第320話 閑話・追加武装(即封印)
そんな女難と言えるかどうか分からない問題が解決し、これでのんびりとした帰り道になる。
そう思っていた時期が自分にもありました。
最初に言っておこう。今回俺は悪くない。
「さて、どういうことか説明してもらおうか」
現状どういう状況かと言えばカーゴの中でドルンと向かい合っていた。彼の表情は険しく、明らかに怒りを含んだ感情を表している。
そんな彼の視線の先には互いの間に置かれた"
テーブルの上に置かれたそれは一見すればいつも通りなのだが、今回問題を起こしたのはコレだ。
……正確には"転世界銃"の上に浮かぶホログラムのマイである。
『どう、とはどういうことでしょうか』
「どうもこうもねぇ。少なくとも俺らが作り改良したこいつにあんな機能はねぇ。無論ヤマルにもあんな真似はできねぇ。となるとこいつに手を加えられるのはあんただけだろう?」
時期的にもな、と付け加えると、ドルンは腕を組みカーゴの壁に背を預ける。
事の始まりは三十分ほど前の事だ。
帰りの道中もほぼ平和なもので、人数の差もあり魔物の襲撃も数えるほど。
そんな皆の気がほどほどに緩みかけた頃、エルフィリアが一匹の魔物を発見したのだ。
『すいません、先ほどからずっとあの魔物がついてきてまして……』
そう言って彼女が指をさした先は遥か上空。
空を見上げたら自分の視力では大きな鳥が一匹飛んでいるなぐらいの認識。しかしその姿や大よその大きさからその魔物の正体が判明する。
ガルディア。別名怪鳥と呼ばれるその鳥の魔物は特殊な能力は持たず、方向性としてはポチの
両羽を広げると十メートル以上にもなり、上空からの急降下による奇襲で家畜のみならず人間すら攫い食らうと言う。
ただし狡猾な性格をしているらしく、獲物と見定めた相手が疲れたり動きが止まるまでは手を出さず上空で待機するそうだ。
そんなガルディアの退治方法は降りてきたところを仕留める方式が主流らしい。
理由としてまず普段はあの巨体が大きな鳥程度にしか見えぬ程上空にいるため手が出せないこと。また空を飛べる魔術師は数が少ない上に空中戦には向こうに分があること。
その為対処としては降りてくる一瞬を狙うのがベターなのだそうだ。
しかしそんな何時襲ってくるか分からない相手がずっとついてくるのは精神的にも疲弊する。進行速度もおのずと落ちるし、上空をずっと注視せねばならない。
ならば今回はこちらから先手を取ると言う方針になった。幸いに魔法以上の射程と速度を持つ武器が――つまり自分の"転世界銃"がある。
相手が大きいことに加え上空を飛んでいるときは動きが緩慢であるため、狙うには問題ないと判断したのも理由の一つだ。
とは言え"転世界銃"は貫通力はかなりのものだが大きい相手に対しては決定打に欠ける。急所に当たらない限りは仕留めることは難しいだろう。
そこで皆で更に話し合った結果三通りの方針で行くことになった。
最上は自分が放った矢が都合よく急所に当たりガルディアを倒すパターン。だがそうそう都合よく行くわけではないのは誰もが分かっている為、そうなったらラッキーと思うぐらいの案だ。
次点で放った矢がガルディアのどこかに当たる、もしくは当たらずとも向こうに脅威と思わせ追い払うパターン。現実的にこれが一番楽なパターンだ。倒すことを目的としていないのだから追い払えれば御の字だろう。
最後が攻撃されたと見做され向こうの奇襲を誘発するパターン。その場合狙われるのが自分であり、その為にコロナ達を近くに配備する。
また彼女のみならず神殿騎士達の協力の下、皆に護ってもらうと同時に仕留めてもらう形だ。
そうして細かい打ち合わせの後作戦が決行される。
どのパターンになるとしても自分のやる事は変わらない。狙って撃つ、後は出たとこ勝負で皆に任せるだけだった。
結果から述べよう。ガルディアはこちらの攻撃で片羽の
魔物が落ちたことよりも、誰も彼もが自分の方を見ていた。そしてコロナ曰く、自分もポカンとした表情をしていたらしい。
何せ矢を撃つつもりだったのに銃口から一条の
無論こんな機能をドルンは着けてない。そして自分もこんな真似は出来ない。
