第351話 大地の修理7


 戦いは一進一退の攻防が繰り広げられていた。


 ……いや、一進一退には違いないのだが、その内容は本来の意味合いとは少し異なる。

 何故なら……


「ガアアァ!!」


 向こうが襲い掛かり、


「おわぁ?!」


 自分が頑張って逃げ、


「わふっ!!」


 ポチが横からこちらを守る様に攻撃を加える。


 現在都合七度目の攻防。そのどれもが殆ど同じパターンだった。

 向こうは何故か前面に出ているポチを無視し執拗に自分を攻撃してくる。意味が分からない。


 いや、正確には違う。意味はまだ分かる。

 何せこの中で一番戦闘能力が劣っているのは自分だ。ポチに乗ってない以上まともな速さも無いしアドバンテージの遠距離からの攻撃も使えない。

 弱い相手から襲っていくのは理に適っている。その点で言えば自分が狙われること自体は分かるのだ。


 ただこうもあからさまにポチが前に出て守り、更にはがら空きの側面から攻撃を加えているのにも関わらず執拗に自分が狙われる理由が良く分からない。

 いくら魔物とは言え普通なら少しはポチの方を対処しようとするだろう。しかしあれだけ攻撃を加えられていると言うのにポチに対しては必要以上に行動をしないのだ。

 何より……。


(何か悪寒が……)


 あの敵がこちらを見る目。殺気も当然だが、それ以外に何か別のイヤな感覚がある。

 この手の感覚が鈍い自分でもありありと感じ取れる何か。殺気に混じって何か邪なものを感じるのだがその正体がつかめない。

 そもそもこんな場所にいる魔物に殺気以外の感情を向けられる理由が分からない。

 

「はっは、何か好かれているな」

「いやいやいや! どうみても真反対ですよねぇ?!」


 そんな中、その辺の岩に腰を掛け気楽そうにこちらの様子を見ているだけのブレイヴ。

 言うまでも無いがあの敵はブレイヴに手を出さない。と言うか本能的なものが働いたのか、最初一瞥した後はその後一度も目を向ける事も無かった。

 そんだけ恐ろしさを直感してるならこっちのこと諦めて早くどっかに行ってくれりゃいいのに……。


(しっかし……)


 気になるのはそれだけではない。

 今回の戦闘においてもう一つ、普段と違う点がある。


「ガウッ!!」

「わう!! わん!」


 どうにもポチと相手が何かしゃべっている感じなのだ。

 最初はただの威嚇の唸り声と思っていたのだが、今のようなやりとりがずっと続いている。何を言っているのかはさっぱりではあるが、獣魔契約をしている分だけポチの言っている内容は何となしには分かった。

 ただそれでも向こうの言い分は全く分からず、会話としては歯抜けも良いところだ。


 頭の中で推論を立てるが、どうにも向こうが何かをポチに言ってそれに対しポチが憤りを見せている、みたいなところか。

 ただ時折ポチの怒りだけではなく妙な感情も流れてくるんだけど……何だろう、嫌悪感……ではないか。戸惑いに近いか?

 自分ばかり狙われてるのだからポチからすれば面白く無いのは分かるけど、何かそれ以外も混じってるような……。


(うぅん……)


