第345話 大地の修理1


「さてさて……ごめんね、こんな形で呼び出しちゃって。でも来てくれたってことはとりあえずは話を聞いてくれるってことで良いかな?」


 室内にいる面々を見渡し、まずは発起人として自分が第一声を放つ。

 ここは冒険者ギルドの一室。冒険者同士での話し合いを行ったりする部屋はギルド内に何室かあり、その内の一つを職員に頼み使用させてもらっている。

 室内はそれほど大きくはなく、やや大きめの長テーブルが一つとそれを取り囲むように椅子が十二脚があるだけだ。


 そんな室内に集められたのは自分を含め十三名+一匹。呼び出した側である自分達【風の軌跡】、同業者の中で色々世話にもなり何かと繋がりのあるラムダン率いる【風の爪】、そして以前は突っかかってきたが和解した【フォーカラー】の面々だ。

 実際のところ今日は話し合いと言うだけであり代表者のみで問題無かったのだが、こうしてフルメンバーで集まってくれたのはちょっと嬉しくもある。


「あぁ、今は急な依頼も無かったから問題ないぞ」

「こっちもいつも通りだったから大丈夫だ」


 各リーダーのラムダンとアーヴがそれぞれ返答してくれる。

 ラムダン達と最後に会ったのは模擬戦の時で、アーヴ達はいつだったかなぁ……。魔国に経つ前だった気がする。

 何はともあれ皆元気そうで何よりだ。知らない間に人数が減ってることもある仕事だし、同じ顔を合わせられるだけでもホッとする。

 他の皆もそうなのか、視界の端にフーレ達がコロナやエルフィリアに向けて小さく手を振っているのが見えた。仕事の場ではあるが堅苦しいメンバーでは無い為好きにさせておくことにした。


「ヤマル、呼び出したのが個人じゃなくてパーティ宛ての話ってことは仕事ってことでいいんだよな?」

「うん、今回は仕事の話だよ。形としては俺が受注して、そっちに協力をお願いするって感じかな。一応協力してくれたメンバーは普通に依頼受けたのと同じ扱いになるよ」

「って事はギルドへの貢献度もちゃんとあるってことか!」

「そゆこと。もちろん依頼料もちゃんと出るからそこは安心してね」


 まずはこの仕事がちゃんと冒険者としての依頼であることを全員に伝えておく。

 似たような方法として他パーティへの協力依頼があるが、これは受注者がお願いをする形なので依頼料はあってもギルドへの貢献度が無い。

 各ランクへの影響を鑑みると貢献度合いは無視できない人は多い為、これだけでも受けてもらえる確率がぐっと上がるのだ。


「ヤマルー、それで依頼内容って何なの? 流石にこの人数で受けるってなると結構大規模なんじゃないの?」

「あ、僕もそれは気になっていました」


 手を上げいつも通りの口調で質問を投げかけるスーリと、それに同調するように声を重ねるミグ。

 彼らの質問は最もなので、まずは今回の依頼内容について話すことにした。


「もちろん人数を集めたのは理由があるよ。やること自体は護衛にあたるかな? ちょっと範囲的にもこれぐらいは人が欲しくってさ」

「護衛? 私達も戦うけど、そう言うのは傭兵ギルドの方が良いんじゃないの?」

「まぁその辺も理由があって……。詳しい話は依頼を受けてもらった後になるんだけどね。一応簡単にまとめると、護衛任務、場所は王都から片道半日、その後は若干変動するけど現地で三日~五日ぐらい頑張ってもらうかな。移動や食事の手配はこっちでやるけど、食料とかの諸経費については全員の報酬から天引きする形になるからそこだけは気を付けてね」


