第353話 大地の修理9


 さて、シロの件で回り道をしたがまだ問題は残っている。


 今回の旅では食後に各チームのリーダーが今日一日を過ごし何か問題がないか等意見をすり合わせる場を設けていた。

 【風の軌跡】からはもちろん自分、【風の爪】からはラムダン。

 ただし【フォーカラー】だけは全員集合の形だ。一応リーダーとしてアーレがいるが、彼らは四人で一つの様なところがあり、大事なことは全員で決めるためでもある。

 後はまだ若い彼らに対しこの様な場でどの様な話をしているのか経験させる目的もあった。


 ともあれ共有する内容は至ってシンプルである。

 全体を通し一点……本来はシロの件があるので二点だが片付いたのでこれは横に置き、メインの話が一つある。

 その話をする前に一日を通しての問題の有無を確認したがこちらは特に無し。自分とポチ、ブレイヴが渓谷の底に行った際に配置転換をしたがこれも問題無かったとのこと。

 そう言えば【フォーカラー】の四人と一緒にいたコロナが妙に機嫌が良かった気がする。まぁ何があったかは知らないけど仲良く出来ているならいいことだ。


「さて、では今日のメインだが……」

「うむ。下で起こった話だな。大よそはヤマルが話したと聞いたが?」


 今回の最大の議題である魔石をどうするか。唯一にして特大の問題である。


「あれこれ話すと取っ散らかりそうだからまずはシンプルなところからね。可能不可能は一旦置いておいて、まずは正直な気持ちとして魔石欲しい人」


 これについては当然だが殆どが挙手。唯一手を上げなかったのはブレイヴだ。

 全員の意思が確認できたところで一人上げなかったブレイヴに対しラムダンが質問を投げかける。


「ブレイヴさん。あんたは欲しくないのか?」

「魔石を取って換金するのだろう? 正直なところそこまで金に困ってはいないのでな。それならば皆で分けた方が良いのではないか?」


 過去の実績や魔王を勤めていたためか、ブレイヴが金に困ったところは今のところ一度も見たことが無い。

 手持ちが無いから貸してくれはあったが、それは金欠ではなく文字通り手元にないだけで魔国に行けば彼の資産が十二分にあるそうだ。


 今回の大量の魔石を売ると結構な額になるはずだが、それはあくまで自分達目線でのこと。

 そこまでお金に困ってないブレイヴとしては、先ほど言った自分の分配を皆に分ければ良いは間違いなく本心だろう。


 ただそれがまかり通るのであれば自分もここまで頭を抱えない。


「とりあえず魔石は採掘する方向で話を進めますね。ただブレイヴさんの取り分はちゃんと無いと色々問題ありそうなんですよね……」

「ふむ、人王国の法か?」

「罪とかじゃないですよ。どっちかと言えば外交的な話でしょうか」


 今回の頭の痛い部分がブレイヴの現在の立ち位置である。

 彼は自分達と一緒に行動はしているが、正確に言えばパーティーメンバーではないし冒険者でもない。

 どこかのギルドに所属しているという事もなく完全にフリーなのだ。

 もちろんこれはあくまで書類上の話。コロナの師匠でもあるし自分達からは大事な友人であり仲間だと思っている。


 ただそんな目に見えない関係性ではどうこう出来ない世界があるのだ。特に貴族うえの世界なんかは顕著である。

 例えばブレイヴの言う通り分け前を自分達だけで分配したとしよう。すると『元魔王に対し無礼』、もしくは『人王国に施しをした』と見做す人が出てくるかもしれない。

 本気でそう思う人はあまりいないだろうが、その様な口実を与えるような事はなるべくは避けた方がいいだろう。何せ最悪あちらへの移民案も出るかもしれないし……。


「ほら、それに自分達だって魔国から色々持ち帰ったでしょ? あれみたいなもんです」

「しかしそれは冒険者ギルドで制定されたものだろう。依頼時に見つけたものは当事者が持ち帰って良いはずだが。無論置いて行ってもなんら問題ないし、今回の件もソレであろう?」

「だからと言って手ぶらは外聞があんまり良くないんですよね。むしろ今回の魔石、正直ブレイヴさんが総取りでも通る話ですよ」


 え?!と驚いた顔をする【フォーカラー】の面々だが何を驚く部分があるのか。

 そもそもブレイヴが気付かなければあの魔石は存在すら知られることはなかった。


「それにぶっちゃけ労力気にしなければブレイヴさんならあれ運べますよね」

「そうだな。量が量だけに相応な時間は要するが不可能ではない。ただ先ほど言ったように現状金銭面で困っていないのと、採掘と運搬が面倒だからしないだけだ」


 そう、現状あの魔石を運び出せるのがこの中で彼だけ。その事実が拍車をかける。

 特にこの渓谷を昇り降りするのが苦労どころではない。降りた自分だから分かるけどかなり高さがあった。

 正直空を飛ぶ手段が無いと荷運びは無理そうなのだが……。


 そんなことを考えているとブレイヴが言葉を続ける。


「だからこちらとしては気にしなくていいのだぞ?」

「……自分の地元にこんな言葉があります。『ただより高い物は無い』」

「ほう? どんな意味だ」

「ざっくり言えばタダでもらって喜んでも後々より高くなってやってくるって感じですね。そうですね……ブレイヴさんに例えるなら、うちの師匠がとても良い魔道具をタダであげると言ってきたら受け取れますか?」