その後惚けてた一同に対し何とかその場を取り繕い、コロナ達にその後の処理を任せ現在カーゴの中でドルンとマイとの三者面談となったわけである。
「…………」
そしてドルンが怒っている理由もわかっている。
己が手掛けた物が勝手にいじられたのだ。例えそれが有用であったとしても、作り手として看過できるものではないのだろう。
自分としてもあの瞬間に手持ちの武器が攻城兵器もかくやの性能になったのだ。話を聞かないわけにはいかなかった。
『そうですね。まず勝手に手を加えたことに関しては非を認め謝罪いたします』
AIな為か口調は淡々としたものであったが、マイは自身がやったことを認めドルンに頭を下げる。
そして何故あのようなことをしたのか話し始めた。
『マスターが来た時に身に着けていた武具を預かり調査しました。結果武器が大型化している点や設計機構等まだ改良すべき点は見受けられますが、同時にこの武器は私達では作りえない物であると言う結論に達しました。制作者にはお見事と賞賛を贈るしかない程です』
可変機構や銃としての機能など、その辺りについて目新しい物はない。
しかし素材、魔道具としての機能、手作業であるにもかかわらず精密な部品。極めつけはマイですら活用することに至らなかった竜武具としての改修。
古代の超技術を継ぐ彼女を以てしてもここには至らなかった、と素直にそう述べた。
「まぁ、な。そりゃそれなりには頭を悩ませて作ったやつだしな」
(あ、ちょっと嬉しそう)
ドルンほどの腕前ならば褒める人は数多くあれど、流石にマイの様な超技術の塊に言われるとは思わなかったのだろう。
顎髭を梳くように触っているが、これが照れ隠しであることをこれまでの付き合いから知っている。
「しかし褒めてくれるのはありがたいが流石に勝手に改造はどうかと思うぞ」
『はい。ですがこちらにも相応の理由がありまして』
「ほぅ」
ドルンの目が鋭く光る。
目は口ほどに物を言うとはよく言ったもので、自分の手製の武器を勝手にいじる程の理由とはなんだ、と語りかけている様だ。
「えーと……で、その理由って?」
『はい。マスターの戦闘力があまりにも無い為せめて火力を、と』
「なるほどな」
「いやいや待って待って、納得しないで!」
弱いのは認めるし言わんとしてる事も分からないでもないがこれでも最近は……えーと、まぁ多分それなりには戦えるようにはなってる、はず……。
そんな事を考えているとマイが改めてその理由を語っていく。
『昔に比べ外の世界は危険が多すぎます。私としてはマスターには外に出ず安全なあの中で過ごしていただきたい。ですが……』
「うん、それは出来ない」
これについては初めて中央管理センターに行った日にきっぱりと断った話だ。
何時振りなのか分からない程に久方ぶりに出た管理権限を持つマスター。そんな人物を外に出すのはマイにとっては避けたいところ。
しかし元々帰る手立てがすでに見えている以上中で過ごすわけにはいかないし、そもそも今回の問題の件も請け負っている以上自分一人だけ安全な位置であれこれは心情的にも嫌だった。
『そこでマスターには色々と提案しました。外に出るならばせめて安全性を確保すべきだと』
「まぁ確かにヤマルの場合はそれは重要だわな」
『ですがそれも断られてしまったのです』
なんでだ、と問うドルンに今度はこちらが説明をする。
当初マイの提案する安全と言うものは有り体に言えばあの中にある兵器群の持ち出しだ。
銃なんて生易しいものではない。重火器、兵器、はては乗り込み式
過去の人間は戦時にこれらを用いて獣人や亜人、魔族と戦ったそうだが、そんなものを今の時代に持ち込んだらどうなるか想像に難くない。間違いなく荒れることが目に見えている。
「あまりに危険で今の人達には衝撃的な物ばかりだったんだよ。少なくとも技術水準が違い過ぎてどう転ぶか予想が付かない。だから開示するにしてもよっぽどのことが無い限りか、もしくは同水準まで技術レベルが上がった時じゃないとダメって判断したの」
知らなかったとは言えカーゴはもう表に出た物なので諦めるとしても、他はなるべく避けたかった。
