第318話 お土産配布


「ただいまーっと」


 メム達の変わり様に参道入口と街の入り口で止められてしまったものの、何とか日が落ちる頃には宿に戻ってくることが出来た。

 大荷物を抱えたロボットらを従える姿は中々目を引かれたものではあったが、昨日の一件があったお陰か普段よりも騒がれることは無かったのは嬉しい誤算だったかもしれない。


「おぅ、戻ったか」

「おかえりなさい」

「わふ!」


 こちらの声を聞いたからか、はたまた外の騒ぎに気付いていたからか皆が宿の玄関先まで出迎えてくれた。

 そのまま店員さんに話を通し、とりあえずメムら共々自分の部屋へと集まる。


「狭い……」

「個室に四人と一匹とこいつらに荷物だからな。諦めろ」


 ドルンに身も蓋も無い事を言われては何も言えず、とりあえずメム達には持ってきた荷物を置いてもらい横に待機してもらう。

 まずは姿の変わったメム達の事をドルン達に説明をする。こちらについては何故か無反応で驚きもされなかったが、どうも自分が引き連れてる辺りで色々と察したらしい。


「さてさて、メム達の姿はこっちも予想外だったけど大よその事は出来たかな。皆には留守番させちゃってごめんね」

「いえ、大丈夫ですよ。普段からヤマルさんにはお世話になってますし……」

「ま、気にするな。でも機会あったら中に連れてってくれよな」


 了解、と返事をしてコホンと咳払い一つ。


「で、流石に何も無しって訳にもいかないと思ったので皆に色々お土産用意してきたよ」

「酒か?!」

「酒あるからとりあえず座る座る。この中じゃドルンしか飲む人いないし誰も取ったりしないからさ」


 苦笑して立ち上がったドルンにそう言うと彼は仕方ないとばかりに椅子に座る。

 だが我慢ならないのか待ち遠しいのか目だけは早くと訴えかけていた。マイ、ドワーフの酒好き付与の度合いもう少し落としても良かったんじゃないか……?


「まぁドルンなら酔うとは思わないけどなるべく素面シラフ状態で渡したいものがあったからね」


 酔って聞いてませんでした、は酒の強いドワーフならあまりなさそうだけど、未知の酒にテンションが上がって耳に入らない可能性はある。

 とりあえず予定通り酒は後にまわし、まずは皆共通のマルチクロースを渡すことにした。


「マルチクロースを皆に渡してくれる?」


 こちらがそう頼むと汎用ロボの一体が持っていた箱を開け中からマルチクロースが包まれた袋を取り出す。

 それをまずはドルン、続いてエルフィリア、最後にポチの分を自分へと渡してくれた。


「この中身はマルチクロースって言って……」


 まずはとばかりに最初に服の説明。ぱっと見何の変哲の無い肌着っぽいものが、実は普段着として色々と便利な機能を持っている。そのことにエルフィリアは元よりドルンも興味をひかれている様だった。

 分野は違えどやはり物を作る人としては何か思うものがあったのかもしれない。


「ポチは服着れないからマフラーになったけどね。一応大きくなった時の為にも巻き方はこんな感じで……」


 まじまじとマルチクロースを見る二人を一旦そのままにさせ、ポチを膝上に乗せてマフラーを巻く。が……


「うーん、やっぱぶかぶかか」


 流石に普段の仔犬サイズでは首に巻くどころか全身を包んでもお釣りがきそうなほどであった。例えるなら取り込んだ洗濯物の山に突っ込んだ犬……だろうか。

 これではどう好意的に見ても動くことは出来そうにない。動いた瞬間転がるか、亀並みにそっと動かないとダメそうであった。


「まぁ戦狼状態で使うかなぁ。今のサイズなら寝る時とかじっとしてる時かな?」

「わふ」


 流石にポチもその辺りは納得したようで返事一つと首を縦に振って肯定の意を示す。

 とりあえず今は一旦しまうと言うことでポチのマフラーをたたみ終えるとドルン達の方も一しきり見終えたようで落ち着いた様子だった。

 それを見計らいメムに『例の物を』と指示を出す。すぐそばにいたコロナの頭上に?マークが浮かんでいるような顔をしている通り、今から出す物は彼女にも言っていなかった物だ。


