第313話 閑話 ギブ&テイク(後)
「うわぁ……ショッピングモールじゃん、これ」
昼食に満足し、その後は予定通りマイと共にまずは一般棟を回る。
宿泊施設と食堂はすでに見ていたが、マイによって案内された場所は広大なショッピングモールであった。
流石に人はいないものの、視界に広がる店の数々。中央には吹き抜けがあり、左右に分かれた通路沿いには様々な店舗が軒を連ねていた。
「元々最初の頃は皆様ここで過ごされていましたのでその名残と言えばよろしいでしょうか」
「名残ってレベルじゃないけどなぁ」
素直に驚きを表しながらもマイと一緒に通路を歩く。
服飾店や音楽関連など日本にもある店舗は様変わりしていても何となく分かるが、逆に日本にはない全く分からない店舗も沢山あった。
例えばその一つに家庭用ロボットのカスタマイズ店がある。最初見たときはロボットの頭がまるで生首のごとく店頭に置いてあってビックリしたが、マイによるとこちらでは各種パーツや音声変更などが行えるらしい。
なお分かるは分かるお店で日本とは随分違ったりもする。
先の服飾店なんかが正にそれだろう。一見すれば普通に服を飾っている何の変哲もないお店。だが良く見ると日本ではマネキンだったところが代わりとばかりにモデルのホログラムによって着飾られていた。
更に言えば店内に服が置いてない。いや、正確には何やら無地の肌着のようなものがサイズごとに並べられているだけで、ホログラムが身に付けている服飾は全く置いていなかった。
「マイ、服が無いんだけど」
「当時はあのマルチクロースを身に付けていました。あれだけで過ごされる方も多かったのですよ」
「マルチクロースってあの肌着っぽいの?」
そしてマイが言うにはあの服は気候など周囲に合わせた自動調節機能があるそうだ。
そして昔の人はそれを着た後にホログラムを使って各自自由にオシャレをしていたらしい。例えば日中は仕事着、終わった後はすぐに私服に、みたいな切り替えも出来るとのことだった。
「マスターもおひとつどうですか?」
「うーん、でも外だと鎧とか身に着けてるからなぁ……。流石に厚みあるものはホログラムじゃ消せないんでしょ?」
「そうですね。あくまで上からかぶせるようなものですから、恐らく鎧が服を突き破ったように見えるかと」
流石にそれは不気味過ぎなので丁重にお断りをする。
「ですがマルチクロースそのものは便利ですよ。服の下に着ているだけでも十分ですし一着如何でしょうか」
「あー、確かにホログラム使わなきゃ普通に優秀な肌着か。帰りに一着貰ってもいい?」
「了解しました」
見てくれは普通の服だから多分外で使っててもばれないだろう。良さそうだったら皆に一着ずつ渡してもいいかもしれない。
その後も一通りモール……もとい一般棟を見て回り、次の場所である研究棟へと向かうことにした。
◇
「ふぃ、さっぱりした」
シャワー室で体の汗を流し用意された服に袖を通す。
そのまま研究棟の一室に戻るとマイがモニターを眺めているところだった。
「マスター、お戻りになられましたか」
「うん、スッキリしたよ。そっちはどう?」
「中々興味深いデータが集まっていますね」
そう言いながらモニターに映ってた映像をこちらにも見せてくれた。
画面には"
一般棟からこの研究棟に来た後は同様に各施設を回った。そして最後にある実験室にて計測を行ったのだ。
内容は人間の魔法について。マイが室内に的を出すのでそれを指示通りに破壊していって欲しいとのことであった。
これ自体は聞き及んでいたのだが、意外にもマイは"転世界銃"にも興味を示した。解析をしたいと言うことで現在は防具共々別室に預けている。
「と言うか魔法はともかく俺が持ってる武具に目新しい物あるの?」
特注品であることは理解しているが少なくとも原材料含め全てこちらの世界で用意された物だ。銃剣の形状とてマイからすれば目新しいものではないだろう。
その疑問を投げかけてみると、そんなことはないとマイは首を横に振った。
「確かに現在のこの世の技術力からすれば銃剣の形状は珍しいです。ですが私が気になっているのが構成物質の方ですね」
「まぁ珍しいと思うけど、でもこれ自分の世界のものじゃなくてこの世界の物だよ」
「それでもですよ。そうですね……昨日の"龍脈石"のお話は覚えてますか」
「うん、それはまぁ」
確か"龍脈"のエネルギーを溜め込んだ石だったか。
この技術がマイ達ロボットのエネルギーの核になって動いていると言う話だったはずだ。
「この木材も石も同等の品と思われます。それも上質な」
「この世界だと精霊樹と精霊石って言われてるやつだよ?」
「私の推測ではありますがこれらは"龍脈"のエネルギーを長年吸い続けたものと思われます」
どういうこと?と問いただすとマイがホログラム付きで丁寧に解説してくれた。
この"ノア"は昨日教えてもらった通り"龍脈"の循環により成り立っている。そして主流から枝分かれした部分が今は無き各地の施設へと送られていた。
しかし"ノア"の落下によりこの"龍脈"のパイプとも言えるものに亀裂が入り、そのせいで亀裂を通り地表に漏れ出しているのだそうだ。
元々このエネルギーは地表に出たとしても大地に循環されるサイクルを取る為さほど影響はない。だがその漏れ口にあった石や植物に影響を及ぼした。
それがこの精霊樹と精霊石。長い年月を経て産み出された星の産物である。
更に言えば魔物の魔石もこれらと性質は同じらしい。漏れた"龍脈"の結晶化した石……要は魔石を取り込んだ動植物が魔物になったのではないかと言うことだ。
ただしその進化の過程があった時期にマイは"ノア"の立て直しに全力を投じていたため確証はない。