だからこの世界に来た時に望んでいた携帯式の銃ですら断ったというのに……。
『故にマスターの安全性を考慮し取り付けた次第です』
「……ちなみにドルンから見てどう。何か変なとこ出てない?」
「いや、完璧だな。改造とは言っているが実際見たところ追加で何か取り付けたって感じだ」
『はい。武器の強度が高かった為に直接改造をするには至りませんでした。ですので追加パーツを取り付ける形にしたのです』
そう言って教えてくれたところを見ると確かに見覚えのない物があった。
銃身の一番奥の方……名前なんだろう、発射台ってわけでもないし……ともかく一番底面部分に何かレンズの様なものが貼り付けてあった。
一応ここ鉄の矢とか入れる場所だけど大丈夫なのだろうか。と思ったが、どうもあのレンズはあくまで防護カバーの様なものらしいので大丈夫らしい。
ドルンが言うにはそもそも精霊石の力で飛ばすから、射出時には半ば浮いているような感じの為問題無いそうだ。……正直それは知らなかったので驚きである。
そしてそのレンズの中にあるヤツであのビームみたいな何かが出たのだろう。
……あ、そうだ。
「と言うかあのビーム、急に出たんだけど……」
『マスターの音声認識で発射したとログが残ってますが』
「え?」
言われあの時の事をゆっくり思い出す。
確か何か急にホログラムで説明文が出て、最後に使うかどうかの問いかけが書かれてあった。
で、いきなり出てきたその内容に「はい?」って返し……あれ?
「あれかぁぁ……と言うか生返事とGOサインの違いぐらい察してよ……」
思わずがっくりと肩を落とし項垂れる。
「まぁこれで全部の謎は解けたか……。ドルン、あれって外せそう?」
『え、外すのですか』
「流石にあんな威力の武器はいらないよ。むしろ他の人が使う可能性考慮すると危険すぎる」
"転世界銃"は自分専用としてドルンらが手掛け調整が施されているが、別に自分だけが使えるわけではない。
仮にあれが盗まれた場合あのビームがそこかしこで撃たれると思うとこの場で取り外した方が良いだろう。
しかし……。
「アレな、無理だ」
「え、何で?!」
ドルンにより不可と直々に宣告された。
「いや、正確には俺じゃ無理だが正しいか。何かで着いちゃいるが何で着いてるか分からねぇ。無理に外すとなると色々問題が出てきそうだ」
『そうですね。取り外すとなればこちらにもう一度来てもらう他ないかと』
なんだろう。チラチラと妙に人間味のある動きでマイがこちらを見ている。
こう、『自分は望んでるわけではないけどマスターの望みの為には仕方ないですよね』的な考えが伝わってくるような……それでいいのか管理AI。と言うかものすごいマッチポンプである。
そして少し考え、出した結論は至ってシンプルだった。
「よし、機能封印しよう」
既存の能力に影響はないのであれば使用しないの一択である。
『え、折角取り付けましたのに』
「ダメなものはダメ。危なすぎるよ」
『そんなこと言わずに。ほら、私の授かり物と言えば外の人からは神器と見られお得ですよ』
「余計ダメでしょうがー!!」
とは言うものの結局押し切られた結果、折衷案としてロック機能を付けることになった。
使用の際にはホログラムのパネルを押す、もしくはこの機能の名前を言うことで発動するタイプだ。無論他の人が扱えないようにその設定だけは絶対に忘れない。
そして最後に。
「で、この武装って何て言うの?」
あれ、聞かなければ使い様が無いのでは?と言ってから気付くももはや手遅れ。
こちらの問いに対しマイは当然とばかりにその名を告げる。
『"
◇
その日の夜。
宿の一室で"龍脈砲"の仕様を改めて確認する。暴発しないようにする為と、もしかしたら威力を落とすとか別の方法が何かないかと思ったわけだ。
まぁ結果は空振り。と言うかこの武装は威力に振り切った構造らしい。
どうもこの威力の発射台になるのは本来はもっと大きな砲台になるらしいが、"転世界銃"の軽さと強度からこれなら今までは不可能だった携帯式に出来るとマイが判断したとのこと。
不可能が可能になった瞬間に即実装するのはAIとしてどうなのだろうか。島が落ちた時にどこかバグったとか……?
