第346話 大地の修理2
さて、何故こんなことになったかと言えば話は数日前に遡る。
龍脈調査で王城の"召喚の間"にいたときのことだ。
相も変わらずやることが無く手持無沙汰状態であり、それも三日も過ぎれば流石につらくなってきた。
これが調査が後〇日、みたいに決まっているのであればまだ我慢できたかもしれないが、現状では終了は未定である。
それにここのところずっとウルティナの作業風景を見ていたが、特に悪ふざけも無く……たまにこちらやマイに妙な冗談を言うことはあったが、比較的真面目に打ち込んでいた。
これであれば自分が見ていなくても大丈夫かもしれない。
そこで他の仕事を何かしてきたいと伝えたところ、マイがある提案をしてきたのだ。
『マスター、龍脈の修理をお願いしてもよろしいでしょうか』
龍脈なら今ウルティナが調査しているのではないか、と返すとどうも違うらしい。
ウルティナが調べているのは正確には龍脈エネルギーであり、マイが言っているのは龍脈そのものの事らしい。
どういうことかと更に聞き、要約すると次の通りだった。
現在のノアは人王国側の龍脈エネルギーが不足している状態だ。仮にノアを人間に例えるなら人王国と言う足から龍脈エネルギーと言う血が急激に消えてしまい、腐らせないよう他から回しているようなもの。
しかしこのままでは血の自然増幅より足の壊死が速い。今は何とかなっているが、近い未来壊死した足から症状が全身に広がり最終的に死に至る。
そうならないように足を切り落として回していた血を元に戻し、なおかつ今まで足に消費していた分を無くしてしまおうと言うのが医者兼患者であるマイの判断だ。
それに沿う形ならウルティナは輸血方法と血の確保を調べている状態ともとれる。
そんな中、現在血管に当たる龍脈が途切れている個所がいくつかあった。ノアの落下に伴い大地が歪み、それに伴う形で地表に龍脈エネルギーが漏れ出ているのは以前聞いた通りだが、マイが言うには導線がバッサリ切れてしまっている個所が近くにある。
それがチカクノ遺跡道中の渓谷。ここで物理的に途切れたことでチカクノ遺跡は現在も龍脈エネルギーが届いていない。
ただ届いたところで遺跡が稼働する訳でもなく、精々あの地で現在も働いている二機のロボットが助かるぐらいではないか。現在王都に連れてこなかった汎用ロボの二機が予備電源みたいなものを交互に使い動いている状態なのは誰よりも自分が知っている。
そもそも現状エネルギーが足りていないのに修理することで龍脈エネルギーがそっちに流れてしまうのは大丈夫なのだろうか。
そう疑問を口にするとマイはそうではないと言った。
確かにこっちが指摘した通り修理することでチカクノ遺跡へ龍脈エネルギーが流れる。不足しているのが更に減るのも正しい。
ただチカクノ遺跡周辺は現状龍脈エネルギーが流れていない為完全なデッドウェイトとなっている。その為ノアとして見た場合流すことで減る龍脈エネルギーより、流すことで得る浮力の方が効率面で良いらしい。
では今まで何故やらなかったと言えばこちらも単純だ。
マイ自身が長年他の修理に追われていた事。何より中央管理センターの防衛で戦力が手一杯なのだ。
施設内部には確かに生産設備はあるが資材は無から生み出すことは出来ない。そして外を考えた場合の護衛、修理など諸々を考えると非効率だと判断された。
そして何より自分達救世主組がこの世界に現れるまでは別に修理せずとも問題無かったのだ。ここに来てその必要性が出来てしまった為、こうして依頼を受ける形になった。
……まぁマイからすればわざわざ管理者である自分が出張らなくてもと言った様子ではあったが。
ともあれこの話はすぐにレーヌに報告し、正式に人王国からの依頼となった。
沈下防止の一環であることから国の施策であるため兵士や騎士を動員する事も出来たが、場所が場所だけに長期間の野営に向かない彼らではなく冒険者を雇う方向で話は進んだ。