 程なくしてメムがあるケースを持ってきた。パッと見は小型のジュラルミンケースの様なもの。

 それがテーブルの上に置かれると全員が何だろうと興味深そうに視線を向けている。


「これはちゃんとポチ含め全員分あるよ。もちろん俺の分も」


 そう言ってケース開けると中には緩衝材の上に置かれているドッグタグの様な小さいプレート。一見すれば自分が身に着けている冒険者ギルドのプレートに似ているが、明らかに材質が異なっている。

 表面に何か文字っぽいのが彫られてはいるが、自分が読み取れないあたり言語ではないのだろう。

 

「何ですか、この……板?」

「とりあえず説明はするから皆こんな感じにつけてみてよ」


 そう言って一つを取り出し付属の紐を通す。

 後で冒険者ギルドのタグとひとまとめにするかと思いつつ、皆に見えるような形でそれを首にかけた。


「とりあえず同じようにすればいいんだな?」

「うん。紐は一応用意してもらったけど後で好きにしてもいいよ。本命はこっちの方ね」


 トントンと軽く首から下がる板をつつく。

 ともあれ皆がそれぞれ板を手に取り自分と同じように紐に通し首から下げる。今回はポチの分もあるのでそちらは自分が取り付ける。つけてる間、皆と同じ物が嬉しいのかポチはどこか誇らしげな顔をしていた。


「あれ、ポチちゃんのだけちょっと形が違うね」

「まぁちょっと理由があってね。で、これが何かって言うと簡単に言えば通信装置……ほら、俺がレーヌやメムと遠距離で話してたでしょ。アレのことだよ」

「え。これでお話出来るようになるの?!」


 驚くコロナにそうだと返し、まずは実際に使ってみせる。

 使い方は後でちゃんと教えると言うことで、まずは機能の実践だ。


「こうして……」


 マイから前以て説明を聞いているのでその通りに操作しまずは起動。

 するとカーゴと同じようなホログラム式のタッチパネルが目の前に現れた。


「このパネルで話したい相手を登録したり選んだりだね。今から俺も登録からするから皆でやってみよう。メム、サポートお願い」

「了解しました」


 そうして初めて使う機械にたどたどしい手つきで皆が操作を行い、少しの時間を経て全員分の登録が完了。ついでに他の人が扱えないようロック機能もONにしておいた。


「これで使えるようになったの?」

「うん。使い方も説明するね」


 同じように連絡の掛け方や受け取り方をレクチャー。流石に目の前で使うとあまり意味がないが、普段とは違う聞こえ方がすることに皆驚きを隠せないようだ。

 三人が色々と試している間にこちらもポチの設定を済ませておく。するとその様子を見たであろうエルフィリアが近づきその様子を見ながら尋ねてきた。


「あの……ポチちゃんの分はどうするんですか?」

「今やってるよ。ポチの手じゃ細かい操作出来ないからね」

「わふ……」


 ポチがじっと自分の手のひら……もとい肉球を見つめ寂しそうな鳴き声を漏らすがこればかりは仕方がない。

 ドルンの太い指なら何とか出来ても、流石に指のないポチの手ではどうにもならない。


「だからポチの分に関しては完全に受信専用にするつもり」


 こちらの誰かから掛けた時だけ反応できるようにする。多少は不便かもしれないがこれがポチに対して出来る妥協点だ。


「これで良しっと」


 登録完了。これでこのメンバー全員なら離れていてもやり取りできるようになった。

 仔細は省くが通話したい相手をパネルで選択するだけの簡単仕様だ。一応映像通話も出来るようになっている。


「……えへへ」


 パネルを操作しながらややしまりない笑顔を浮かべるコロナ。パネルを操作するその姿は新しいおもちゃで遊ぶ子供のように見える。

 ……と言いたいところだが、その奥でドルンがそれ以上に目を輝かせながら弄っていた。正直その気持ちは物凄く分かるので何も見なかったことにする。


「……あれ、ヤマルさん。まだ余ってませんか? それに少し形が違うものもある様な……」


 するとエルフィリアがこちらの袖を引き先ほど開けたケースに視線を向けていた。

 彼女の言う通り自分たちと同じ物が数点、それと指輪が一つとハガキサイズぐらいのプレートが置いてあった。


「あぁ、形は違うけど機能は一緒だよ。あれは別の人に渡す予定……と言うか師匠たちの分ね。渡さないと絶対うるさそうだし……」

「あー……」


 自分の言わんとしてることが分かったのだろう。それでもエルフィリアはこの場にいない二人に対して遠慮しているのか特に言及するようなことはしないあたり、相変わらずの性格の一端が垣間見える。