ともあれこんな城の土手っ腹に風穴開けそうな兵器をどこで使えと言うのだろうか。水平方向に撃つことすら躊躇ってしまう。
そんなことで本日何度目かのため息をしていると、珍しくドルンが部屋にやってきた。
「おぅ、起きてるな」
「うん。どうしたの?」
マッサージだろうか、と思うもその場合ドルンはもっと前以て言うはずだ。
割と大雑把なイメージを持たれるドワーフだが、少なくとも誰かに何かを頼むときは筋はきっちりと通す人たちである。
「いや、あれからマイ……あー、様付けの方が良いのか? それともマザイ様か?」
「俺の前ならどっちでもいいよ。ただ神殿の関係者の時は気を付けてね」
「おう。で、あの後話し合ったんだが流石神様ってやつだな。物知りなだけあって色々聞けたわ」
一体マイは何を話したんだろうか。ドルンとマイの組み合わせとか色々と危険な臭いがする。
恐る恐る聞いてみるとやはり武具関連の事だった。
しかしマイは自分の言うことをしっかりと守ったようで兵器群のことについては語らなかったらしい。
だが代わりとばかりに現状の世界の技術力を考慮した上で、まだ無いものを教えてくれたそうだ。もちろんドルンの方もマイの知りたがってた内容について話したらしい。
流石に竜武具関連はまだ門外不出も良いところなので言わなかったそうだが、それでも現在のこの世界の武具の水準を知るうえでは十分な情報量だった。
まぁ互いにwin-winだったのならこれ以上は何も言うまい。
「で、だ。今度聞いてみたモンを作るつもりでな。お前にもそれ教えてやろう思ったわけだ」
「うわぁ、凄い目がキラキラしてる……」
一体何を吹き込んだのか。
兵器関連じゃないから無茶はしないと思うけど、ドルンの表情から普通では無いものが出てくるのは想像に難くない。
どんなとんでも武装を作る気なのか。心に対ショック防御態勢を取らせその言葉を待つも、ドルンの言葉はその防御壁を軽くブチ抜いてくれた。
「パイルバンカーって武器だ。なんでも漢の浪漫を具現化したようなやつでな。いやー、昔のやつも中々面白いこと考えるもんだと俺も関心しちまってよ」
瞬間、ゴチンと額をテーブルにぶつけてしまう。
その後意気揚々とパイルバンカーの熱さや制作計画を夜遅くまで聞くことになるのだった。
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~おまけ・ドルンの葛藤~
ドルン「うむむ……」
エルフィリア「……あの、ドルンさんどうしたんですか。テーブルに置いたお酒の瓶眺めてずっと唸ってますけど……」
ヤマル「あー、あのお酒って俺がマイから貰ってきたお土産なんだけどさ。ドルンが随分気に入っちゃってね」
コロナ「確か同じ銘柄のやつがいくつかあったよね」
ヤマル「うん。で、あれが最後の一本なんだけど、あのお酒って製法とか設備とかその辺の事情で再現不可らしいんだよ」
エルフィリア「あら……」
コロナ「なら普通に飲めばいいんじゃ……それとも後に取っておこうとかそーゆーの?」
ヤマル「いや、普通に飲もうって考えてるのが一つ。もう一つはあれをお酒の職人のとこ持ってって何とか作れる可能性はあるか……って考えてるみたい」
コロナ「えーと、つまり再現は不可能だけどもしかしたらそれっぽいものが出来るかも……ってこと?」
エルフィリア「でもその場合同じのは出来ないのでは……」
ヤマル「うん。でも他の新しいお酒や今のお酒の味を引き上げる何かが出来る"かも"しれない。うまくいけばすぐには無理でも近しいのがその内出来る"かも"しれない。って感じで今ある100%の現物か可能性への投資かで悩んでるみたいなんだよね」
コロナ「マイさんに頼んで送ってもらうのは……?」
ヤマル「輸送方法が無いのとそれやると色々決壊しそうで怖いんだよね……」
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