第281話 模擬戦 コロナvsヤマル17
「あなたに必殺技を授けましょう。……何よ、その『え、誰この女神の様な美しい女性は』みたいな顔しちゃってー」
「……ハハハ」
いや、確かに『え、誰この人』みたいには思ったが断じて褒め言葉ではない。
確かにウルティナは美人だし今の言葉と手に持った魔道書を差し出す所作は女神の様に見えなくも無いが、正直彼女の人となりを知ってる自分から見るとうさんくささが倍増するだけだ。
とりあえず貰った魔道書は二冊。
ひとつは必殺技と言われたヤツだが、もう一つはそれを使用するための補助魔法と言う体で渡された《
《追加構文》を覚え、直後に必殺技の方も覚えたところで思わず首をかしげてしまう。
「あれ? 師匠、これ必殺技って言ってましたけど攻撃魔法じゃないですよ」
必殺技と言うぐらいだから何かしらの攻撃魔法と思っていたが、いざ覚えてみればこれは補助魔法だった。
しかも何と言うか……色々とピーキーな魔法ではないだろうか。間違いなく使い手を選ぶ。
「ヤマル君の魔力じゃ必殺技足り得る魔法なんて絶対撃てないでしょ?」
「まぁ……そうですね」
「ならヤマル君が使ってる魔法を必殺技になるぐらい強くすればいいじゃない」
「まぁ……そうですね」
理屈は分かる。実際ポチの《魔法増幅》も自分の願いに対して産まれた様な魔法だし、弱い魔法を強くすると言う考え自体は共感できる。
問題はその『弱い魔法』を『必殺技』級に昇華すると真面目に言っていることだ。
ただなんというか。
(実際出来そうなのがなぁ……)
与えられた魔法の効果は確かに高い。だがそれを成すための手順がめんどくさい上に、普通の魔術師では無理ときたもんだ。
この無理と言うのは他の魔術師の才覚や実力云々ではなく、今の魔術体系と相性が悪すぎる。
一応頑張れば使える人は出てくるだろう。しかし正直そこまでの手間を掛けて攻撃力を上げるぐらいなら、元から高威力の魔法を使用した方が良いと断言できる。
そんな魔法を何故彼女は開発したのだろうか。気になってそれを聞いてみると意外な答えが返ってきた。
「これね、私の得意魔法の一つなのよ。前にマー君とやってたときに必要だったからねー」
なんとこの魔法はブレイヴとドンパチしてたときに多用してたとのこと。
人間としては規格外のウルティナだが、それでもブレイヴに攻撃を通すためには魔力が足りなかったようだ。
一応より強い魔法の開発も出来たらしいが、こちらを用いることで既存の魔法を使いまわせる利便性が決め手になったらしい。
「言ったでしょ、ヤマル君の戦い方はあたしに似てるって」
◇
元々は《軽光》魔法のガワだけで突っ込ませて、その隙にポチを最短距離で後ろに回し強襲してもらう手筈だった。後はその場に残った自分の位置にゴーレムを飛ばしてもらい必殺技にて決めるだけ。
向こうの視界を奪ってる状態とは言え、普通に突っ込むのは危ないと判断しこの作戦を取った。念には念を、ぐらいの考えだったことは否めない。
しかし如何なる手段を用いたのか不明だが、あのゴーレムはカウンターで迎撃してきた。もし念入れせずにそのまま突っ込んでいれば、宙を舞っていたのは自分達になっただろう。そう思うと背筋に冷たいものが走るのを感じる。
しかしその行動がこちらに思わぬ幸運をもたらしていた。
一つはゴーレムが自らの攻撃によって隙が出来たと言うこと。
もう一つはその攻撃の一撃で周囲の霧が一部晴らされたため、ゴーレムを飛び越えようとするポチが見つかったことだ。
見つかったこと自体は不運ではあった。背後から強襲する予定だったから、ぎりぎりまで見つからずにいて欲しかったのも事実だ。
だが発見されたことでゴーレムが上にいるポチに対し行動を起こそうとした。ポチが上から強襲しようとしてるように見えたのだろう。
ウルティナから与えられた魔道具によって飛び越えることが出来るとも知らずに。
(ほんと師匠は何でもありだよなぁ……)
ポチに与えられた魔道具は『
そして『掴む腕』を用いて空中で跳躍を見せたポチに対し、ゴーレムが更にバランスを崩したのが感じ取れた。
更にこちらにとって都合の良いことが続く。あれだけバランスを崩していたゴーレムがその状態から更に攻撃を仕掛けたのだ。
まるで独楽のような回転によるラリアット攻撃。しかしそれはポチ単体に当たることは叶わず、逆に懐に潜り込まれる結果に終わる。
そして予定以上に良い状態でポチがゴーレムに体当たりをし、その身が突き上げられ宙を舞う。
(ポチ、ナイス!)
