第279話 模擬戦 コロナvsヤマル15
「本当にあの人はもおおおおおおおお!!」
何で楽させてくれないんだよチクショウ!! 三メートル級のマネキン風ゴーレムが物凄い速度で追って来るとか普通にホラーでしかないんだけどーーーー!!
短距離走の選手みたいな動きでガッシャンガッシャン音を鳴らしながら迫る敵に恐怖を覚えつつ、眼下のポチに急いで指示を飛ばす。
「ポチ、今はとにかく走って! こっちで何とかしてみる!!」
「わん!!」
円形の会場だけに直線的に逃げることが出来ない。
弧を描くように走るこちらに対しあちらは内側を進むようにして迫ってくるため、徐々にその距離が縮まってきていた。
「とにかくまずは……」
"
頭の中で"
しかし日本人、それもサブカルチャーに明るい人であればすぐに分かるだろう。
まるで風車のような形をした四枚刃の武器――風魔手裏剣だ。
「足止めだっ!!」
後ろを向き不安定な体勢ながらも二つの手裏剣を同時に投げる。回転を与えられたそれらは真っ直ぐゴーレムに向かい……なんてことは無く、逸れる形で放たれた。
投擲能力の無い自分が狙って投げることなんて出来ないのは百も承知だ。だからあの魔法には《
付与した構文は《
その為手裏剣がゴーレムの左右を通り過ぎたところで曲線を描き後ろから襲い掛かった。視界外からの攻撃に手裏剣の一つがゴーレムの肩に刺さる。
向こうからすればまるで何も無いところから突如現れたかのように見えただろう。わざわざ手裏剣に《
「――!」
流石のゴーレムも予想外だったのか、あまり強くない衝撃にも関わらず走る速度が若干落ちる。
だがダメージそのものはやはりそこまで無かったようだ。問題ないとばかりに再び走ろうとしたところに、今度は後頭部にもう一つの手裏剣が見事に命中した。
まるで昭和のギャグマンガばりにスコンと刺さり、ポニーテールならぬシュリケンテールのゴーレムが爆誕する。
「…………――――!!」
感情が無いはずのゴーレムがどう見ても怒ってますよ風に全力で駆け出すのが見えたが、先の隙をただ見てるつもりはなかった。と言うかそんな余裕は無い。
見映えこそ愉快なことになっているが、その本質は脅威の塊だ。
再び同じ風魔手裏剣を生成しゴーレムに投擲。流石に今度は同じ手は食わないと言わんばかりに向こうも手裏剣の軌道を注意しているのが分かった。
(今の内に……!)
猶予時間はあまりない。ゴーレムが手裏剣に注意を向けている間に、腰にぶら下げた予備の弾装から一つ選択。それを"転世界銃"へ挿し込んでは即座にグリップを引き精霊石のチャージを行う。
その間にも手裏剣は先の軌道とほぼ同じ形でゴーレムに向かう。だが流石に二度目は無いとばかりにゴーレムがその腕を振り迎撃しようとしたところでその軌道が変化した。
その狙いの先はゴーレムの足。《追加構文》の追尾を『足を狙い続ける』と変更したのだ。
「――――!」
しかし注意を怠らなかったゴーレムは当たる寸前で跳躍をすることでこれを回避。いくら《追加構文》で追尾が付与されているとは言え、自分の魔法は急激に曲がれるほど万能では無い。
左右から同時に急襲した手裏剣は互いにぶつかり合い双方共に砕け散った。
そしてその直上では眼下で起こった自爆劇を見届けたゴーレムの姿。
三メートル級の巨体が宙を舞う姿はまさに圧巻。だがそれはこちらが狙っていた姿でもある。
「流石にその状態では動けないよね」
跳んだ瞬間に合わせ、距離が縮まるのも承知の上でポチの進行方向を九十度変更させる。
向きが変わったことで側面にゴーレムを捉えることが出来るこの体勢は無理なく"転世界銃"で狙える位置。
そして現在弾装に入っている矢は虎の子の"UA”と名付けられた特殊な代物だ。
「
引き金を引き銃口からUAが発射される。
放たれた矢は外気に触れた直後、矢尻の部分が開きまるで小さな傘のような形に変化した。
これがUA……
進行方向に対し傘が開くこの形状は、失速はもちろんのこと矢の安定性の面から見ても絶対にありえない。
ただし"転世界銃"で撃つ限りは例外だ。
この銃剣で撃つ限り、風の精霊石の"加護"により風の影響を一切受けない。だからこそこんな無茶な形状の矢を扱うことが出来る。
そしてその無茶な形状が出す結果は如何なるものか。それは目の前で起こった光景が如実に語っていた。
「――――!!」
ダウンサイズしたからといって本体の強度は上がったわけではないのは《軽光》魔法が刺さったことから推測は出来ていた。
空中にいる為回避が取れないゴーレムの胸部に矢が命中。先ほど同様矢はその速度と威力が相成ってゴーレムの体に風穴を空ける。
だがその空いた穴の大きさが拳ほどの大きさになっていた。
この矢は貫通力よりも命中した際のダメージを重視している。
何せあの速度、そして総金属の矢の質量だ。それを以って傘の部分で敵の肉――今回は木だが――をごっそりと削ぎ取る。
なお命名は自分だが矢の発案者はウルティナである。本当にえぐいものを思いつくものだ。
何せ矢の本体が当たらなくても傘が引っかかるだけでその部分をこそぎ取るのだから。
欠点としてはこの矢は完全に使い捨てであり、それにもかかわらず量産が難しいことか。
単純構造とは言え変形機能を持っていること。変形した箇所――つまり傘の部分に一番負荷が掛かるため、使用後は殆ど歪んでしまうこと。
故に虎の子。ドルンにもあんまりポンポン使うなと言われていたが今が使い時だと判断を下した。
連射により十本のUAがゴーレムに襲い掛かり、その身に穴を開け表面を削り取っていく。
しかし……
(外れた!)