現在の魔物の特徴や自分が持ってきた武器や魔石を解析した推論でしかないのだ。
ただマイが言うと妙に現実味を帯びるからあながち間違ってはいなさそうだった。
「えーと、話をまとめると精霊樹や精霊石は"龍脈"パワーをどばっと浴び続けてたヤツってこと?」
「そうですね。私達が使っているものは人工的に作った物ですが、こちらは天然物と思っていただければ」
つまり精霊樹や精霊石が採れるエルフの村、もしくは周辺のどこかに吹き出し口があるってことか。
そう言えばドルンが精霊樹も各地でたまに見かけると言うけど、その場所に吹き出し口があって更に変質するまで何も邪魔されなかったものだけがそうなるのかもしれない。
だからこそこれらは希少なのだろう。
「んで魔物は結晶化した"龍脈石"を食べた動物であると」
「おそらくは。とは言え口に含んですぐに変化したわけではなく、徐々に堆積していった結果かと。もしくはその結晶を取り込んだ生物を他の生物が捕食した等可能性は色々ですね」
「なるほどねぇ……」
また歴史の一端を垣間見てしまった気がする。
……どうしよう。この情報持ち込んだら何人か憤死するか職無しになるんじゃないだろうか。
いや、まだ検証とかあるし……うぅん。
(まぁいいか)
一先ずこの件は保留だ、保留。また今度考えればいいや。
「他には何か分かった事ある? 俺の戦い方じゃあんまり参考にならないと思うけど」
「いえ、十分貴重なデータでした。特に魔法について以前からありました仮説の裏付けにもなりましたし」
「へぇ、やっぱり昔の人も魔法には興味あったんだね」
「はい。当時から魔族は魔法が使えましたが人間は使えませんでしたので。実際教えてもらおうにも感覚的過ぎて分からなかったとデータに残されています」
「創った側が使えないとかそれはそれでどうなの……?」
「使えないからこそ代わりとして創ったが正しいかと。ともあれ今はこうしてマスターを始め色々な人間が魔法を使ってます。まだサンプルデータがマスターのだけですのではっきりとは言えませんが、もっと解析が済みましたらご報告しますね」
報告するまでに自分がこの世界にいるか不明だけど、とりあえずはマイが心持ち楽しそうなのでそれについては黙っておくことにした。
「……とりあえずこれで全部かな?」
「はい。出来ればマスターには隅々まで施設の事を知っていただきたかったのですが……」
「この施設全部把握とかちょっと時間かかるかなぁ。まぁそこは追々で。マイもフォローしてくれるんでしょ?」
「もちろんです。出産から墓場まで、私はマスターと共にあります」
「重い重い……」
おかしいなぁ、この子とエンカウントしてからまだ一日程度のはずなのに。
長い時を過ごし過ぎてプログラムの根幹付近に何かしらバグでも生じたのだろうか。
「はぁ……まぁそれはさておき頼んでいたやつって大丈夫そう?」
「はい。量・質共に問題ありません。いつでもご用命を」
「もう一つの方は?」
「そちらも。とは言え外向けの設定変更は難しいため、中に入った後のお話になります」
その言葉を聞き少しホッとする。
彼女には二つほどある事を頼んでおいた。それについて聞き入れられるかは微妙かなと思っていたが、無事願いは聞き届けられたらしい。
他にも細々したことについて移動中にあれこれ話したがそちらについても問題無かった為、胸を撫で下ろすことが出来た。
「ん、ありがと。割と職権乱用かなって思ったから少し心配してたんだよね」
「福利厚生と思えばよろしいのではないでしょうか」
その手があったか。
こっちにきてからまったく聞かない単語だったから完全に抜け落ちていた。何せギルドにはそう言うのないからなぁ……完全歩合制みたいなものだし。
あー、でも冒険者ギルドの低ランク向け同行クエストはある意味福利厚生かな。上位者による教育って意味合いだろうし。
まぁそれはともかく、だ。
「とりあえず明日には一度戻るからね」
「了解しました。送迎は入り口までで宜しかったでしょうか」
「うん。近場の街までエアクラフターで行くのも色々言われそうだからね」
そうマイに答えつつ、スマホを操作しメムに向け明日帰る事を伝えることにした。
◇
同時刻、コロナ達が泊っている宿にて。
「ヤマル、まだかなぁ……」
「わふ……」
部屋の一角にてコロナ達が窓越しに山を見上げていた。
彼と別れてからずっとあの調子の一人と一匹を見て、同室のエルフィリアは『忠犬……』と心の中で思いつつ、日がな一日そうしてる彼女らを温かに見守っている。
今日もずっとその様な調子になるのかな、と彼女が思っていたそんな時であった。
『コロナさん、よろしいデスカ』
コンコンと部屋のドアがノックされ、向こう側から独特な口調の声がする。
全員がメムが来たと理解し、そして次の瞬間コロナは物凄い速度で入り口に移動しドアを勢いよく開け放った。
「何か連絡あったの?!」
どこか鬼気迫りそうな様子のコロナであったが、その様子を気にする事なくメムは与えられた使命を全うする。
「ハイ。マスターから迎えの要請がありました。明「行ってきます!」「わふ!!」日の朝の……コロナさんはどちらニ?」
メムの話を聞かず剣を片手にそのまま飛び出していったコロナとポチ。
その様子を唖然と見つつも、すぐさまエルフィリアは後を追うことにしたのだった。
なおコロナ達は街門で止められていたため何とか追いついたものの、エルフィリアが息を切らせ死にそうな顔をしていたのはまた別の話である。
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