第397話 希望的推測① ~まずは復習から~
「……手紙を届ける? 出来るんですか!」
その一言で酔いが完全に覚めたのを自覚した。
思考自体はクリアになるが、しかし気持ちは昂るばかり。
そんなこちらの様子を見越していたのだろう。師匠はまずは落ち着けとばかりにグラスを傾ける。
「出来る出来ないで言えば出来るかも、ね」
「かも?」
その物言いに違和感を感じる。
基本彼女は出来る出来ないなどはハッキリと断言するタイプだ。能力の高さからその辺りの線引きは確実に行う。
無論不確定なことを全く言わないわけでもない。しかしその場必ずと言っていい程頭に条件をつける。
◯◯を用意したら、頑張ったらなどだ。
しかし先程彼女はこう言っていた。真面目な話だと。
そして性格は色々アレではあるが、こう言う時に無駄に希望を持たせるような人ではない。
つまり……
(師匠でも関与出来ない何かがある?)
そしてそれを自分に頼もうとしてる……のか?
だが異世界人召喚メカニズムは現在師匠とマイが第一人者だ。自分がそこに入れるとは思えない。
師匠がこの世界で関与出来ないとなるとそれこそマイとか中央管理センター関連になるけど……。
「さてさて、少しは落ち着いたかしら? ちゃんと順を追って説明するからね」
ともあれ今は考えるより話を聞く事を優先することにした。
どちらにせよ教えてくれるみたいだし。
「すいません、お願いします」
「はいはい。とりあえずまずは復習からね。あたし達異世界人が召喚、および帰還の際には膨大な龍脈エネルギーが必要なの。まぁこの辺は今更よね」
「そうですね。そのせいで人王国が文字通り傾き掛けてたわけですし」
だからこそウルティナ考案の召喚石連結方式で龍脈に逆に魔力を送り込む案が採択されたんだし。
「でね、そもそもの話なんだけど」
「はい」
はて、なんだろう。今の流れに何か気になる点があっただろうか。
「なんでこんなにエネルギー使うのかなーって。不思議じゃない?」
「え。……うーん、そういうものだからなのでは? 何せ異世界から呼んでるわけですし」
「ダメよー、疑問に持ったら正否問わずまず考えないと」
まぁそうかもしれないけど、召喚の理論なんて全然分かんないのに……。
「でもねー、たった十人で国が文字通り傾きかけたのよ? どんだけエネルギー食って何に使ってるのよーって思わない?」
「まぁ言われてみれば確かに……」
「だって誰呼んでも似たり寄ったりの消費よ。考えてみなさいよ、ヤマル君を十人呼んだら世界滅びかけるのよ。シュール過ぎない?」
確かにそれは……シュールだなぁ。
これが師匠が十人なら分からなくも無いけど……。いや、別な意味で世界滅ぶかもしれないか。
「でね、気になってマイちゃんに手伝ってもらって一緒に調べたのよ。召喚自体はしばらくはないでしょうけどその辺りは突き止めた方がいいと思ってね」
そこまで言うと通信タグからマイの声が聞こえて来た。
『こちらからは主に龍脈エネルギーの推移のデータを提出しました。ここからは推察になりますが、召喚のエネルギー量が膨大なのは世界への定着に用いられているのではないかと思われます』
「……? どゆことですか?」
定着?
「そうね。あたしもだけど、召喚された人って有り体に言っちゃえば歪なのよ。世界の異物とでも言えばいいかしら」
「それはまた存在全否定のような言葉ですね……」
「あながち間違ってないのがなんともねー。何て言えばいいかしら……ルーツがないって感じ? ほら、命って紡いでいくものでしょ? だけど
「まぁ、確かにそうですね」
「無から有は生まれない。これは自然の摂理よ。その摂理を捻じ曲げ押し通す為に必要だったのが……」
「膨大な龍脈エネルギー、ってわけですか」
「そ。その力を使ってあたし達の存在を無理矢理世界に認めさせてるってとこからしら。とは言え現状再現も出来ないからあくまで情報からの推察だけどね」
確かに現状新たに呼ぶことも出来ないし確認のしようがないか。
「そう考えると呼ばれる面々が人間しかいないのも割と合致するのよねー」
「と言うと?」
「ただでさえ歪な異世界人。そこに更に逸脱した存在を呼ぼうとするとキャパシティ超えるんじゃないかしら。逆パターンになるけど、例えばヤマル君を元の世界に帰すのと、ヤマル君の世界にコロナちゃんを送るんじゃ後者の方が消費が多くなるんじゃないかしらね。そっちの世界には獣人とかいないんでしょ?」
「ですね、概念的にはありますけど……。あれ、でもそれなら召喚者に獣人とか魔族とかいてもおかしくないのでは?」
『元々この世界にいるのは人間種のみです。その他の亜人種系統は人によって造られた者だからではないか、と推察されます』
「確定じゃないけどあながち的外れってわけでもないんじゃないかしら。今まで一人もいないわけだし。動物とかも意思疎通が困難とか色んな制約あったのかもね」
なるほどなぁ……。この二人が言うと説得力があるな。
片や魔法に精通した稀代の魔女。片や科学文明の粋を結集した管理AI。
自分では足元のあの字すら及ばない人らだし。
「とにかく異世界人召喚はこんな理由で膨大なエネルギーが必要ってことね」
「わかりました。……あれ、でも今の話に手紙のこと出てきてませんよね?」
元々手紙が出せるかも、の話だったはずだ。
もちろん新たに分かった事象については興味深い話だが、本題はそこではない。
「慌てないの。それはここからよ」
いーい?と人差し指をたて、まるで子どもに説くかのように彼女は再び話し始めた。
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