ゴーレム、未だ健在。
UAは全て命中、ないしは掠めるものの、肝心の核を破壊するには至らず。腕が抉られ、胴に穴が空こうともゴーレムはそのまま地面へと着地する。
(ッ、まず――!!)
彼我の差が縮まり、尚且つこちらは横を向いている状態。そして捉えたと言わんばかりにゴーレムの顔がこちらへと向けられる。
次の瞬間、ボロボロになった体を再生する間も無く攻撃にシフトしたのが見えた。
(連鎖:【《
頭の中から『強襲され避け切れなかった時』の対処法を引っ張り出し魔法を立て続けに生成。
ゴーレムが右腕を振りかぶると同時、彼我の間を隔てるかのように展開した魔法が姿を現す。
《軽光剣》が三本、互いに交わる様に地面に刺さり三角錐の形を取りその身を固定。そして剣が交差した箇所に《軽光盾》が三重で配置された。
直後。
「――ッ!!」
着弾。
ゴーレムの拳が振り抜かれ、一枚目の《軽光盾》が一瞬で破砕される。
続けて二枚目の《軽光盾》に拳が到達。バキリと盾にヒビが入りこちらもあえなく砕け散った。
そして三枚目の盾へその拳が襲いかかろうとしたその時だった。不意にゴーレムの拳の勢いが急激に失われていく。
二枚目の《軽光盾》が砕けた直後。舞い散る光の欠片に混じりあるものがゴーレムに向かい勢いよく飛びだしていた。
それは氷の欠片。直径数センチほどの無数の氷がゴーレムの拳と体を穿っていく。
(氷の反応装甲だ!)
正確には反応装甲と呼ぶには少し異なるが、そこから着想を得た為自分はそう呼んでいた。
仕組みは《軽光盾》の間に《生活の氷》で同じ形状の氷を二枚生成。後は《追加構文》で盾が砕けた直後、内側の氷を《生活の火》で爆発させ外側の氷を押し出すと言った具合だ。
相手の攻撃の勢いを殺し、尚且つ散弾となった氷の
惜しむらくは――
(勢いが殺しきれない……!)
向こうの速度と質量がこちらの防壁を上回った。
氷の礫を受けて尚振りぬかれた拳が三枚目の《軽光盾》に到達。爆風と礫で威力が弱まったためか盾が割られることは無かったが、それでも振りぬかれた拳は固定用の《軽光剣》を地面から引き抜き勢いそのままこちらへと襲い掛かる。
「ポチ!!」
その名を呼ぶより早く、ポチがこちらの意図を汲み取り行動を移す。
サイドステップの要領でゴーレムから離れる様に即座に飛びのく。だがそれと同時に押し出された《軽光盾》が自分とポチへと襲い掛かった。
「ぐっ……!」
"転世界銃"を縦に構え衝撃に備えるが、押し出された《軽光盾》もろとも殴り飛ばされてしまった。
ただし防壁を展開した事は無駄ではなく、この一撃を以ってしてもとても痛い程度で済んだのは僥倖と言うほか無い。
……僥倖だけどクッソ痛ぇよチクショウ。
とは言えこのダメージもポチが飛び跳ねたことで衝撃を受け流す形を取れたためだろう。反面、踏ん張りを効かすことができず、勢いそのまま後ろに吹き飛ばされてしまう。
だがそれも織り込み済み。
以前変種のデッドリーベア戦で吹き飛ばされ大怪我を負った経験から、先の防御方法も含め色々と対処法は考えてある。
(連鎖:《生活の水》《
選んだのはストーンゴーレム戦でドルンが吹き飛ばされた際に使ったのと同じ手法。
《生活の水》で出した水の塊を『魔力固定法』で表面を固着。水のクッションで衝撃を受け止める。
仮に表面を突き破っても冷たいで済んだと思えば何も問題無い!
