第280話 模擬戦 コロナvsヤマル16
接合能力。それがあのゴーレムの本当の
そもそも本当に一から再生できる能力であれば、コロナの決着時にパーツだけの状態になっているのはおかしいはずだ。
核が残ってるのならそこから新しい体を生成するなり色々と手段はある。
恐らくは接合能力を主として、変形と再生が加わった能力なのだろう。
確かコロナがゴーレムを斬ったとき、切断面から木の根の様な物が伸びていたとエルフィリアは言っていた。
多分アレは再生ではなく、体の一部を変化させて伸びていたんだと今なら推測できる。
つまり有効な攻撃は接合するのに向いていない……斬撃の様な滑らかな断面や刺突の様な傷口が小さくならないタイプの攻撃となる。
……
(まぁあると言えばあるけど、あれは大振りすぎてすぐ出せないのがなぁ……。むしろそれを狙ったような相手になった当たり手の平で踊らされてる感じがすごくするし……)
とは言え手をこまねいてたらまた近づかれる。
今は向こうがUAを警戒してるお陰で距離を保てていられるが、また動かれたら不利な状況に追い込まれてしまうだろう。
しかし《
UAは弾切れ、《
(……結局アレか、必殺技使って当てて倒せって事か)
自身の意思で使用を決意したわけじゃないのはもどかしいものの、手がそれしか無い以上あとは動くだけと思考を切り替える。
「……ふぅ」
こう言う時正面切って立ち向かえるコロナの強さが羨ましい。自分の場合攻撃を当てるというだけでも相応に手順を踏む必要があるのだから。
しかし無い物ねだりをしたところでどうにかなる訳ではないのは今までの経験で十二分に分かっている。
だから……
「いつも通り、ある物で遣り繰りするだけだ!」
(【
生み出したのは魔国でブレイヴと模擬戦をした際に使用した《
以前は出すだけでもかなりの負担が体にかかったこの魔法も、"竜の眼"の補助が入った今なら問題なく扱うことが出来る。
周囲に浮遊する二枚の《軽光盾》と共に、"転世界銃"の先端から今のゴーレムよりも大きな刀身を持つ剣が生成され、更にもう一つ――!
「《
その言葉を告げると展開された剣から火が噴出し刀身へと纏っていく。
傍から見れば長大な火の剣。
ポチに乗りながらゆっくり構えを取ると、流石のゴーレムもその身を半歩下げ警戒心を露にしていた。
素体が木製だけあり、やはり火は警戒対象なのだろう。
(……まぁ見た目だけなんだけどね、これ)
カッコつけてみたものの、この魔法は言うほど熱くない。だって使ってるのは《生活の火》だし……。
流石に触れれば熱いし火傷はするしずっと当ててれば燃え移るかもしれないが、高熱で溶断するとかそう言った機能は一切無い。目の前のゴーレムをこれで斬ったところで、精々表面に焦げ目がつけば御の字である。
大元が《軽光剣》なので武器としては問題なく斬れるが、総評としては『ちょっと熱くて大きい《軽光剣》』と言った感じだ。
もちろんそんな内情を目の前のゴーレムが知る由も無い。
しかし知らないからこそ、あちらが何を考えているのかが手に取るように分かる。
先ほどまでの自分は一貫して距離を取る形で戦っていた。向こうが近接戦しか出来ないと言う部分はあったが、それでも近づかれるのを嫌がっているように映っただろう。
そんな人物が巨大な火の剣を携え盾を生成し接近戦へシフトしようとしている。
それが意味することはただ一つ。『当方に迎撃の準備あり』だ。
(いいぞ……そのまま警戒してろ)
そしてそうなるように思考を誘導したのはあちらに警戒……すなわち『受け身』にさせたかった。
今一番困るのが先ほど同様近づかれて圧倒される事だ。先の防壁が間に合ったとは言えダメージを受けた箇所は今も物凄く痛い。あれを直撃で食らったら多分立ち上がれないだろう。
竜合金塗布の防具で体は守れても、当たった衝撃で倒れる自信はある。
これはそれをさせないための手段。そして必殺技を当てるための布石の一つだ。
(こういう時は師匠のやり口が効くよなぁ)
人の嫌がることを率先してやりましょう。そして相手の動きを思考で絡めとりましょう。
……魔女かな? いや、魔女だったわ。
(と言うわけで)
このままにらみ合っても向こうが痺れを切らすのは目に見えている。近づいて殴るしか出来ないのだから、そりゃこちらが近づかなけりゃ向こうから近づいてくるだろう。
警戒している今が好機。そのままその警戒態勢を維持させる。
「《
出力は最大、展開量も最大。