「無理だな。まだ詐欺師の誓約書にサインする方がマシだろう」

「まぁそんな感じです。後々貸し借りとか面倒事の可能性抱えるぐらいなら今分かりやすく清算した方がいいんですよ。もちろんブレイヴさんが後々まで伸ばすとは思ってないですからね」


 外聞的なものですよ、と最後に付け加えたところでブレイヴも納得してくれたようだ。


「まぁそれに折角仕事で稼いだお金ですし、それでミーシャさんに何か買ってあげれば喜ばれるんじゃないですかね」

「ふむ、それもそうだな」


 そして最終的には『総取りもいらない、最低限角が立たない程度にそちらで決めてくれ』とだけ言うと彼は話は終わったとばかりにこの場を去っていった。


「……まぁ取り分の話も大事だが、そもそも魔石を取ることが出来るのか?」


 コホンと軽い咳払いと共にラムダンが話を戻し問うてくる。

 結局のところ取り分以上に発生する問題はそこなのだ。


「大がかりにすれば何とかなるんじゃないかな、とは思いますけど……」

「ヤマルさん、今日降りる前に魔法で階段作れるとか言ってませんでしたっけ。それを使えば行けるんじゃ?」

「あー、それあくまで一人用想定なのよ。階段を作りっぱなしじゃなくって、例えば十段作って五段目まで来たら一段目を十一段目に流用するみたいな感じね」


 軽光魔法の足場は実際はもっと出せるけどそもそも耐久性が怪しい。

 これが自分が乗ってるなら「あ、崩れそう」みたいなのもすぐ感知できるが、他人が乗ってる最中だとフォローできるか微妙なところだ。


「なら大掛かりにするのか?」

「その場合間違いなく取り分がゴリっと減るけどね。大まかに分けると降りて採掘する人、それを上まで運ぶ人、魔石を王都まで運ぶ人かな。降ろすための工事もいるかもしれないし……」

「俺らみたいに冒険者集めれば安上がりにならないか? 正直D~Eぐらいのやつらなら安くても飛びついてくれると思うぞ」

「ん~……正直同業者の事悪く言いたくないけど信用できない……。魔石の総数が分かってない状態だとくすねる人出るんじゃないかって」


 この言葉に『フォーカラー』の面々は少し眉を顰めたが、ラムダンはまぁそうだなと言うように軽く息を吐いていた。

 少なくとも冒険者として色々やってると見えることはたくさんある。

 この職業は言ってしまえばあぶれた者が多い。他で職に付けれなかったと言う理由で冒険者になった人は珍しくないのだ。

 と言うか自分だってその一人だったし……。


 もちろん進んで冒険者になった人もいるのは分かってる。全員が全員とまで言うつもりは無い。

 ただ職にあぶれ冒険者にならざるを得なかった人間が相応にいるのは事実であり、更にその中から下位層である低ランク帯の面々が大量の魔石を目の前にしたらどうなるか。

 仕事はまぁしてくれるだろう。ギルドとの契約もあるし不履行にならないようにはすると思う。

 しかし先ほど言ったように手癖が悪い人がいないなんてとてもじゃないが思えない。仮に盗られた後に咎めたところで元々持っていたと言われたらそこで終了だ。

 ……それに目を瞑った上でやってもらうと言う手もあるけど……う~ん……。


「俺も大っぴらは止めておいた方が良いと思うな」

「ヤマルさんだけじゃなくラムダンさんもですか」

「俺の方はどっちかと言うとお前らのためでもあるけどな」


 俺ら?と自身を指さすアーヴ達にラムダンはそうだと一つ頷いてみせる。


「ヤマルのとこはまぁ色々やらかしてるから今回の件も不満はあれど流される確率は高いだろう」

「色々……」


 自覚はしてるからそれ以上は言えないが、何だろうこの気持ち……。


「知っての通り【風の爪うち】は俺がB、それ以外がCランクだ。冒険者としてそれなりに成功した部類だし相応に実績も信頼もあると自負している。だから今回採掘したとしてもそこまで言われない。だがお前たちは違う」

