もう一本の手
ミナは軽く息が上がっていた。
息苦しさを感じているのだ。
やり始めて何分経っただろうか。
壁伝いとはいえ、同じ所をグルグル回っているせいで頭が変になりそうだった。
しかも異変に気付いてしまった。
順番から行けば、アキはユマにタッチする。
そしてユマはフーカに。
フーカはミナに。
そしてミナはアキにと、順番は回っていく。
本当ならば、ミナは二つの角を曲がらなければならない。
しかし…いつの間にか、一つの角しか曲がらなくなっていた。
それは目の前に何かあるから。
それに触れると、自分の番が終わるからだ。
そして順序は巡り、再び自分の番になる。
この異変に自分以外の者が気付くとなれば、それはアキだ。
ミナがタッチしたモノは、アキにタッチしに行くからだ。
しかしアキもミナも声を上げない。
同じ所を回っているせいか、疲れがきていて、気のせいだと思っているからかもしれない。
やがて、アラームが響いた。
それはちょうど、ミナが目の前のモノに触れようとした時だった。
「おっし! 終わりね! みんな、入り口に集まって!」
アキの高い声で、現実に戻った気がした。
四人はくたびれていた。
プレハブ小屋から出た後も何も言わなかった。
でもアキは、ユマとフーカから少し離れたミナの元へとやってきた。
「ねぇ、ミナ」
「何よ」
「前みたいに、一緒につるまない?」
「はあ?」
何を言われたのか、理解できなかった。
もう二人の進むべき道は違っている。
ミナはマカと一緒にいられるところまで進むと決めた。
それがどんな道であれ、マカの存在無しではいられないからだ。
「…悪いけど、あたしにはマカがいるから」
だからハッキリと断った。
「そっか。分かった」
アキはアッサリと引き下がった。
中学時代、このアキのサバサバしたところに惹かれていた。
何にでも行動的で、自信家。
周りがどう言おうと、自分の意思を正しいと思って進んできたアキ。
けれど…人を傷付けることにすら、罪悪感を感じないアキに、ミナは少し恐怖を抱いていた。
高校に入って、マカに出会ってからはそんな恐怖は抱かなかった。
…まあアキとマカの仲が良くなかったというのもあるが。
廊下でアキとちょっと話すことがあっても、マカは良い顔をしなかった。
元より嫉妬深いと感じてはいたが、アキと世間話をするだけでムッとされてしまう。
そんなマカの感情に気付いたのか、アキもマカに近付こうとはしなかった。
まあ片や教師受けが良く、クラスメート達にも人望の厚い優等生。
片や教師の間でも、生徒達の間でも評判が良くないギャル生徒。
比べるまでもなく、性格的に合わないのだろう。
だからこの誘いは断って正解だ。
アキも何が目的で、元の鞘に戻ろうなどと言い出したのか…。
分からないまま、校門の所でお開きになった。
マカが最近、霧が濃いのを気にしていた。
おかしな奴がうろつくだろうから、人通りの多く、明るい所を歩いて帰れと。
できれば夜、出歩かないようにとも言われていてが、今夜は仕方なかった。
ため息をつきながら歩いていると、すれ違った人と軽くぶつかった。
「あっ、ゴメンなさい」
「いえ、ボクの方こそぼんやりしていましたから」
「おや、どうかしました?」
ぶつかったのは、ミナより幼い少年だった。
そして少年には青年が一緒にいた。
「ちょっとぶつかっただけだよ。それよりキミ…」
「はい?」
少年はじっとミナを見た。
そして苦笑を浮かべる。
「―なるほど。彼女が苦労するわけだ」
「えっ?」
「あっ、いやいや。それより、あんまり危ないことには首を突っ込まない方が良いよ」
「えっ、えっ?」
意味が分からず首を捻ると、二人は互いに苦笑いを浮かべた。
「まっ、彼女なら何とかしてくれるでしょう」
「そうだね。キミにベタ惚れだから」
そう言って二人は歩き出した。
「えっ…」
言われたことが分からず立ち止まっていたミナだが、ふと気付いた。
「あの男の子の声、どこかで…」
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