国策の一環であるため今回の依頼では国は援助をする形になり、そのお陰で資金面も含め余裕が出来たため【風の爪】と【フォーカラー】のメンバーを呼ぶことを決めたと言うのが今回の大よその流れだ。
そんな感じで皆を集めてから数日後。
出発の予定日を迎えたわけなのだが……
◇
「あ、来た来た。おーい!!」
街の正門前から手を振るスーリを見つけこちらも軽く手を振る。彼女の近くに【風の爪】のメンバーが全員集合しているのが見えた。
現在自分は朝一で王城にあるカーゴを回収し、更に馬車を二台引き連れて大通りを歩いているところだ。この位置からでは見えないがカーゴの後ろには馬が二頭横並びになっており二連結された馬車が引っ張られていることだろう。
そのまま彼女たちの下まで進み全員と挨拶を交わす。
「おはよ。待たせたかな?」
「ううん、そんなに待ってないよ」
こちらもコロナ達がカーゴから降りてきて皆に挨拶を交わしていた。
勝手知ったる面々だけに特に緊張感は無い。場所も割と近場だし、仕事の難易度もそこまで高く無いのもあるだろう。
「ところで……あれ何してるの?」
「ん?」
あれ、とスーリの指が示す先にはカーゴの上で腕を組みながら仁王立ちをしているブレイヴの姿。
マフラーをはためかせ衆人の注目を浴びている彼はとても満足そうな顔をしている。
「あー……まぁいつも通りだから気にしないで」
「えぇ……」
いやまぁ言いたい事は分かるよ。俺だって最初はそんな感じだったし。
ただね、世の中には慣れた方が楽になることはあるの。ブレイヴの行動を気にしてたら気が持たないし。
「あの人が助っ人なんだよね?」
「そうだよ」
「……強いの?」
「まぁコロの師匠って言えば分かるかな」
ブレイヴの強さは知らずともコロナの強さは先の模擬戦の一件で知れ渡っている。
元々知り合いであった彼女らでさえ驚く強さを見せたコロナだが、そんな人物の師匠とあらば更に上の強さであるのは容易に想像できるだろう。
こちらの回答を得た瞬間、スーリがブレイヴを見る様子は奇異を見るような視線から何やら感心するような視線へと変わっていった。
そしてそれにすぐに気づいたのだろう。小さくどや顔をするブレイヴであったが、ここで下手なアクションを起こされるよりはそのままの方が良いと判断し放っておくことにする。
「ヤマル、おはよう。一応今日の段取りだけ確認したいんだが良いか?」
「あ、おはようございます。もちろんいいですよ」
スーリとの会話が終わったのを見計らったかのように現れたのはラムダンだった。
特に段取りに変更はないが、無いなら無いでその事を共有せねばならない。
そして共有と言う事はもう一人、【フォーカラー】のリーダーであるアーレも呼ばないといけないのだが……
「……どうしたんだ、あれ」
「何かボーっとしてるって言うか、心ここに在らずみたいな感じだね?」
二人の視線が馬車に座っている【フォーカラー】の面々に注がれる。
御者台に座るアーヴ、そしてその後ろの馬車の中には残りの三人が座っているが、全員きちんとした体勢で座ったまま真正面を向いていた。
その様子はスーリが言う様に心あらずと言うか放心しているような感じだ。
「何かあったのか。確か一緒に王城に行ったんだよな?」
「まぁそうなんですけど……」
今日の予定はまず【フォーカラー】のメンバーと合流して王城へ行くことだった。カーゴの回収もだが、今回皆が乗る馬車を借りるためだ。
この依頼は国からのため馬車と一部の物資を用意してもらえた。その辺りはありがたく受け取る事にしたのだが問題は馬車を誰が動かすかだった。
自分達は元より、【風の爪】も馬を扱える人はいない。一応動かせる人を手配してもらうことも可能だったが、その場合自分達と一緒に数日過ごすことになる。
