境界線 02―絹山俊輔と小原佐登留―
皐月山子供会で今、最も強い鬼――
皐月山小学校区の小学一年生から中学三年生を対象とした皐月山子供会における最上級生ではあるが、その外見はというと、どう若く見積もっても二十代中盤。
原因は、そこらの大人より遥かに立派な身体つきと大人びた顔つき。では、人となりを知れば年相応に見えるかというと、それもない。
皐月山子供会詰所に、高田が約束した時間通りにやってきた俊輔は、まずは理由を言わずに呼び出したことを高田と小原に詫び、そして、不機嫌な
このクソうるさいボケどもとの待ち合わせに詰所使った理由が下らなかったら許さないからな、覚えとけよ、と、佐島がいかにも子どもっぽい悪態を吐いていたのは、精神年齢的にも喧嘩にならない俊輔が相手だからだろう。
「歩きながら話そう」
詰所を出てから、俊輔は低く控えめな声で事情を切り出した。
――一週間ほど前から、犯人不明の悪戯が相次いでいる。
家の外に多数の気配と物音があり表に出るが、辺りには誰もいない。しかし、確認すると誰かがいた痕跡がある。
「家の壁に泥がついている、置いたはずのないものが置いてある、庭木の枝が折れていたり花壇を踏み荒らしたようなあとがあったりする――自治会に訴えがあったところをまとめるとおおよそこんなところだ」
俊輔のいる
「ただ、マッピング――相談者の住んでいる場所と地図とを照らし合わせたら、法則らしいものがあるのがわかった」
発生点は嘉陽地区をおよそ四つにわける線上にあり、その三本の線は隣接した竜尾地区のどこかで接する。
「竜尾地区?」
高田は思わず声を上げた。
「竜尾地区って、まさかオレんちですか? その線っていうのが接するとかっていうのって」
だから呼び出されたのだろうか、と。しかし、俊輔は首を横に振った。
「近いが高田の家ではない」
「じゃあ、どこっすか?」
拍子抜けしたように首を傾げたあたり、小原も高田の家だと思っていたのだろう。
だが、
「高田の家だと確定しているなら、お前に声はかけない」
俊輔は、少しだけ困ったかように、小原にそう言った。
うん? と、今度は反対側に首を傾げた小原は、しかし、すぐに思い当ったのか、あ、と声を上げて、顔をしかめた。
「あれ、やるンすね……」
「すまん」
「先輩、なんか偶然俺に会ったって雰囲気で声かけてきたっすけど……」
「すまん」
淡々と、だが、申し訳なさそうに詫びる俊輔に、いいですよ、と、小原はなんだか諦めたかのように笑った。
「もうなっちゃってるってことっすよね――先輩が思いついたら、大して探すまでもなく先輩の前に俺が現れる」
「すまん」
「運命っすね。というか、先輩からしたら確定した未来か」
「……すまん、
よくわからないやり取りをする二人をちらちらと交互に見、高田は内心でつぶやく――オレは?
運命や確定した未来云々というのはともかくとして、小原は俊輔に声をかけられるだけの理由があったということだろう。
高田はなぜ俊輔に声をかけられたのか。
うちの近くっぽいから道案内? とも思ったが、小一の時に皐月山に引っ越してきた高田より、皐月山子供会の副会長で、先祖代々皐月山の住民だという俊輔の方がまず詳しい。つまり、高田には地の利すらない。
とはいえ、正直なところ好奇心はうずいている。しかし、単なる人間でしかないにもかかわらず場違いなところでそれを発揮すると、おそろしくひどい目に遭うということを、高田はここ数ヶ月でいやというほど学んだ。
こういう場面でなにかと頼れるというか頼らざるをえない親友、
「あ! 忘れてた! そういえばオレ、親から頼まれてた用事が!」
――かつて遭ったひどい目を思い浮かべて好奇心を捨て去り、声を上げる。
俊輔と小原はほぼ同時に振り向き、そうだったのか、すまなかったな、高田、と申し訳なさそうに詫びた俊輔に、小原が問う。
「ていうか高田はなんなンっすか? 先輩」
訊きたかったが、答えが怖かった問い。
「ああ、場所を借りようと思ってな」
「場所?」
俊輔は頷き、高田の方に向き直る。そして、中途半端にいやなことを言った。
「親御さんの用事が終わってからでいい。親御さんに話をつけて家に上がらせてくれないか」
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