第390話 暗転
(いいぞ……そのままどいてくれよ)
じりじりとコロナの方に歩み寄りつつ彼女が飛びかからないよう事を進める。
視線の先では自分が放った《軽光剣》が次々とコロナを襲いそしてすべて回避されている光景だが……
むしろ触れられてしまっては逆に困るのだ。
(当たるとバレそうだからなぁ……)
電撃を纏った《軽光剣》だが、そもそも先ほどの騎士たちと違い水に濡れていないコロナ相手では当たっても大したことにはならないだろう。
無論多少なりとも効果はあると思うが……多少でしかない。
はっきり言ってしまえば今コロナが全てを振り切って《天駆》でこちらに突撃してきたら詰みだ。
爆風や電撃を浴びさせて動きを鈍らせることは出来るが、その状態を差し引いてもきっと自分よりは動けるだろう。
だからこそわざと《軽光剣》の追尾は緩く……はしてないけど、無駄に本数は増やしていない。
騎士団を一掃したときの印象が強く残っている今だからこそ使える一手。
後は勘違いしたままコロナが道を開けてくれるのを待つだけ……だけど。
(ほんとよく避けるなぁ……)
コロナも相応にプレッシャーかかってるはずなのに……。
前方から迫る圧に屈することも無く、飛び交う剣を素早く回避する彼女のその姿は流石としか言いようがない。
(どうする……本数増やすか……?)
判断が難しい。
現状大量に魔法を展開してキツい部分はあるが余力自体はまだ残っている。《軽光剣》の本数を増やすことは可能だが、さりとて増やし過ぎた結果一か八かでコロナが突っ込んで来るのは困る。
増やすか、現状維持か……。
「ッ!?」
こちらの迷いの隙をつくようにコロナが《天駆》で上昇。そのまま《軽光剣》を振り切るように空中で切り返しこちらに向けて一気に突撃してくる。
(気付かれた……?!)
思ったより圧をかけ過ぎたか? いや、そんなことを考えている暇はない。
(くっそ、ほんとに早い……!)
マンガやアニメの様に目の前で消えないのがせめてもの救いか。知覚できていればこちらの魔法の展開速度で何とか追いつける。
魔法のまの字も知らないはずだった自分が手足を動かすより魔法を使う方が戦えるのは皮肉かもしれない。
「くっ……」
コロナがこちらの魔法の射程内に入る。
次々と魔法が爆発し彼女を追尾していた《軽光剣》が余波で砕かれる中、爆風に耐えながら一直線に向かってくる彼女を見据え、進行方向……つまり真正面で相対するように更に《軽光盾》を二枚追加。
三枚を重ねるようにして前面に押し出すと同時にコロナが"牙竜天星"を投げようと振りかぶっているのが見えた。
ヤバイと体勢を低くした瞬間にはすでに着弾。ガァン!と音が響くと同時に《軽光盾》がこちらに押されるがこちらも体を張ってなんとか吹き飛ばされるのを防ぐ。
(普通投げるかなぁっ?!)
直接触れられない以上投擲はアリと言えばアリだが、それでも刀を投げつけるのは頭にはなかった。
視界の端に弾かれた刀が見えたがコロナがそれを取る様子はない。弾かれた刀が周囲の魔法の爆発に煽られながら離れる様子が感じ取れる。
だがそれ以外に反応はない。つまりコロナは途中で切り返すことなくまだ正面にいることになる。
(でも武器は無い……!)
《軽光盾》の防御力はさほど高く無いが市販品の盾程度はある。普通にバキバキ壊すことができるコロナやドルンがおかしいだけで別に紙で出来ているわけではない。
いくらコロナとは言え素手で割ることは……やれなくはなさそうだけど簡単に砕けるものでもない。それこそ電撃付きなら尚の事。
だからこそ突撃自体は最悪あると思っていても武器を投げるとは思ってなかった。
なら次の俺がやる事は……
(離れる事!)
別にコロナから逃げ切れるとは思っていない。しかし隙間を作る事で魔法を展開する空間が出来る。
《軽光盾》を押し付けるように前面に押し出し、その反動で軽くバックステップを踏む。
そして空いたスペースに再度魔法を展開しようとして……
「?!」
驚きが隠せない。そもそも詠唱が無い自分の魔法は手足を動かすように展開が可能なのだ。
魔力切れや集中力が乱れたなら分からなくもないが、まだどちらも余裕がある。
そもそも自分が失敗したような感覚ではない。
まるで押さえつけられたかのような外的要因の感覚。そしてその感覚が間違いなかったのは目の前の光景が物語っていた。
「これってエルフィの……」
先ほどまで自分が立っていた地面が盛り上がったかと思った直後、それらが槍の形になり前方に向け突き出される。
それはさながらコロナを迎撃するような形。
大地の槍の穂先が盾の内側に触れた直後、その威力によって《軽光盾》が粉砕。コロナの姿が露わになりると同時に魔法が彼女に襲い掛かる。
しかし……
「やああぁぁぁぁ!!」
盾の裏と言う完全な死角からの攻撃にも関わらずコロナは空中で身を翻しそれを回避。槍の側面を滑るように更に加速してこちらとの距離を一気に詰める。
元々盾の内側には魔法を展開していないためもはや彼女と自分の間に遮るものはない。
「ぐは……ッ!」
まるで人間砲弾の様にこちらの腹に飛びつきそのまま背から地面に叩きつけられる。
衝撃で肺から空気が強制的に押し出され目がチカチカするが押し倒されたのはすぐに分かった。
起き上がろうとするが小柄で軽いコロナもそれを十分に理解しているのだろう。筋力を用いた形の抑え込みか何かのせいで起き上がる事が出来ない。
(く……)
引きはがそうとしても密着されてはどうしようもない。筋力の差ではどう足掻いても彼女には勝てない。
よしんばこの状態から抜け出すことが出来てもすぐに追いつかれるのは目に見えている。
(打つ手なし、か)
そもそも近づかれないように立ち回っていたのだ。こうして密着されてはどうにもならない。
そう認識すると自然と体から力が抜けていく。
(後は沙汰を待つだけ、か)
正直帰ることが前提で強硬策を取った。だからこの後は今回の件について何かしら責任追及が……
――やれ。
(……ん? 何か聞こえたような……)
――背中ががら空きだろ。
(いや、コロナ相手じゃそもそも有効打が何も……)
――刺せ。そうすればすぐに……
(は? 何を馬鹿なことを言って……ッ?!)
――やれ。
瞬間、まるで自分の心が黒いナニカに飲まれるような感覚に塗りつぶされる。
そして瞬時にコロナの背後に《軽光剣》が三振り生成。その切っ先がこちらに向いているのが見え……
「コロ、俺を落とせ!!」
最後の力を振り絞り目の前の彼女にそう叫ぶ。
そしてこちらの意図を読み取ってくれたコロナが顔をあげこちらを見つめ……直後、頭に強い衝撃が入りそのまま意識を手放した。
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