 そして概算だが一人頭これぐらいの金額が出ると伝えておく。

 多少は変動するかもしれないがそこまで誤差はないだろう。念のため諸経費についての見積書も作っておいた。


「これ以上は受けてもらってからになるけど……無理強いはしないよ。でも美味しめの話ではあると思うよ」


 数日間全員を拘束してしまうが、それを差し引いても報酬自体は割りに合うのだ。

 詳細情報はまだ伝えてはいない物の、少なくとも戦うことが懸念される相手もそこまで強くはならないだろう。もちろんイレギュラーが起こる可能性もあるが……。


「ヤマル、一つ良いか」

「あ、はい。答えられることでしたら」


 腕を組みながらこちらをじっと見つめるラムダン。

 この中で唯一のBランク冒険者である彼からすれば格下の自分が音頭を取る事を良く思わない……なんてことはまずない。

 話自体は全て開示していないが、今の中で何か疑問点があったんだろう。その疑問が何なのか……あまり突っ込んだ話じゃないといいけど……。


「話自体は良いと思う。俺は受けても良いと判断した。ただ何故俺達なんだ? さっきのフーリの話じゃないが、この額なら同業者でももっと護衛向きのやつはいただろう?」


 どうなんだ、との言葉と共に自分に全員の視線が集まる。

 確かにラムダンが言う様に護衛ならばもっと適任者がいたのは事実だ。悪い言い方になるが【フォーカラー】の四人よりも強いDランクのパーティだっていくらでもある。

 ただ今回自分が選んだ理由は純粋な強さよりももっと別の部分だった。


「そうですね……まぁ単純な話ですけど信用できる人を考えたらこのメンバーだったんですよ。強い人はいるにはいるんですが、流石にそっちの面で不安が残りまして……」


 何かと交流のある【風の爪】の面々の信用度は自分の中ではかなり高い。彼らには今のように戦う力が全然ない頃から色々と助けてもらったしその恩もある。今回真っ先に選出したのもそういった理由だ。

 【フォーカラー】の四人は逆に自分を下に見ないからだ。初めて会った時はリーダーのアーヴとひと悶着はあったが、その後うちの面々を連れているのが自分だったことで見る目が変わったらしい。

 その為この四人は自分からの依頼だったとしてもちゃんと受け入れてくれると思ったためだ。


 他の冒険者は何と言うか……まぁ当初の絡みからどうしても大事な仕事で背中を預けるには不安が残る。

 それにこっちの指示に従うか正直微妙だし……。


「分かった、そう言うことなら【風の爪】はその依頼を受けよう。皆も大丈夫だな?」

「異議なーし!」「うーぃ」「いいわよ」「はい、大丈夫です」


 ラムダンの問いかけに残りの面々が全員肯定の意を示した。

 これで【風の爪】は確保っと……後は……。


「そっちはどうする?」

「そうだな……俺は良いぞ。お前らは?」

「大丈夫ですよ」「あぁ、いいぜ」「僕も問題ありません」


 こっちも全員の同意が取れた。これでようやく依頼内容のすべてが話すことが出来る。


「じゃあ全員揃ってるしこのまま説明するね。まず詳細の場所はチカクノ遺跡への道中だけど……【フォーカラー】の皆は行ったことは?」

「確か荷運び兼護衛等で数回ほどありますね」

「なら全員行った事あるか。えーと、道中に橋のかかった渓谷あるのは分かるよね。クレバスみたいにデカい地割れみたいなやつ」


 こちらの質問に皆が頷きを以て返す。

 それを確認したところで用意しておいた地図を開き、皆に見せるようにテーブルの上に置く。


「結構いい地図だな」

「うちには絵心ある子がいるからね」


 この地図はエルフィリアに描いてもらった上面図だ。地図を縦に両断するかのように渓谷が描かれ、下段に王都とチカクノ遺跡を繋ぐ街道と渓谷に架かる橋。

 そして中央の二点、渓谷の両側にバツ印を書いてもらうことでここが今回の護衛地点であることを示している。


(ホログラム使えばもっと楽だったけどねー)


