第395話 出した結論は


 あれから一週間ほど経った。

 流石に王城前で大立ち回りをしたせいで城の内外含め色々大変だったそうだ。


 この辺は人づて(主にレディーヤから)だが、あの変な騎士隊長や部下の騎士団の処置、それと王室騎士団周りで結構ゴタついていたらしい。

 前者に関しては越権行為に入るかどうかも視野に入れた内部監査まで行われたそうだ。

 結果、あの隊長の独断による行為であると判断された。

 当人への通達時に相当ゴネて更に色々あったらしく、元々あった降格処分に加え謹慎処分も追加されたそうだ。

 現在は副隊長があの部隊をまとめているらしい。一応臨時処置とのことだが、近いうちに正式に隊長に昇格の辞令が下るとのことだった。


 そして王室騎士団の方はこちらは自分にやられたのがかなり堪えたらしい。

 正確に言うと単純に弱い自分にやられたからではなく、装備も練度も十二分なのにほぼ全滅レベルまで持っていかれる手段があった事に衝撃を受けたそうだ。

 これが例えば師匠やブレイヴの様に単純な実力者に負けたのならば原因がはっきりしているのだが、客観的に負けるはずのない相手がやってきた攻撃で動けなくなった事実がよっぽど堪えたのだろう。

 王室騎士団はその名の通り王族を守る最後の砦。それがこうもあっさりと負けたという事実が彼らのプライドに火をつけた。

 現在装備の見直しを含め、未知の事象に対する対策を練っているそうだ。

 ちなみに自分もこの辺りは呼び出しを食らい根掘り葉掘り質問された。電気についての話も一応は行ったものの、概念が無い事象を説明するのは中々難しい。

 最終的には"そういうもの"だと納得してもらったが、説明する難しさと言うものを改めて感じた。


 ともあれ騎士団二つについては自分はお咎めなしとなった。

 この辺はウルティナが口添えして何故あんな行動になったのか説明してくれたことと、普段の自分の人となりを他ならぬレーヌが証明してくれたためだ。

 ダメージ自体も(約一名を除けば)そこまで無かったのも理由の一つだろう。電撃ダメージも即効性はあるが抜けた後はそこまではないのも良かったのかもしれない。



 さて、ではそんな自分が今何をしているのかと言うと……。


「んー……良い天気だ」


 王城の正門を出て街に続く大通りで大きく伸びをする。

 しかし自分の言葉に対し返事は一切返って来ない。


 それもそのはず。今の自分は一人きり。ポチやシロすら連れて歩いていない。

 一人で王城に出向き用事を済ませたその帰り道だからだ。


(とりあえず宿に戻ってから……ん?)


 わん!と聞き覚えのある鳴き声に視線を向けると、そこにはいつもの面々が全員揃っていた。

 終わったら宿に戻ると出る前に伝えていたはずなんだけど……。


「あれ、皆どうしたの?」


 わざわざ全員集合するほどだ。何かトラブルでも発生したのだろうか。

 しかしそう声をかけても特に問題が起こったとかそんな感じはしなかった。


「ううん、何となく迎えにきただけだよ」

「せっかくですし帰りに皆でどこかに寄るのも良いかも、となりまして」


 そう答えるコロとエルフィの声もどこかぎこちない。

 するとそんな様子を見てかドルンが苦笑しながらこちらの腰を軽く叩いてきた。


「ま、こいつらも色々不安だったってことだ。……んでちゃんと済ませて来たんだろ?」

「あー……まぁちゃんとやってはきたよ。レーヌがすごい申し訳なさそうにしてて半分泣いてたけどね」


 あの顔は中々心に堪えた。自分の事であんな風に涙溜められると……ねぇ?