「っぷ!」
背に包み込むような柔らかい感触を感じた直後、それを突き抜け全身が水に包まれる。
しかし中に入ったことでゴーレムに押されていた《軽光盾》からは逃れることが出来たようだ。平坦な形状をしているから《生活の水》の表面を突破することができなかったのだろう。
そのまま反対側へと抜け、追いすがってくるであろうゴーレムを迎え撃つ体勢を取る。
水に突っ込んできたら即凍らせようとか、回り込もうものなら出てきた瞬間矢を射ってやろうかと考え手早く準備を整えるが、しかしこちらの予測に反しゴーレムは追ってくることは無かった。
追ってこないゴーレムに思わず内心で首を傾げる。
再生する時間すら惜しむ様に先ほどは追撃してきたのに……。
(水が苦手……? いや、流石にそれは無いか)
役目を終えた《生活の水》が《軽光盾》の防壁と共に地面に落ち双方の魔法が解除される。そしてその向こうに現れたゴーレムを見ながら落ち着いて思考を巡らせる。
あのままこちらを追撃しても多分問題は無かっただろう。いくら木製とは言え水に濡れたぐらいでどうにかなるものとは思えない。
今日はたまたま晴天だが場合によっては雨が降ることすら考えられた。雨天順延するような相手をウルティナが用意するはずがない。
つまり攻撃を中断する何らかの要素が向こうに発生したということだ。
もしかしたらその何かが突破口になるかもしれない。
「ポチ」
こちらの思考を読み取り注意深くポチがゴーレムと距離を取ってくれる。
少しずつ離れていくがゴーレムは動こうとはしなかった。顔はこちらに向いているから動きを見ているのは間違い無さそうだが……。
(ん……?)
こちらもゴーレムを注視して気付く。
先ほどのUAによって傷ついたゴーレムの体はすでに修復されていた。再生能力があるのはこれまでの戦いから知っていたので特に驚くことではない。
問題は今回の傷が完全に修復し切れていない点だ。コロナの《
穴が空いた箇所はまるで砲弾が直撃したかのように表面が凹み、削ぎ取られた箇所も再生が不十分なのかその部分だけ一回り小さくなっている。
(魔力が尽きてきた……? いや、それは絶対に無い。体が小さくなればむしろ回せる魔力は相対的に増えるはず)
魔力の供給元である魔石が同じなら、大きい体より小さい体のほうが効率は良くなる。だから核の魔力不足と言う点はまずありえない。
そもそも再生に使った魔力などたかが知れている。
自分が与えた傷は先ほどのUA十発に通常の矢が十数発。あとは《軽光》魔法の武器が刺さったり先ほどの反応装甲が当たった程度だ。
どう見積もってもコロナが与えたダメージよりは小さい。この程度で再生能力にかげりが見えるのなら、あの子はもっと早く倒せているはずだ。
つまり何か別の要素がある。
(何だ。何が違う? コロの時との違い、これまでの経過を振り返るんだ)
コロナの《星巡》を初めとする攻撃はほぼ完全再生と言っていいほどに治っていた。こちらよりも威力が段違いに高いあの攻撃にもかかわらずにだ。
しかし今のゴーレムは明らかに治りきっていない。違いと言えば今のゴーレムは最初に戦ったときと大きさや形状が異なっている。
《軽光》魔法がどちらの形態にも刺さっていることから体の構成物質の違いは無いと見ていい。
(攻撃の種類? 魔力に弱い……は無い。俺の魔法より"
と言うか何故ゴーレムは攻めてこないのか。
こちらを窺うように……いや、何かを警戒するように構えを取っている。ダメージを無視して我武者羅に走っていた先ほどとは雲泥の差だ。
何を警戒しているかと言えば多分UAだろう。理由は不明だがあれで与えた傷だけ完治していないのだから当然と言えば当然とも言える。
問題はその効果があったと思われるUAはすでに弾切れだ。虎の子だからもう予備は無い。
ならば斬られる事に強く、突かれる事に弱いという仮説を立ててみるがこれもしっくりこない。
《軽光剣》もいつもの矢も刺さりはするがダメージは与えていた様子は無かった。
刺さったままの箇所が再生しないと言う違和感はあるものの、そもそも突く事に弱いのであればこれらをどうにかするし、もっと早めに警戒をしたはずだ。
何だろう……再生するのにしない、しているけど不十分……。
何か根本的に思い違いを……ッ?!
「再生じゃない?」
もし天啓と言うものがあるというのなら今の状態がまさにそれかもしれない。
そもそもコロナが両断しても何事も無く戻っていたから再生能力と思っていた。相手が無機物であるゴーレム種なのがその考えに拍車をかけていた。
しかし今頭に降りてきた考えがそれを否定する。
いや、確かにこの能力は再生ではある。ただそう表現するのが適切ではないだけだ。
このゴーレムの本当の能力の正体。それは……
「接合能力……!」
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