宵の手

 ケータイの表示を見ると、夜の6時50分。

 門の前で、ミナは深く息を吐いた。

 あの後、マカは必要以上に気を使ってくれて、家まで送ってくれた。

 いつもならマカ特製の問題集を出してきて、明日までの宿題にするのに、今日はいいからと言われた。

 マカの優しさが嬉しい反面、黙っていることへの罪悪感で胸が痛い。

「…今夜で終わらせないと」

 今夜の肝試しを終えれば、きっと二人の気も済む。

 きっと受験ムードに耐え切れず、言い出したことだろう。

 でももし、続くようであるようなら…。

 マカと一緒にいられないようにされるのであれば…。

「あれぇ、ミナ。早いのね」

「コンバンワ」

 アキとユマがやってきた。

 二人の後ろには、大人しそうな少女がいる。

 同じ制服を着ているので、同じ学校であることは分かるが、あまり見たことのある顔じゃない。

「そのコは?」

「ああ、隣のクラスのコ。フーカ」

「こっこんばんわ」

 メガネをかけ、長い髪を三つ編みにしているフーカはオドオドしながら頭を下げてきた。

 明らかに、自らの意思で来たコではない。

「アキ、ユマ。無理やり連れて来たでしょ?」

「違うよ。ちゃんと誘って連れて来たんだよ」

「そうだよぉ。人聞きの悪いこと、言わないで」

 ユマはアキの言葉を返すだけだが、それがミナには気に入らない。

 アキの腰巾着とも、影ともウワサされるユマは、元よりフーカのように大人しい少女だった。

 しかしアキのような強きものに憧れ、こっちの道に進んでしまった。

「…そう。で、中に入るのね」

 いい加減、会話をすることもイヤになり、話を進めることにした。

「そっ、こんくらい、乗り越えられるでしょ?」

 そう言ってアキは、ひょいひょいっと門を乗り越えた。

 …この身軽さは、マカに匹敵しそうだ。

 ため息をつき、同じようにミナは門を乗り越えた。

「っと…。さすがに二人はムリでしょう?」

 ミナはユマとフーカを指さした。

 二人とも、あまり運動神経は良いように見えない。

「そうね。じゃ、鍵開けるから」

 アキは門の鍵を開け、二人を招き入れた。

 そして校庭の隅にあるプレハブ小屋に行く。

 ここは元は外の体育で使う物が置かれていた。

 だが近年、校舎の近くに新しいプレハブ小屋ができ、そちらに物も移動した。

 今では何も無い。

「ここで何するってーの?」

「だからぁ、肝試し的なこと?」

 アキはクスクス笑いながら、引き戸に手をかけた。

 それはあっさりと開いた。

「…何でカギかけてないの?」

「元からよ。それにもうすぐ壊す予定だから、カギかける必要も無いでしょ?」

 なるほど、と納得。

 中は月の光が差し込み、薄暗かった。

 僅かに埃臭いが、それでも気になるほどではない。

「うん、やっぱりちょうど良いわね」

「何がよ。アキ、そろそろ説明してちょうだい。ここで何をやるのよ?」

「あっ、そうそう。実はね」

 アキの説明はこうだった。

 まず一人ずつ、部屋の隅に行く。

 そして一人ずつ壁伝いに歩き、前にいる人の肩をタッチする。

 タッチされた人は歩き出し、また前の人の肩をタッチする。

 タッチし終わった後は、その場で待機。

 そうやってグルグルと部屋を回るのだと。

「…それの何がおもしろいの?」

「やぁだ~。よく考えてみなさいよ。一人ずつ、位置はズレるのよ? だから途中で一人は二つの角を曲がらなければいけない。けれどもし、一人一つの角しか行かなくなったら?」

「そうなったら…」

 …一人、増えていることになる。

 つまり、ホラーだ。

 ミナは言葉に詰まった。

「じゃ、やり方の説明は終了。30分したらケータイのアラーム鳴るから、そしたらオシマイね」

 アキはそう言って、各々立つ位置を決めた。

 そしてアキ、ユマ、フーカ、ミナの順番になった。

 引き戸を閉めても、月の光が窓から差し込むので、足元は見える。

「じゃ、始めましょう」


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