「まぁ皆には伝えた通りこっちに残ることにしました。今後ともよろしくね」



 ◇



 その話を仲間にちゃんとしたのは今朝方のことだ。

 朝食を済ませた後全員を自室に集めた。こちらの真面目な雰囲気に皆も何のことか察してくれたのだろう。

 全員を席に着かせ、召喚石をレーヌに渡す事……つまり自分はこの世界に残る事を告げた。

 その時の皆の顔は何と言うか、どう表現していいか分からない表情をしていた。


 コロは素直に喜んでいいのか困惑も混じってるような感じだったし、エルフィはエルフィで自分に対して本当に良かったんですか?みたいな心配そうな顔をしていた。

 ただドルンだけは流石大人の男と言った感じで「そうか」と目を伏せ一言呟くだけだ。彼も基本師匠たち同様こちらの意思を尊重する立ち位置を取っている。


「まぁそんなわけで今日召喚石をレーヌに渡してくるよ」


 この件であれば彼女たちは最優先で応対してくれるだろう。何せ国の存亡がかかっているのだから。

 それにいつまでも手元にあっては自分の中で未練が残ってしまいかねないし。


「ヤマルは、その……」

「ん?」


 おずおずとやや上目遣いで窺うようにこちらを見るコロナ。

 中々言い出すことが出来ない彼女の言葉を待っていたが、程なくして意を決するように言葉を紡ぐ。


「その、後悔しないのかな……って。ずっとそれ手に入れるために頑張ってたし……」

「後悔、かぁ」


 さて、どうしたものだろうか。

 この問い掛けに対する回答は既に自分の中で固まっている。だからそれを口にするだけなのだが……。


(う〜ん……)


 それを聞いて彼女達が気を使わないか……いや、違うな。彼女達自身を責めないかが少し心配だ。

 皆優しい子達だ。勿論ドルンだって気を使える大人である。

 ただこれを聞いた時『ヤマルが帰れなくなったのは自分達のせいだ』と思いそうなのが少し怖い。

 だけど真剣なこの場で誤魔化しや濁しは……ダメだな。ちゃんと自分の想いはハッキリと告げるべきだろう。


「正直言うと後悔はある」

『ッ!!』


 ほら、思った様に顔が強張ってる。

 後悔は勿論あるさ。そりゃ帰るためにここまで色んなとこを巡って来たんだし。

 それを易々と手放す事が出来る程、俺は強い人間じゃない。


 だけど……


「でもね。このまま帰ったとしても後悔は必ずする。俺がどっちを選んだとしても後悔自体はきっと無くならないよ」


 そうして皆に自分が考え出した結論を吐露する。

 ここに残る事での後悔は勿論二度と故郷に帰れず親に二度と会えぬ事。それが嫌で慣れない旅もしたし危険な橋も渡って来た。

 だがその反面、帰った事での後悔はその後の皆がずっと気掛かりになってしまうことだろう。

 こんなにも世話を焼いてくれて慕ってくれた皆が今後どうなるか……。それこそ下手をすれば……いや、しなくても高い確率で争いが起こる。戦争に発展するかもしれない。

 そんな中、自分は日本でちゃんと生活出来るのか。例えあちらで幸せな生活を手に入れたとして、その事に目をつぶって生きていけるのか。

 勿論何も起こらないかもしれない。師匠もうまくやると言ってくれてたし杞憂に終わる可能性もある。

 だがそれを確認する術はその時にはもう無い。


「俺は英雄でも無いし偉人とかそーゆー讃えられるような人間じゃないのは自分でも分かってるからね。十把一絡じっぱひとからげに埋もれる程度のその辺にいるただの人。だから皆が思ってる様な『俺が我慢する事で世界を救う!』なんて崇高な自己犠牲精神は持ち合わせてないからね?」

「そうなの……?」

「そうだよ。もしそうなら悩まずとっくに召喚石を渡してるよ。だからこの答えはそう言った後悔も何もかも全部含め『古門野丸はどうしたいか』って考えて出した結論だよ」


 もちろんその中に彼らに対する想いも多分に含まれている。

 だが"彼らがいたから"で決めたわけではない。そんな他人に責任をなすりつける事はしない。

 その気持ちも全部ひっくるめてこその自分の気持ちだ。

 それが日本に帰ることの気持ちを上回ったからこその結論。将来的に後悔することもあるかもしれないが、それも選んだ自分の責任だ。


 一から十まで、徹頭徹尾、全部俺が俺の為に決めた事。


 最後にそう締め括ると仲間の皆も納得してくれたようだった。

 もちろんまだ思うところはあるだろう。それは自分だって同じ事。



 ただその辺りは時間が解決してくれる。そんな気がしたのだった。

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