夢夢忘れないように
九条紗香は一宮家に仕えるメイドの一人。歳は二十代半ば。年齢を正確に表記しないのは別に乙女に年齢を聞くのはNGなんて可愛らしいものなんかではなく、覚えていないのだ。
勿論覚えていないからといって無いから何となくそういった辺りだろうという憶測ではありません。財布に入った保険証や運転免許証には年齢表記はされており、それを見れば直ぐに分かることでしょう。
……こう、表現するのはあまり好ましくはないのですが、自分自身にさほど重要性、興味を感じないのが理由だと思います。
人間など大体二十歳を過ぎれば酒類や煙草などの様々な制約が解放されますが、逆を言えば二十歳以降の制約などはほぼ存在せず、ならば私が年齢に関して気にかけることなど重要ではない。
自分に興味の無いと言うと格好つけている風にも思いますがそんな良いものではありません。高校生が陽キャラに憧れるも薄っぺらいプライドのせいで意地になり『自分に興味の無い人間=格好いい』みたいな残念な思い違いをしてるのと同じです。
私は産まれて二十数年、何の面白みの無い人生を歩んでいた為に心の方で興味関心が無くなってしまったのでしょう。それこそ、街中ですれ違った疲れた顔のサラリーマンの人生の方が余程面白味がありそうです。
前置きが長くなりましたがこれはただの夢です。
私と言う人間がどんな人生を歩んでいたかを永遠と語られる夢。つまらない夢。親に捨てられ街をふらつき入ってはいけない所に入って怪しそうな人達にあれこれされてまた捨てられて死ぬ前にお嬢様に拾われたと言う笑い話にもならない話を毎日の様に見せられる夢です。
こんな夢を見るぐらいなら千円札を握りしめ、書店でライトノベル一冊とお釣りで珈琲でも買って読書に勤しんでいた方が余程有意義に違いありません。
……私が毎日のようにこの夢を見たからと言って何かが変わるわけでもありません。
先程の通り既に私は二十歳を超えており、一宮家で働き給料を貰い自立して生活をしています。そんな安定した生活を送っているが故に過去の彼等に対して必要以上の感情はありませんし街中であったからと言って殺してやろうなんて殺意高めの反応をするつもりもありません。
私が覚えていれば良いのは自分の必要最低の情報とお嬢様の事だけなのですから。
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