魔法名を紡いだ瞬間、自身とゴーレムの間に大量の蒸気の霧が噴出し辺りを白く染め上げていく。
勢いは止まる事無く更に広がり、自分とゴーレムすら飲み込み視界全てが白一色に染まった。
「(……ポチ、大丈夫?)」
「(わふ)」
しかし視界が塞がろうともこれは自分の魔法であり、その効果範囲内にある物は手に取る様に分かる。
流石にゴーレム程の大きさがあれば位置に限らず、現在どの様な姿勢でどんな所作をしているかなどがつぶさに感じ取れた。
そしてこの感覚は自分を通じ獣魔であるポチも感じ取れている。
(さてさて、向こうは良い感じに警戒心を更に上げてくれた。でもこれも多分一発こっきりだろうなぁ……成功しても外しても二度目は無さそうだし)
恐らく次は無い。この霧に紛れて強襲する予定だが、一番成功する確率が高いのは初見である最初の一撃だけ。
それ以降は何らかの形で対策されてしまうだろう。腕を無差別に振り回されるだけでも自分にとっては脅威であり、それだけで近づけなくなってしまう。
今出している火の剣も斬れば大したこと無いとばれるのは目に見えているし。
(緊張するなぁ)
模擬戦だから
失敗したら……まぁその時はその時で考えよう。
「ポチ、行くよ!」
「わん!!」
恐らく最後の攻防になると予想しつつ、ポチと共に霧の中を駆け出した。
◇
それについて何かを思うことはない。
あるのはその使命を全うすること。そのために与えられた能力をどう使い、どの様に対応するかと言うことだけだ。
そして宛がわれた敵は感情が無いはずのゴーレムに驚きを与えるような内容の数々だった。
戦闘開始直後に視界外から強烈な一撃を貰い、与えられた兜を吹き飛ばされた。
獣を駆り現れた敵はこちらの苦手を知っているかのように距離を取り速度と射程で翻弄した。
更には我が身が大地に沈み危うく敗北を喫するところまで追い込まれた。
しかし戦いの最中に得た情報からゴーレムは思考を巡らせていた。
あの敵はこちらのやりたいことをさせてくれない。それは即ちこちらのやりたい事があちらにとっては有効であるということ。
常に一定の距離を保ち戦っている。それはあちらにとっては攻撃を受ける程の耐久性能が無いと言うこと。
そこから導き出された結論は『素早く近づき殴れば倒せる』であった。
その為ゴーレムは沈み行く体内でその身を変形させ、巨躯を抜け新たな体で敵と相対した。
結果、その考えは正しかった。
軽量化し、速度がほぼ同じになり敵が明らかに動揺を見せた。
幸いにも敵の攻撃力はゴーレムにとっては有効ではなかった。この身を斬られ、穿たれはするがそのダメージは能力によって十分補完出来る程度のもの。
多少被弾をしたところで一撃が入れば勝てる。そう予測していた。
しかし予測外のことが立て続けに起こる。
まず最初に今まで問題ないと踏んでいた攻撃の一つによって体が大きく穿たれたこと。
自身に与えられた能力は高速接合に再生、そして変形。
再生速度自体が高いため小さな傷や切り口がはっきりしているダメージに対しては無類の強さを発揮するが、この身が失われるような攻撃に対してはその強みを活かせない。
身体が大きく穿たれたあの時は追撃を強行したものの、魔法と思しき多重障壁によってダメージは与えれたが決定打を入れることは敵わなかった。
そして極めつけはあの巨大な火の剣。
敵の身長を優に越え、その刃は自身どころか最初の巨体に対する武器と言われても何ら遜色もないほどの大きさ。
ここに来て小型化した弊害が顕著に出てきたと、ゴーレムの思考は自身が不利な状況に晒されていると認識する。
そして現在、ゴーレムは霧に包まれた世界で油断無く正面を見据えていた。
正面から来るか、まだ見ぬ何かが出てくるか。警戒を怠らず注視しているとある事に気付く。
それはここに来てついに見せた敵のミス。
ゴーレムの視線の先、この霧の中においてその眼が捕らえたのは発光している敵の武具の姿。
獣の鎧と敵の剣、その二つが僅かながらも霧の中でその存在を示していた。
これは好機。即座にゴーレムの思考が勝利への道筋を作り立てる。
この霧においてお互いの姿は見えないと言うことになっている。しかしながらあの敵が自身を見失うような事はしないだろう、と。
恐らくは何らかの形で把握されていると予測を立てる。
そしてそれらから導き出される結論はこの霧を隠れ蓑にした強襲。それもあの長大な剣を用いての接近戦。
