第364話 閑話・ある貴族の毒殺事件? その2
「う~ん……どう、って聞くまでもないよね」
そう問いかける自分の声に力はなく、苦笑じみた表情で視線を向けるとそこには当然とばかりに頷くシンディエラの姿があった。
「当たり前でしょ。流石に私じゃなくても全員そう言うわよ」
ねぇ?とシンディエラが室内にいる全員に問う。するとそれを受けた付き人二人はもとより、かなり自分寄りであるはずのフレデリカもその意見に肯定していた。
その反応自体は当然と自分でも思っているため納得はできる。だがそれはそれでどうしたものかと言う新たな悩みが発生していた。
「しかし服のサイズが合わなくなるとは思いませんでしたね」
そう。目下の問題は今自分が着ている服のサイズが合わなくなっていること。
……端的に言えば服がピッチリした状態になっていた。
何故こうなったかと言うと話はミニアが去って少ししてまで遡る。
自分が彼女にお願いしたことは『今回自分が調査することをちゃんとご両親に話して許可を取る事』だ。当然許可が下りた後は向こうの家の人を交えた聞き取り調査からになるだろう。
その場合どんな形になるかは不明だが当然会談形式になる。つまり普段着で行くのは礼儀として大変よろしくない。
この前獣亜連合国へ行った際は冒険者として赴いたためいつも通りの出で立ちであったが、今回は個人的に受けたお話。
ゆえに身なりを整えようという事で以前シンディエラの茶会で使用した服をまた借りたのだが……。
(まさか自分がここまで筋肉ついていたとはなぁ……)
もちろんムキムキなマッチョになったわけではない。
ただ前回この服を着てから魔国に行ったり中央管理センターに行ったり修業したりしている間にそれなりに筋力がついていたらしい。
そのため今着ている服も正確に言えば着れなくはないのだが、全体的に余裕がなくなった形になってしまっている。このまま前屈でもしたら背中がやぶれそうだし、屈伸した瞬間に尻の部分がギャグマンガみたいに割けてしまいそうだ。
……なお
「爺、サイズ合わせ出来そう?」
「採寸次第ですが流石にこれでは仕立て直した方が遥かに良いかと思われます」
「あ、その。お金なら最近そこそこ稼げてるから一着ぐらいならなんとか出来ると思うけど……」
流石に貴族に会う服は相応の値段がするだろうが、幸いなことにここ最近は国がらみの仕事が多かったため懐事情は比較的良好だ。
今回のような突然の出費にも恐らく対応は出来ると思う。
「フルカド様。オーダーメイドの服ともなれば相応の日数をいただく事になるかと」
だが無慈悲にもシンディエラの執事が現実を教えてくれた。
服がオーダーメイドなのは予想はしていたが、それ以上に問題なのが日数らしい。例え今すぐ頼んだところで生地選びから採寸、更には細かい調整があり、おまけにその様なお店は他の貴族達の服も仕立てている。
彼らの予定を後回しにしこちらを繰り上げさせるのは難しく、よしんばやれたとしても更にお金を上積みされることになるだろう。
「……仮にあの子のご両親がオッケー出したとして、どれぐらい余裕ありそうかな」
「そうねぇ……数日ぐらいかしら。速達で手紙を送って返送、もしくは早馬で関係者がやってくるかもしれないし」
「事が事ですから解決できるのであれば早急に手を打ちたいと思われます。お嬢様が仰られた通りあまり日時は無いかと」
打つ手なし、か。
サイズがあってすでに仕立て済みの物を買うのも手だけど、その場合貴族の目に叶う物があるか……。
「……あ」
どうしたものかと考えていると、ふと天啓とばかりに一つのアイデアが舞い降りた。
◇
そして数日後。
「ようこそおいでくださいました。どうぞこちらに」
屋敷の玄関先にてミニアと一緒に出迎えてくれたのは彼女の家の執事長。
数日前にシンディエラが予想していた通りほぼ最短で場が設けられ、こうして王都にあるミニアの家の屋敷へと招かれた。
先日まで悩んでいた服だが、今の自分はちゃんと適正サイズになった例の服の恰好である。
これは別に服を直したり新しく買ったわけではない。
