第377話 幕間・ぶつかる思い


(ほんとどうしよう……)


 この言葉を思うのは何回目か。そして結果が出ないのも何度目であろうか。

 もちろん頭では一朝一夕で出るような問題でないのは分かっている。今夜中に出す必要も無いのも知っている。

 でも必ずこの答えは出さなくてはならない。


(元の生活か、世界の英雄か……か。後者はガラじゃないけどね)


 もっと極端に言えば両親か皆か。

 元の生活とか英雄とかは自分自身の今後でしかない。日本でも英雄になれる(かもしれない)し、こっちの世界で普通の生活を送ることだって(多分)出来る。


 しかし人はそうはいかない。

 日本に帰れば皆と、こちらに残れば両親と今生の別れになる。特に両親は皆と違い突発的に起きたこと。

 皆との別れは辛いが覚悟は出来ていたし分かってことだが、両親については何一つ話せぬままの別れとなっている。

 普通なら当然予定通りに日本に帰るべきなんだろう。


 だがここに来て発生した人王国の人命の重み。

 本来自分が背負うものではないのは分かってはいるが、はい知りませんと無視出来ないのもまた事実。

 何よりコロナ達皆に別れ以上の迷惑をかけてまで我が儘を通すべきなのか。


 帰るべきだ、と言う声がある。

 そもそも自分は完全な被害者。望む結果の為の付属品として呼ばれた不用な人材。

 勝手に呼び勝手に不用の烙印を押されたのなら、勝手に帰って何が悪い。

 何よりまだ親孝行らしい親孝行を何一つしていない。


 だがその一方で残るべきだ、と言う声もある。

 確かに初めは不用だったであろう。

 だがこちらで過ごすうちに信頼できる人も出来た。こんな自分でも必要としてくれる人も居る。

 何より自分一人でが我慢すれば全てが丸く収まるじゃないか。

 召喚石単体の価値だけでも一生食うに困らないほど。悠々自適な生活だって狙えるだろう。


 だが、でも……




(……分からない。どうしたら……)


 ――帰ればいい。その為に今まで辛い思いにも耐えて来たんだろう?


 ……そう、確かにそうだ。

 辛い思いも経験した。命が脅かされる事すらあった。

 それでも頑張ったのは日本に帰るためだ。


 ――だが迷っている、と。


 ……その通りである。

 ずっと迷って悩んで答えが出ないを繰り返している。


 ――迷うという事はつまりどちらも同じぐらい大事ということではないか?


 ……確かにその通りだ。

 同じぐらいでなければここまで迷わないし、とっくに答えが出ている。


 ――ならどちらを選んでも必ず後悔する。同じなのだから。


 ……そう、だ。


 ――ならば単純に、シンプルに考えるべきではないか。


 ……シンプル……


 ――そう、シンプルにだ。心は移ろうもの、気持ちや考えが変わる事もあるだろう。しかしそれが未だ続いているのなら……


 ……続いているのなら……


 それが心の根幹にあるもの、最初の気持ち。あとはシンプルに、素直に……


 ……最初の、気持ち。俺の気持ちは……







「! わふっ!」

「ポチ、それにシロも」


 ドアを開け廊下に出ると、そこには出てくるのを待っていたかのような自分の獣魔。

 ポチは嬉しそうに尻尾を揺らしながら近づき、シロはその後ろから「仕方ないな」と言った様子であるいてくる。


「……ねぇ、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど」


 この二匹ならすぐに……



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