「ヤマル、ちょっといいか?」

「ん?」


 エルフィリアの言葉に苦笑していると、今度はドルンから声が掛かった。

 先ほどまで弄っていたホログラムのパネルを出したままだから多分操作か何かについての話だろうと辺りを付けていると、予想通り機能についてのことだった。

 ただ自分が思っている以上にすでに手慣れた操作をしているあたりは流石ドルンといったところだろうか。適応力がすごい。


「なぁ、さっき登録したのってここにいるやつだけだよな?」

「うん、そうだよ」

「多分ここ操作すると新しいの登録出来るんだよな。つってもコレ持ってるやついねぇだろうからあんま使わないだろうが」

「まぁ、そうだね」


 精々増えると言ってもそこで余ってるウルティナ達の分ぐらいだろう。

 今後増えるかは不明ではあるが、少なくとも現状ではほいほい数を増やす予定はない。


「誰だ、これ?」


 これ、と指をさすのはリストの最後にある一点。

 表示上は自分を始めとする現在の面々+メムであるためメンバーリストは五つであるはずだが、その最後尾にもう一つ別の人物を表記してあるものがあった。


「あー、これはマイのだね。まぁ何か聞きたいことあればどうぞって感じで。もちろん聞く内容によっては制限が掛かる事があるからそこは了承しておいてね」

 

 一応マイとのチャンネルは全員分デフォルトで設定してある。もちろん自分にもだ。

 別にヘルプ機能はマイ自身がやる必要はないんじゃないかと当人には言ったが、マスターである自分やその仲間には例え人間でなくても対応したいとのことらしい。

 ただ……。


「……こりゃ神殿の奴らにゃ見せられねぇなぁ」

「マイから禁止はされてないけどややこしいことになるのは目に見えてるからねぇ……」


 神様直通会話の道具を神殿外の、それも人間でない面々が持ってるなんて彼らが知れば憤死するかもしれない。

 やってること自体はただのお助け機能でしかないのだが、そう思えるのはマイがどの様な存在なのか分かっているからだろう。

 とりあえず神殿関係者の前ではマイとのコンタクトはなるべく避けた方が良いとだけ伝えておく。


「以上二つが優先的に渡したかったやつね。大事にしてね」

「うん!」


 この世に二つと……訂正、中央管理センターにたくさんあるけど、外に出ているのはここにあるものだけ。

 今まで付き合ってくれた皆にだからこそ特別な物をあげたかった。これなら自分がいなくなった後でも、たとえ離れていても話が出来るだろう。


「さて、では残りの」

「待ってました!!」


 ……もう少しいいもの貰った感の余韻とか出して欲しかったが、【風の軌跡うち】ならこんなもんかもしれない。

 やんややんやともろ手を叩き喜ぶドルンに皆も笑みを浮かべている。


 結局その日はそのままドルンに酒を配り、他のメンバーには持ってきた食料の一部使ってエルフィリアに調理してもらい夜遅くまで盛り上がった。



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~おまけ・宴会料理作成前~


エルフィリア「何か知らない調味料とか多いんですけど……」

ヤマル「化学調味料系はこっちにはないからね。使い方分かると色々と料理の幅が増えるよ」

エルフィリア「でもどう料理しましょうね。流石に貴重なものでレシピ開拓するのは怖いですし……」

ヤマル「その為のマイだよ。ほら、さっきあげたやつでマイを呼んで、持って帰ってきた材料から作れる料理のレシピ教えて貰えばいいと思うよ」

エルフィリア「えぇ……神様ですよね……?」

ヤマル「やれることはだけどね。実際は超すごいお手伝いロボットだよ」

エルフィリア「いいんでしょうかね……」

ヤマル「流石に世間を一変しそうなものならまだしも、料理は昔の人の積み重ねもあっての項目だからね。大丈夫じゃないかな」

エルフィリア「……わかりました。でも、最初の方はちょっと一緒にいていただけると助かりますので……」

ヤマル「ん、いいよ。慣れるまでは一緒にいてあげるから」

エルフィリア「えっと、では呼んでみますね……」



マイ「……マスター、調理場のプレイは危険なので止めた方がよろ」

ヤマル「ごめん、ちょっと待ってね。話つけるから」

エルフィリア「? は、はい……」

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