あの時思い出したのは以前中央管理センターで説明されたマルチクロース+ホログラムの組み合わせだった。
説明を受けた時は着込んでいる鎧の都合上ホログラムの方は使用しない……と言うか出来ないという事でスルーしていたのだが、今回改めて必要になりマイにそれを欲しいと言ったところどうやらメムが持ち帰った物の中に現物があるとのことだった。
ホログラムであれば病院着みたいな格好をしなくてもオシャレが可能であるため、この手法は当時から割と医療用としても重宝されていたらしい。
ともあれメムに頼み一つ借り入れ、先の服のデザインデータを取り込んだことでこうしてめでたく問題が解決されたというわけだ。
……なお服装チェックを行ってもらった際、あまりの技術の高さにシンディエラ達(執事たち込み)にペタペタ触られたのは心の中に封印しておく。フレデリカなんかあきらかにお腹触ってきてたし……。
「どうかされましたか?」
「あ、いえ。なんでもありません」
いかんいかん、どうもあの時のことを思い出したせいで心配される表情になっていたようだ。
軽く首を振り雑念を追い出しながら屋敷の通路を彼らの後を追うように歩いていく。そして程なくしてある一室へと案内された。
予想通り応接室なのだろう。他の貴族(クロムドーム家しか知らないけど)同様に豪奢な調度類が並んでいる。
「こんにちは。この度はありがとうございます」
そんな中、室内にはすでに一人の男性がいた。
彼は座っていた椅子から立ち上がるとこちらに頭を下げ挨拶をする。
「彼は我が家の料理長です。今回の件につきまして私と一緒に来ていただきました」
「あ、わざわざご足労ありがとうございます。古門野丸です」
こちらも名を名乗り頭を下げて挨拶を返す。
彼らは貴族に仕える人達だけど自分に対して下に見ることは無かった。ともに長と言う立場だと言うのに……。
(いや、それは偏見か)
貴族関係者=高慢ちきと一括りにしてしまうのは流石に色眼鏡で見すぎだろう。どうにも自分と直接関係ある人とそれ以外との振れ幅がひどいせいか少し当てられていたかもしれない。
彼と握手を交わした後、そのまま促された席へと座る。
そして全員がそれぞれの席へ着いたところで早速とばかりに執事長が口を開いた。
「改めて本日はありがとうございます。旦那様の名代として私が今回の件でお話をするよう仰せつかっております」
「了解しました。どこまで出来るか分かりませんがよろしくお願いします」
「こちらこそ
「
そうですね……と少し考える素振りを見せる執事長だが、何か嫌な予感しかしない。
「神殿回りだと神の申し子、我々貴族間ではクロムドーム家の隠し子、後は女王様の内縁の夫なんて噂もありますね。どれも噂レベル程度ですが他には……」
「いえ、もう結構です。どれも全部違いますから」
他に何があるか気になったがこれ以上ダメージを負う前に止めてもらうことにする。
と言うか噂の出所に心当たりがありすぎる……。後でレーヌの頬を引っ張っておこうと心に誓い、とりあえずは目の前の事に集中することにした。
「しかし平民でありながら王侯貴族を始め、国外にも様々なツテを持ち一目を置く人物であることは存じ上げております。お嬢様もそれでフルカド様にお話を持っていかれたのかと」
「爺」
「良いではありませんか。旦那様に向かって真正面からお願いをするお嬢様の姿、私はとても感動いたしましたぞ」
「……もぅ」
筋を通すために彼女には今回の件について許可を取るようお願いしたのだが、どうも自分が思っている以上の事が起こっていたようだ。
手を抜くつもりは微塵もないけど、自分が出来る限りのことは協力しよう。
「ではすいませんがまずは何があったか再度教えていただけますでしょうか。ミニアさんには大よそは聞いていますが、詳細については知らないとのことでしたので」
「かしこまりました。あれは今から二十日ほど前のことでしょうか」
そして執事長によって当時の出来事とその後の経緯が語られていく……。
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