Another Side

あの日

私は、これから始まる高校生活にワクワクしていた。

日本中に名が知れ渡っているという程の学校ではないが、私が住んでいた地域一帯では上位の教育が受けられた。校舎のデザインもシンプルで気に入っていたし、何より全寮制という制度が親からの解放を象徴していた。小さい頃から母親の英才教育を受けさせられた私は、とにかく彼女から自由になりたかった。

昔から、私は恋愛というものにまるで縁がなかった。中学の頃は何度も告白を受けたが、私にとっての好きな人は遂に現れなかった。ここの新しい環境ならば新しい出会いがある、と信じていた。これからの学校生活を想像すると、自然と笑みがこぼれていた。

それに、私の事を知らない人が周りにいるというだけで、気分が随分と落ち着いた。というのも、私は中学の頃周りからいじめを受けていた。

恐らく、いじめられた原因は母の行き過ぎた英才教育と私の容姿が重なったせいだろう。私は自分が一番美しいとは思わないが、周りの目線は気になっていた。それが、羨望の眼差しではなく嫉妬のそれだったということも。

私が告白された回数にも原因があるかも知れない。男子からはそのような嫉みや妬みの視線がなかったが、同性からのは多くあった。もしかしたら、彼女達の恋人となるはずだった男子が根こそぎ消えていって、一種の無力感でも感じていたのかも知れない。それが結果的に私を苛んでいるとしたら、そもそものいじめ自体、自分の行いが帰ってきたことになる。そんな事も、もうこれ以上考えたくなかった。今までの私の過去を知っている人はいないはずだ。ここから、新しい人生が始まる。

そう強く自分に言い聞かせ、私は校門を跨いだ。目の前の落ち着いたデザインの校舎が、私がネットで見て憧れた写真に写っていたものだと分かった。

とうとうやって来たのだ。

左手で握りしめていたバッグを一旦地面に降ろし、大きく息を吸った。そして吐いた。

「すぅ……はぁ……」

爽やかな空気だった。心身ともにリフレッシュされた気持ちになった。


ふと、後ろからくる目線が気になって振り向いた。

「……?」

誰かが見ているような気がしたが。

気のせいかな、と考え、足を戻して進んだ。


私の人生は、ここから始まる。

私の寮生活は、ここから始まる。

私の学業は、ここから始まる。

私の恋愛は、ここから始まる。


私の過去は、ここで終わる。

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