黒き手が…【マカシリーズ・4】

hosimure

誘いの手

「ねぇ、ミナ」

「えっ。…あっ、アキ…」

 ミナの顔が一瞬曇った。

 今時のギャル風の女子高校生二人が、ミナに近寄ってきた。

「何よ、どうしたの?」

 ミナは声を潜め、構える。

「冷たぁい。何、その態度ぉ」

 チャラけた声に、ミナの眼がつり上がる。

「…やめてよね。アンタ達との付き合いは、終わったんだから」

「ひどっ~い。ヤダね、ユマ」

「うん、ヒドイよミナ。中学時代、あんなに仲良かったのに」

「…うるさいなぁ。言いたいことがあるなら、ハッキリ言って。マカが戻ってきちゃう」

 今は放課後。

 教室の掃除当番だったミナと、日直だったマカ。

 ミナは掃除中で、マカは日誌を担任に渡す為に教室を出て行っている。

「マカ、ねぇ。あんなのと付き合ってて、何が楽しいの?」

 アキが鼻で笑うように言うと、ミナの眉間のシワが深くなった。

「マカの悪口を言うな。それより用は何なの? 早く言ってくれないと、ムシするけど?」

「あっ、そうそう。今晩、ヒマ?」

「ちょっとしたお遊びするんだけど、ミナも参加してよ」

「クラブなら行かないし、合コンもしない」

「違うって」

「そんなんなら、ミナ誘わないって」

 二人の笑い方に、ミナはホウキを持つ手に力を込めた。

 早くしないと、マカが戻ってきてしまう。

 こんな二人と一緒にいるところ、ホントはクラスメートにだって見られたくはない。

「学校の隅に、プレハブ小屋あるでしょ?」

「あそこでちょっと遊ぶんだ。大丈夫、どっちかって言えば、ホラー系だから」

「肝試しみたいなもの?」

「そうそう! それで夜の七時に、学校の門の前に集合ね」

「遅れちゃダメだかんね」

「って、ちょっと!」

「後一人、誘わなきゃいけないから」

「じゃ~ねぇ」

 二人はミナの返事も聞かず、教室から出て行った。

 入れ違いに、マカが戻ってきた。

「お待たせ、ミナ。…って、まだ掃除終わってないのね」

「あっ、ああ! ゴメン、マカ。すぐに終わらせるから!」

 ミナは慌ててホウキを動かし始めた。

 けれど頭の中は、アキとユマのことでいっぱいだった。

 マカには絶対に言えない、言いたくない過去が、ミナにはある。

 実はミナ、中学時代は少しグレていた。

 ギャル風の格好をし、行動や考え方もそっち寄りになっていた。

 両親が仕事一筋だった為、寂しさから行っていた。

 けれど高校受験を前に両親と和解し、高校ではマカと出会ったことにより、今のミナになった。

 アキとユマは中学時代の悪友。

 高校からは同じクラスになることもなかったし、あえて自ら声をかけたこともなかった。

 なのに今更…。

「ミナ? 手が止まってるわよ」

「あっ、ああ。ゴメン…」

 マカは首を捻り、ミナの額に手を置いた。

「…熱はないみたいね。でも勉強疲れが出たかしら?」

「そっそうかな?」

「そうよ、ここんとこ詰め込みすぎたわね。…んっ、掃除は私が代わるから、ミナは休んでなさい」

「でっでも…」

「いいから。具合が悪い時は、甘えなさい」

 そう言ってマカはホウキをミナから受け取った。

「それじゃ、私が掃除代わるからね! ちゃっちゃと終わらせて、早く帰りましょ!」

 クラスメート達に聞こえるように言って、マカは掃除を始めた。

 クラスメート達もマカに言われては、早く動くしかない。

 そんなマカを教室の隅で眩しく見つめるミナ。

 いついかなる時もミナの味方で、優しくしてくれるマカ。

 だからこそ、自分は闇の中から抜け出せたのに…。

 きっと今夜行かなければ、明日からしつこく付きまとわれるだろう。

 となれば、昔の自分の過ちもマカに…。

 ミナは唇を噛んだ。

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