの頭にシャワーを浴びせて、まずはシャンプーで丁寧にボクの髪を洗ってくれる。

髪が終わるとボディーソープを自分の体に塗って、ボクの体に密着させてくる。

「ボク、初めてなんです。」

「萌愛も初めてよ。勘違いしないでね、そんなお店で働いたことはないのよ。昔ね、AVでちょっと見たことがあるだけ。だからこれで合ってるのかどうかなんて知らないのよ。」

「わかってるよ。それにボクは昔のユイのことなんて気にしてないよ。今のユイが好きなんだから。」

「ありがとう。なんでキョウちゃんはそうやっていつもユイのことを思ってくれてるの?

こんなことでしかキョウちゃんに返せるものがないの。」

「ボクを楽しませてくれようと一生懸命してくれるだけで十分すぎるよ。」

ボクたちは体を泡だらけにしながら。抱き合い、そして唇を求めあった。

ユイは見よう見まねのソープごっこを最後まで楽しませてくれた。体の泡を流し落とすと、ボクの前にひざまずいて、ボクの分身をゆっくりと含み始める。

底知れぬ快感がボクの背中を貫く。

「ユイはお店の人じゃないんだから、ここでそのサービスはいらないんだよ。」

そう言ってボクはユイの肩を抱いてキスをする。

ボクはユイをバスルームから連れ出し、ユイの体を拭いてあげる。

ベッドへとエスコートすると、ユイは再びボクの分身にキスしてくれる。

「今日はユイを楽しませてくれてありがとう。今度はユイが楽しませてあげる番だから。」

そういってユイはゆっくりとボクの分身を弄ぶ。女神様も出てきて挨拶をしてくれる。

やがてユイはその大きなおっぱいでボクの分身を挟み、とってもエロチックな目線をボクに送りながら、振動を加えてきた。まさにAVそのものだ。

ボクも立派な独身男性だったので、一通りのAVは見てきた。あの中で行われているプレイは、あくまでもAVだからありうるのだろうなと思っていたが、まさに今そのプレイがボクの面前で行われている。

少しでもボクを楽しませようとしてくれるユイの気持ちがありがたい。ボクはありがたくユイの気持ちに甘える。

AVの中のプレイはどれも一度経験してみたいプレイばかりである。ユイは進んでそれを実践してくれているのである。

ユイの施しはいつになく思いがこもっていた。ボクの分身に彼女の女神が絡みつき、彼女の手が分身の砲台ともなっている二つのおもりに手が添えられ、やがては彼女のぬくもりに包まれる。そして上下の動きがスローステップからハードステップに変わるころ、ボクの我慢が限界を超えようとしていた。

ボクはそのことをユイに宣言するも、ユイはかまわずステップを止めようとしない。

「ダメだよ。ユイの口の中でイッちゃうよ。」

ユイはニコッと笑みを見せて、それでもステップに更なるスピードを加えた。

もう我慢できる術がなくなっていた。ボクはユイの頭を抱えるようにして、咆哮を上げながら最後の激流をユイの口の中で感じた。今までにない快感と感動だった。

しかもユイはボクのほとばしりをすでに飲み干していた。

これもAVでみたプレイである。

ユイはさらにニコッと微笑んで、さらにボクの砲台を祠に納め始める。

ボクの分身はさらに隆起してくる。すると、

「まだできるよね。」

そう言って今度はボクの唇を責めてくる。

ボクの手はユイの豊満な胸の膨らみを堪能する。ボクは体を上下に入れ替え、上から被さるようにしてユイを眺めおろす。

「うふふ。」

ユイはいつもの様に、軽く微笑んだだけで、ボクの首に両手を回し、さらにその半径を縮めていく。ボクはどんどんユイに引き寄せられる。

ボクの唇は彼女の胸の膨らみの頂点にある薄茶色の突起物に入念なくちづけを施しながらリズムを刻む。そして手持無沙汰な右手が彼女の洞窟を探りに行く。そこには溢れんばかりの熱い泉が湧き出していた。その温もりを感じたボクは、たいした予告行為も行わずに、ボクの分身を侵入させていた。

その瞬間に目を閉じて、小さく漏れるユイの声。

「んん。」

ボクはたまらず激しい攻撃をユイに叩き込む。彼女はその攻撃を待っていたかのようにボクの腰に手を回し、ボクの体が浮かないようにがっちりと抱え込む。

「ユイのことはいいから、キョウちゃんのタイミングでイッてね。」

ユイの体はとても魅力的だ、連投で望むボクの砲台も美しくて豊満なユイの体の魅力に翻弄されている。

ステキな体だ。今日もユイの体は美しい。やがてボクはユイの言葉に甘えて二回目の咆哮を上げることになる。

「中でいいのよ。」

というユイの言葉にもさらに甘えて。


「結局良い思いをさせてもらうのはボクじゃないか。ゴメンね、ボクばっかりがいい思いしたってダメなんだよ。」

「そんなことないよ。ユイもよかったよ。キョウちゃんが良かったなら、それが一番いいの。今日はユイのために色々してくれたから、うれしかったから。」

ボクはそんなユイを抱きしめるしかなかった。

「もう疲れたでしょ。今日はユイが抱いてあげる。ユイの中で眠って。」

ボクの手は豊満な彼女の胸の膨らみを握りしめたまま、疲れた体をユイの体に預けたままだった。彼女のやわらかい唇に『おやすみ』のあいさつをして、ボクはユイの体の中に身を沈めていく。そして夢心地のまま、深い眠りについたのである。



翌朝の目覚めはよかった。

二人して裸のまま迎えた朝だった。

ボクたちは、いや、少なくともボクは今、幸せの絶頂期にあると言っても過言ではなかった。多少の将来への不安があるのは確かかも知れないが、それを払拭しても余りある幸せなひとときを感じている。

それは間違いなくユイが一緒にいるから。

ある歌のフレーズで「何気ない毎日が風のように過ぎていく。この町でキミと出会い、この町でキミと過ごす。」というのがある。そんな何気ないフレーズがなんとなく心地良い。

ただ二人だけで、何気なく暮らす時間が。

先に目が覚めたボクは、まだすやすやと寝ているユイの寝顔を眺めている。

その何気ない寝顔も愛くるしい。

「もう朝だよ。」

そのことを告げるように、柔らかい彼女の頬にキスをする。

「昨日はありがとう。夢みたいな時間だったよ。」

「うふふ。」

彼女は笑ってはにかむ。

「そろそろ起きようか。今日は一日ゆっくりまったりしよ。」

ボクたちはまどろみを覚えたままの朝を楽しむことにした。

まずは朝食づくりである。

米を研いでご飯を炊く。出汁を取ってみそ汁を作る。その両サイドを彩るのは目玉焼きと白菜の浅漬けだ。

何気ない質素な朝食だが、今のボクたちにはこれで十分贅沢な朝餉である。

「今日は一日抱っこしててあげる。」

「キョウちゃんがしていたいんじゃないの。」

「うん、したいよ。」

「ユイも。抱っこされたい。」

明日からは、また喧噪の毎日となるであろう。今日はこのどんよりとした時間の中で一日を過ごすこととしよう。ゆっくりとした時間とともに。


何気ない八月の暑い日々は、蝉の声とともに過ぎて行った。

これから始まる嵐の日々を待ち受けるかのように。



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