 マイに頼めば周辺も含めもっと詳細な地図が出来ただろうが、それはそれで驚ろかれて話が進まなくなると思い紙面ベースにしたのだ。


「これが街道で渓谷に架かる橋がこれ。で、そこから外れたこの印の個所、渓谷を挟むように二手に分かれて護衛するって感じになるかな」

「あー、その。ヤマル……さん? ちょっと質問良いか? 護衛ってのは分かるんだがその護衛対象ってなんだ? そもそも何でこんな場所なんだ?」


 【フォーカラー】のキィスがややしり込みしながらも当然の質問をしてきた。

 そりゃまぁ護衛と言えば言うまでも無く誰かを守ること。例えば街道を行く商隊や人を運ぶ馬車、他には森に入り採取をする人等様々だ。

 しかしこんな何もないところで一体誰を守ると言うのかと気になるのは至極真っ当な疑問だろう。


「あー、うん。それなんだけどね。まず最初に言うけどこれの依頼主はレー……じゃなくって国からなんだよね。だから一応公的な依頼になるの」


 その言葉に分かりやすく驚いたのは【フォーカラー】の面々。

 まだDランク帯である彼らからすれば国からの公的依頼は強制依頼ミッション以外は基本的に受けることは……いや、受けられることは無い。それは実力的な意味合いはもちろんのこと、冒険者と言う職業と公的機関である国が直接的な繋がりを持つことが稀だからだ。

 高ランク帯になれば実力と言う要素を以って目に止まる事はあるが、そんな国から依頼するような案件ともなればそれこそ更に上のランク帯になってくる。


 ただ【風の爪】の面々はすでにレーヌのと一件があったためか、あぁまたか、みたいな顔をされてしまった。


「……そんな顔しないでよ。今回はあの子が出てくることは無いからそこは安心して」

「でもなんか別な変なのが出てきそうなんですけどー?」


 信用無いなぁ……まぁその通りなのだから何も言えない。


「【フォーカラー】の四人には後で詳しく説明するけど、ほら、そっちの皆はメム知ってるでしょ? あれの同類が護衛対象なのよ」

「あー……って護衛いるか? かなり強かった記憶があるんだけど」

「それがいるんだよ。もう少し詳しく説明するね」


 そう、今回の護衛対象は中央管理センターから派遣されてくるロボットが四機。言うまでも無いが構成材質からして金属系なのでちょっとやそっとで害されるものではない。

 ただ今回は場所が場所なだけに人数が欲しかったのだ。


「今回護衛対象は渓谷から少し降りた場所で作業するの。それも両側でね。それで皆には地上から魔物が来た場合作業の邪魔にならないように素早く倒して欲しいってわけ」

「ん~……ちょっとまだ分からないとこはあるがやること自体は分かった。でもあの崖っぽいところで何かするなら鳥系の魔物とかの方が問題じゃないか? 言っちゃなんだが【フォーカラーうち】でそっちの対処できるのはミグだけだぞ」

「【風の爪うち】ならスーリとユミネだな。後は……」

「【風の軌跡うち】は俺とエルフィ、後はコロとポチが跳べるね。ポチは空中戦やる程ではないけどコロは特に問題無いよね?」

「うん」


 とは言え鳥系の魔物は空中こそが自分たちのフィールドだ。自由に三次元機動をする相手に届く手段があるとは言え苦戦すること自体は否めない。

 そんな敵の相手をする場合、対応手段は主に二つ。

 一つはこちらも同じように空中こそが土俵である生物を仲間にする。ただそんなのすぐに用意できるものではないし、仮に用意できても少数では意味がない。

 もう一つは単純明快。圧倒的な戦力を以って得手不得手の壁を力技でどうにかする。


 そして自分に出来るのは後者の方だ。


「まぁそれも大丈夫だよ。もう一人助っ人呼ぶから」

『?』


 皆今一つ良く分かっていない顔だったが一応は信用してもらえたらしい。


 とりあえずそのまま今後の予定などを話し合い、当日までは各自準備をすると言うことでその日は解散となった。

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