「Dランクだから……?」

「あぁ。お前らと同ランク、上のランクのやつはたくさんいる。そんな中でお前たちが大金を手に入れたとしたら……」

「まぁたかられそうですよね」


 最悪は強奪だろうが、仮にそれが無くても何かにつけて圧をかけて金をせしめそうではある。

 しかもそれがいつまで続くか分からない。最悪分け前が底をついてもなお続く可能性すら考えられる。

 そう言えば日本でもあったもんなぁ。宝くじ当てて知らん人からたかられるやつ。


「だからいっその事見なかったことにするのも手だ。少数で手に入れる手段も現状ないしな」

「うぅ……でも勿体無く無いですか。折角あるのに……」

「そりゃ俺だって手に入るなら欲しいさ。しかし少数で作業を行える手立てがないだろう? それも口の堅いやつじゃないといけないおまけつきだ」


 【フォーカラー】の面々がラムダンに懇願するも、彼が言う通り少人数でやれるとなれば非常に難しいと言わざるを得ない。

 今回の場合必要な要素はブレイヴほどとまでは言わないがほぼ単独で空を飛び採掘して魔石を抱えて戻れる人材だ。量が量だけに複数人必要になるだろう。

 最悪運搬だけならば馬車などを使えばどうとでもなる。何往復かする必要はあるが、荷運びと荷下ろしぐらいなら今回のメンバーだけでもこなせるだろう。


 そして一番難しい"単独で空を飛んで採掘出来るぐらいのパワーを持ちそれを上まで運べる人材"だが……思いっきり心当たりがある。

 むしろラムダンは気づいているかもしれない。ただその上で何も言ってない気がする。

 何せその人材に成り得そうなのがすぐ近くにもいる。現在待機状態スリープモードでカーゴの中で座ってるやつが。


「……ふぅ。まぁここで諦めるのも癪ですし採掘と上までの運搬は自分の方で何とかします」

「いいのか?」

「こちらの金銭面もですけどそれ以上に国に恩を売るいい機会ですよ。魔石は色々使えますから喜んで買い取ってくれるでしょうし」


 オフレコだから皆には言えないけど、今後の最悪の事を想定すると魔石はあればあるほど良いだろうしね。


「とりあえず今回はそのまま放置です。採掘用の道具とか運搬の馬車とか全く用意してませんから、依頼はそのまま終わらせて改めて取りに来る形がいいと思います」

「報告はどうする?」

「依頼主である国には話しますが冒険者ギルドには報告しなくていいでしょう。噂は出回ると収拾つかなくなりますし」

「だがそうなると掘り出した後の買い取りに支障が出ないか? 大量の魔石ともなれば大口の所……俺たちなら冒険者ギルドを介さないと難しいぞ」

「魔術師ギルドに直接売りましょう。基本魔石使うのはあそこが多いですし飛びついてくれますよ」

「だが大量の売買になると商業ギルドが黙っていないんじゃないか?」

「自分も半ば忘れかけてましたけど一応商業ギルドにも所属してますのでソレで行けるかと」

「お前ほんと妙なところの伝手あるな……」

「商業ギルドの加入は予定外の部分もありましたけどね」


 ともあれ問題は一つずつ解決していっている。

 後は……。


「取り分だがブレイヴさんが五、ヤマル達が三、俺らが一ずつが無難か?」

「「「「え?」」」」

「流石にこっちがとりすぎでは?」

「しかし発見も一番難しい谷底からの採掘や運搬もそっちの手柄だろう? 少し手伝う程度しかできない俺らじゃそんなもんだろ」

「あ~……うーん……じゃあこうしません? 上まで持ってきた魔石を魔術師ギルドへ運搬するのを【風の爪】と【フォーカラー】に丸投げします。何往復もしますし日数もそこそこかかると思います。後は現地での見張りの仕事もお願いします。その上で自分らとブレイブさんが三、そっちが二ずつでどうでしょう」

「いいのか? 取り分割合少ないとは言え仕事量に対してのリターンが多すぎると思うが」

「ブレイヴさんは個人での受け取りになりますし、それだけあれば十分面目は立つかと」

「ふむ……そっちはどうだ。それでいいか?」

「え、あ、うん。おっけーおっけー」


 大丈夫かな……後で少しフォローしておくか。納得しないまま進めるとあまりいい方向には進まないし。


「まぁこんなところかな。詳細については戻ってから詰める感じで」


 そう言って今日の定例打合せはお開きとなる。

 しかし帰ってから依頼者であるレーヌへの報告、マイへの採掘用ロボ要請、マルティナに魔石売買連絡&シロの報告と……あれ。


(今回護衛だけの簡単な仕事だったはずなのに……)


 いつの間にか問題が山積していることに軽い眩暈を覚えつつも、とりあえず明日の最終日だけは何事もないようにと心の中で深く祈る事にするのだった。




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すいません、家庭ネット環境の都合で次回お休みさせていただきます。

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