チカクノ遺跡まで行ってもらいそこで待ってもらうことも可能だが、その場合現地での荷下ろしの手間や馬車を街まで送った後に戻らなければならないと何かと手間が増える。
だがここで一つ嬉しい誤算があった。
何と【フォーカラー】のアーヴが馬車の扱いを心得ていたのだ。どうやら実家の手伝いをしていた際に身に着けたらしい。
実家は何か気になったが少なくとも今は深く聞く必要は無いと判断し、とりあえずは彼にそちらをお願いすることにした。
その結果【フォーカラー】の四人と当日の朝……つまり今朝王城に行くことになったのだ。正直なところアーヴだけでも良かったのだが、冒険者が城の敷地に入る事など滅多に無い為他の三人も一緒についてきた形だ。
もちろんこれらのことはラムダンも知っている内容である。
ただ一つ、誤算があるとするなら……。
「端的に言えばレーヌが見送りに来まして……」
「「あー……」」
容易にその光景が浮かんだのだろう。それだけで二人は何があったか察してくれたようだ。
王城の敷地に入りカーゴや馬車、それに荷物の最終チェックをしていたところ今朝は公務が無かったのかレーヌはわざわざ足を運んでくれたらしい。
もちろん場所が場所なだけに当然女王様モードでの対応だった。こちらもそれに合わせるよう恭しい態度で接していると、【フォーカラー】の面々が彼女は誰なのかと小声で聞いてきた。
当然レーヌは近くにレディーヤを侍らせており、また服装からも高貴な人間であるのは誰の目にも明らかである。彼らも恐らくはどこかの貴族の子女だと思っていたのだろう。
しかしこちらが教える前に先にレーヌ自らが名乗り正体を明かした。そしてその後は言うまでもない。
自分の感性からすればそうでもないのだが、知識として国のトップと一平民が目通りすること自体まずありえないのは知っている。当然【フォーカラー】の面々もそれに漏れる事も無く、数秒程固まったあと大慌てで頭を下げた。
その様子にレーヌが小さく笑った後、彼女は四人に対しそれぞれ激励の言葉を伝えた。内容としてはそこまで特別な物ではなく、国の施策の一環なので頑張ってくださいね、ぐらいのものだ。
その後自分達にも二、三言ほど言葉を交わしレーヌは王城へと戻っていった。そうして出来上がったのがあの状態の【フォーカラー】である。
一応レーヌが去った直後は興奮冷めやらぬ状態であった。田舎に戻ったら自慢してやろうぜと息巻いていたほどだ。
しかし城を出立し落ち着いてきたころ、改めて自分の身に何が起こったのか実感してしまったのだろう。まさに夢心地と言った状態になり現在に至る。
「とりあえずあの状態でもちゃんと言うことは聞いてくれますから。むしろ判断力下がってるのか言う事しか聞けない状態とも言えますが……まぁしばらくしたら戻るんじゃないですかね」
「つまりヤマル被害者の会にまた新たな犠牲者が出ちゃったわけね」
何その不名誉な会……。
「とりあえず出発しましょう。自分はポチ見てないといけないのでカーゴへ。ブレイヴさんはあの通りなのでパスとして、後はもう一人……まぁコロが無難かなぁ」
「はいはーい! ヤマル、私もアレ乗りたい! 中に乗っちゃダメなの?」
「んー……別に良いけど中にロボットが四体鎮座してるよ? 気にしないなら構わないけど……」
その言葉に『う…』と二の足を踏むスーリ。
まぁ見慣れない人からすれば良く分からないものと密室で一緒ともなれば仕方ないかもしれない。以前はメム達と一緒に王都へと戻ったが、あの時は他にも多数の人がいたしなぁ。
ちなみにロボット達はどうしてもカーゴで運ばなければならない為馬車の移動はNGだ。見た目は人型でも重さは当然人を優に超えるためである。
馬車だと多分馬への負担がかなりかかるだろうし……。
「まぁ行きは馬車で皆と交流深めておいてよ。帰りに余裕あったら乗っても良いからさ」
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