 何か物凄くもやっとする一戦だ。

 こっちに来てから色々とトラブルには合ったし、魔物との命のやり取りも一度や二度ではない。

 しかし何と言えば良いだろうか。良く分からない相手にいきなり因縁つけられたような状況と言えばいいか、ピンチと困惑が混ざり合ったような感じだ。

 それが人ではなく魔物にやられているんだから更に困惑に拍車がかかる。


「……ねぇ、ポチ。アレって何言ってるの?」


 どうにも気になったのでポチにそのまま尋ねてみる。

 するとポチは今までに見せたことのない物凄い微妙な表情をこちらに向けてきた。お前そんな顔出来たんだ……と新発見レベルの表情だ。

 一体アレは何を言ったのだろう……。


「わふ」

「……え、マジ?」

「ぅ~……わんっ!!」


 そんなこちらの隙を突き向こうが何度目かの攻撃をしかけてくるが、獣魔契約による影響でポチが横を向いていても自分が視認出来ていれば割と対応が出来る。

 何より自分もポチも視覚以外での気配察知の手段は持っているし、当然戦闘中にそれらを切る事も無い。

 それを知らないのは相手だけ。ポチのすぐ横を駆け抜けようとしたのに、視線そのままで体当たりをしてきたのは相当驚いただろう。

 意識外からの攻撃に体が浮き、踏ん張ることなくそのまま地面を転がっていく。


 しかしこのままポチに任せても優勢ではあるが決定打に欠ける気がする。

 なまじ同じぐらいの強さであるのなら戦いは長引く。ならば任せると一度は言ったものの、ここはやはり手を貸すべきか。


 そんなことを考えていると不意にブレイヴからポツリと一言漏れた。


「ふむ、そろそろか」


 何が?とこちらが問う間もなくその変化が訪れる。

 起き上がってきた相手の体が急にぐらりと傾いたのだ。倒れることは無かったものの、その四肢はガクガクと震え明らかな不調を訴えている。

 ポチの今までの攻撃のダメージが蓄積したのかとも考えるが、それにしては何か様子がおかしい。


「ガ……ウゥ……」


 足元がおぼつかず、向こうはそのまま四肢を投げ出すように倒れてしまった。

 向けられる敵意はそのままだが、もはやそれが威勢だけなのは誰の目にも明らかだ。


「一体何が……?」

「魔力切れだろう。いつからここにいたのかはわからんが、あの状態で良くもったものだ」


 もはや脅威にならないと判断しブレイヴに問うとその様な答えが返ってきた。


「でも別に魔力切れたぐらいであんなには……」


 自分も魔力切れを起こして倒れたことは確かにある。

 ただその時の倒れ方は貧血の様なものに近いのだ。規定値を下回ったことで一気に体に返ってくるようなもの。

 その為倒れること自体は分かるが、目の前の相手の様に衰弱するような倒れ方では断じてない。


「ヤマルよ、この周りには何がある?」

「何って……」


 岩と大量の魔石。他にも探せば何かあるかもしれないが、少なくとも分かる限りではそれぐらいしかない。

 その事を伝えるとブレイヴは『うむ』と肯定するように大きく頷く。


「そうだな、それ以外は無いな」

「……そう言う事ですか」


 そこで気付く。

 以前魔物に関連する内容を調べた時に知ったある特性。魔物は最悪魔力があれば生命を維持することが出来る事。

 もちろんそれだけでまともに生きれるわけではないのも知っている。


 つまりこの相手は何らかの理由でここに落ち、周囲の魔石から魔力を吸い生きながらえていた。

 だがそれはまともな方法ではない。人に例えるなら魔法で手足どころか心臓を動かしているようなもの。

 そんな状態で戦闘行動をすればどうなるか……その結果は目の前の光景が教えてくれている。


「グ……ウゥ……」


 もはや立ち上がる事も困難の様子。

 目の光だけは死んではいないが体が全く意志に追いついていなかった。


「さて、勝負あったな。ここの調査も済んだ、そいつを仕留めとっとと上に戻るとしようではないか」


 確かにブレイヴが言う通り襲ってきた魔物を倒すのは毎度のこと。

 この相手にも情けはかけない。……本来であれば、だが。


「……ポチ、どうするの?」


 気になるのはポチの気持ち。

 先ほど、ポチに問うた時こう答えていた。求愛を受けている、と。

 恐らく同じ戦狼なのだろう。魔力が高かったりと色々おかしな点はあるがこの地の特性もあるだろうし、そもそも普通じゃない戦狼がすぐ隣にいるので深く考えない事にする。


 ポチの年齢的に求愛の意味合いを把握してるかは分からないが、戸惑っているということは少なくとも本能部分で何かしら感じるものがあるのだろう。

 個人的にも今後……自分がいなくなった後を考えればポチのつがいになる相手は欲しい。何せポチは自分らと一緒にいる以上、野性の戦狼と一緒になる事はまずないからだ。


「…………」


 少しの黙考。

 そしてポチが出した答えは――。






~おまけ・その頃、上では~


アーレ「そう言えばコロナ……ちゃん?はヤマルさんと付き合ってたり?」

コロナ「え、え? そう見える?」

ミグ「そうですね。とても仲が良いように見えますね」

コロナ「そう、なんだ……。そっかぁ、えへへ……」


キィス「(脈はあるけどまだってところか)」

アーヴ「(しっ! それは言っちゃダメだからね。機嫌損ねられても困るし……)」




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※次回更新が1週空く可能性があります。

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