業務内容を確認しましょう
ご主人様が普段と変わらない生活をこなす為に私達メイドはご主人様よりも早く起きて準備をしないといけません。掃除の分担、朝食の準備、ご主人様のスケジュール確認など色々。
かく言う私もそれを行う一人のメイドです。ですが他のメイドの方々と違うのはお屋敷暮らしではない為、そのメイドの方々よりも早くに起きて準備をしなくてはなりません。
「……ん?」
いつも鳴るはずの目覚ましが鳴らず、その違和感に目が醒めます。習慣づけられた体は直ぐに起き上がっては準備を試みようとするも体は起き上がってはくれません。
外はまだ暗く、明かりのないこの部屋で状況を把握するには目を慣らさないといけません。
「——すぅ……すぅ……」
聴こえるのは自分ではない誰かの呼吸音。その呼吸は吐かれるたびに私の胸元をほんの少し暖める。更に神経を研ぎ澄ませばその誰かは私の体に腕を巻きつけて眠っているようで、さながら私はその人の抱き枕といったところでしょう。
「……夢じゃなかったのですね」
先ほどとは違う昨日の出来事。思い返せば鮮明で鮮烈。余りにも激し過ぎたので私の過労かと疑いたかったのですがそんな事は無さそうでした。
「いろはお嬢様」
そのシルクの様な髪の毛を思わず撫でてしまう。人目のつくところなれば不敬と取られてはメイド衆の袋叩きに合うところでしょう。
それが今、私以外知らないというのは役得と思うべきか追加報酬の一端と取るべきでしょうか?
しかしながらどうしたものでしょうか?
いつもならこの時間に起きては出かける準備をしてお屋敷に向かい、メイド長の前に行っては指示を貰いに行ってたのにそれが不要となってしまった今、どうやって時間を潰せばいいものかと。
「静かに部屋の片付け?いえ、お嬢様の手が未だ離れられません。ならば朝食の献立?中身など覚えていません。今後の予定?お嬢様が私の予想通りの動きをするとは思えません」
結局のところベットの上で出来る事など殊更無く、どんなに思考を巡らせても答えなどは出ませんてました。
ならば仕方ないと二度寝をするのも手ではないかと。そうと決まれば私は再び両目を閉じては、お嬢様の頭を抱きかかえる様にし意識を落とす。
……一つ、心配事を上げるとしたのなら今まで二度寝をした事のない私はいつ起きれるのかという事でした。
「おはよう紗香。なかなか素敵な寝顔だったわ」
「……不覚」
次に目を覚ましたのは窓からの太陽の光が覗いた頃でした。目を開ければ私のパジャマを着たお嬢様が楽しそうに私の顔を覗いていました。
「メイドが二度寝して主人より後に起きるとは……一生の不覚です」
「今の貴女は私のメイドじゃなくて恋人でしょ?」
恋人。その様な言葉と共に昨晩の事が脳裏をよぎる。
「……お嬢様。私はお嬢様の恋人にはなれません」
「あらどうして?」
「立場があまりに違いすぎます」
主人とメイドの駆け落ち話なら何度か聞いた事がありますがその様な話の九割はフィクションであり、現実……それも第三者視点ではなく本人となれば恐れ多い事この上ありません。
「そうね。……でも私は元お嬢様。そして貴女は元私のメイドであり、今の私とはなんの関係もない現一宮家のメイド。ほら、立場なんて他所の子と他所の所のメイド。大した差なんて無いわ」
お嬢様はどうにもこうにも私とのその様な関係を築きたいご様子。
私に与えられた仕事は一宮家に戻る様に説得する事とそれまでの護衛。
「……分かりました。そこまで仰るのでしたらお嬢様のそのお遊びに付き合いましょう」
「お遊びなんて酷いじゃない。私は本気よ?……あぁでも」
お嬢様の手が私の頬に触れる。未だ完璧な覚醒をしていない私はそのまま持ち上げられては目と鼻の先にあるお嬢様のお顔から目をそらす事が出来ませんでした。
「遊びだって思っているあなたに本気で恋をさせようとするのも面白いとは思わない?」
……全くもってお嬢様は恐ろしいお方です。この様な事をされて相手の方が本気にしたらどうするおつもりでしょう?
私はお嬢様の手を外しては離れ、煙草を持ってベランダに立つ。
「分かりましたお嬢様。私はお嬢様のご意思にお答えして恋人ごっこを演じさせていただきます。期間は今月末の日付が変わるまで。それまでにお嬢様が私を本気にさせれなかった場合は大人しく一宮家に戻っていただきます」
「私が貴女を堕とした場合は?」
「お嬢様が意志で帰ると言わない限り恋人としてお嬢様のお側に居ましょう。一宮家に戻れとも言いません」
どっちが不利かも分からないありきたりな恋愛ゲーム。
しかし、私が乗り気な雰囲気を見せた事でお嬢様は俄然やる気を見せる。
「いいわ。それなら今から私達は恋人同士。楽しくやっていきましょう紗香?」
あぁ、どうかこの約一ヶ月の間の私の無礼をお許しください。
「恋人同士(仮)です。……まぁ、結果は目に見えていると思いますよいろはお嬢様?」
「お嬢様はやめなさい」
……一週間にすれば良かったと今更ながら気がつく辺り私はやはり無能なのでしょう。
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