ならばこちらが取る手は敵の策に乗ったふりをしてのカウンターが最善手であると思考が答えをはじき出す。わざわざ敵が近づいてきてくれるのだから、強襲をかわし反撃の一手にて葬り去る。
この状況下において見えているという事実を敵が知らないと言うアドバンテージは大きい。不用意に近づき攻撃を仕掛けたところで仕留める。
そうゴーレムが結論を出したところで敵が動いた。
霧の奥、獣の鎧と長大な剣がぼんやりとではあるが向かってきているのが見えた。
あの剣を振りかぶりながら真っ直ぐ近づいてきている。警戒を解かず、この拳が届く位置まで敵を誘い込む。
徐々に光が濃くなり武具の輪郭が霧の中でも見え始めたころ、ゴーレムは一気に動き出した。
一歩で瞬時に間合いを詰め拳を射程内へと納める。
そして勢いそのままに右腕の拳を振りぬいた。それは獣の顎を穿ちそのまま敵に致命傷を与える必殺の軌道。
右腕が獣の兜に触れた瞬間、その威力が開放される。一瞬で破砕された兜は光の残滓となって宙に舞い、その拳圧は周囲の霧の一部を吹き飛ばす。
「――?!」
しかしそこで目にしたのは……いや、何も目にしなかった。
兜は確かに砕いた。しかしそこにあるべき獣も、その背に乗る敵の姿もどこにもいない。
そしてこちらに近づいてきていた光……獣の光る鎧に括りつけられた剣
ゴーレムは自身が嵌められたと理解する。
今の自分は拳を振りぬいた隙だらけの体勢。この機会をあの敵は断じて見逃さないだろう。
ではその敵はどこに、と言う疑問は即座に解決される。
放った拳圧で周囲の霧の一部が晴れたことで、ゴーレムの腕に何かの影が落ちていた。
上だと顔を見上げたその先。頭上に見えたのは獣の腹部。
身につけていた光る鎧を囮にした獣は現在その身を跳躍させていた。そして獣の目とゴーレムの視線が交差する。
獲物を狙うその眼光。上からの強襲だと判断するも攻撃の勢いが残るゴーレムの体は動かない。
ならば上から降りてくる敵目掛け、残った左腕を当てると判断を下す。
真っ当な体勢ではないため片手落ちは否めないが、それでも何もしないと言う選択肢はゴーレムには無い。
左腕に力を込め、敵とのタイミングを合わせ放とうとしたその時だった。
「わおおおおおおおおーーーーん!!」
獣がその口から遠吠えをすると同時、ゴーレムはあり得ない光景を目撃する。
落ちてくるであろう獣の足が
何故と言う疑問がゴーレムの思考を埋め尽くしかけるが、即座に背後を取られたと言う事実がそれらを押し流し次の行動へと移らせる。
獣の大きさ、頭上を飛び越えたタイミング、速度から算出される着地地点。
目で追う事は適わずとも大よその位置は計算が可能。そしてこの体勢から繰り出せる最善手は突き出した右腕を後ろに向け振り回すことで敵を横からカウンターで薙ぎ倒す。
一瞬で出された指針をゴーレムの体は忠実に従う。体勢を崩しながらも体をその場で旋回させ無理矢理右腕を振り回し……しかしその一撃はむなしく宙を切った。
そしてゴーレムは知る。
体が旋回し後ろを向いたことで、その視界に獣しかいないと言う事実を。ずっと獣の背に乗っていた敵がいないことを。
そう認識した瞬間、右腕の一撃を潜り抜けることで攻撃を回避した獣が体全体を使い突撃をする。
ゴーレムの身よりは小さくとも、二メートルを越える体躯の質量と速度を以ってすれば吹き飛ばすことは造作もない事だった。
ましてやゴーレムは二手三手に渡り再三体勢を崩されていた。その状態では抗う術など何も持ちえていない。
「!」
下から突き上げられる形で全力の体当たりを食らったゴーレムはその身を大地から浮かせ宙に舞い上げられる。
そしていつの間にか霧が晴れ青空を見上げる形になったゴーレムの思考がふとある疑問を浮かべる。
ではあの敵は一体どこにいるのだろうか、と。
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~楽屋裏~
エルフィ「上手に背後取りましたね。ポチちゃんとの連携がすごいですね」
ヤマル「実際以心伝心出来るような感じだからね。今回はポチをサポートに回してるけど、普通の敵ならここで詰みなんだよなぁ……」
ポチ「わふ」
コロナ「ポチちゃんなら後ろからがぶっといくか引っ掻くだけでも致命傷になりそうだしね」
ヤマル「そゆこと。つくづく俺やコロの為の相手って感じがするよ……」
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