心の中でポチに対し最大限の賞賛を贈る。
背後からの強襲を成功させたこと。そして何よりゴーレムが背を向けた状態でこちらへと飛んできていること。
この状態は今からやろうとしていることに対しゴーレムに邪魔されないと言う保証を得ているようなものだ。
ポチがここまで頑張ってお膳立てしてくれたのだ。これで決めなければ主として面目が立たない。
(絶対に決める……!!)
まずは周囲の《
現状でも相手の場所は感じ取れるが、視認性を向上させることで成功率を少しでも上げる。
(
更に索敵魔法二連で彼我の距離を正確に把握。
人型とは言え相手は三メートル級。目視だけでは誤認してしまう可能性をこの魔法で除外する。
「最後に……!」
(連鎖:【《
現状最長の九連鎖。
必殺技を出すためだけにこれだけはしこたま師匠であるウルティナに叩き込まれた。むしろ出し方まで指定された。
正直そこまでガチガチに固めなくても臨機応変にすればいいのでは、と思ったが、この点は頑なに彼女は譲ろうとしなかった。
流石に怪しいと思ったのでその時に一応聞いてみたのだ。
『いーい? 必殺技はカッコよくド派手にやるのよ! 向こうには逆立ちしても威力は敵わないんだから、必殺技らしさを突き詰めるの!! マー君が地団駄踏んで悔しがるぐらいのやつをね!!』
要するにいつもの理由だった。逆らえない我が身が憎い。
とは言うものの威力的には何ら申し分はない。正しく発動すれば文字通り必殺技足り得る一撃ではある。
そして現れた魔法はそれまで自分が使った魔法だ。
"
その長大な剣を正眼に構えると、自分では
(くっそ、我慢しろ……! 十秒でいいから保たせるんだ!)
力を振り絞り剣先を飛んでくるゴーレムへと向ける。
震えそうになる腕を歯を食いしばって制し、当てるべきその背から一瞬たりとも目を背けない。
徐々に近づくゴーレムの背中。この戦いに勝つことはもとより、外せば自分はゴーレムの体に潰されるか吹き飛ばされてしまう。
絶対に外す事が出来ない一撃。
緊張で口が渇き、耳の奥から自分の心臓の音が聞こえてくる。
しかし時間は刻一刻と過ぎ去り、そしてゴーレムのその身が射程圏内に入った。
その瞬間、浮遊する《軽光剣》が与えられた指示に従い先行する。
飛翔するそれらはゴーレムの両肩甲骨と腰の部分に突き刺さり、まるで逆正三角形の頂点の様な形を取った。
(ここだ!!)
一歩踏み出すたびに剣の重さに腕が悲鳴をあげる。
終わったら腕力トレーニングをコロナにお願いしようと心の中で硬く誓い、《軽光外殻剣》をゴーレムに向け突き出した。向かってくるゴーレムの速度と重さも相成り、剣先は問題なくゴーレムに吸い込まれていく。
貫いた箇所は体の中心。丁度三振りの《軽光剣》の中点のど真ん中。
剣に掛かる抵抗と負荷を足の踏ん張りで抑え、前に進むことで貫く力を加速させる。
「必殺……」
ゴーレムが《軽光外殻剣》の中央付近まで達したところでウルティナから与えられた最後の魔法を発動させる。
脳内でそれを使用するとゴーレムに刺さっていた三振りの《軽光剣》が丸い魔力の塊へと変化。そして吸い取られるかのように中心……即ち《軽光外殻剣》に吸収される。
この一連の行動をトリガーとし、先の連鎖にて組み込んでいたある魔法が発動。
それは《生活の火》。《生活魔法》の中で一番初めに生み出した魔法が、今この時を以って必殺技の最後のピースとなる――!
「《
必殺技の名を告げたその瞬間、《軽光外殻剣》が爆ぜ貫いていたゴーレムを木っ端微塵に吹き飛ばした。
◇
《中央焦点撃》。自身の必殺技として与えられた魔法――正確には創造した魔法だ。
製作経緯を辿れば一から造った魔法ではなく、《軽光剣》の様に既存の魔法を合わせたものに近しい。
《軽光剣》が《生活の光》で作った剣に『魔力固定法』を掛けたように、《中央焦点撃》もある魔法の一連動作を一つにまとめた魔法だ。
そもそもウルティナから必殺技として与えられた魔法は《
これはある条件を満たすことで対象の魔法の威力や性能を飛躍的に高める魔法である。
メリットはその条件が魔力が低い自分でも達成可能なものであること。
デメリットはその条件を達成するのがひたすら面倒な事。現行の魔術師が扱う魔術体系とは特に相性が悪い。
その条件と言うのは次の通りだ。
その一。《中央増幅法》と名があるように、増幅する魔法の周囲に別の魔法が必要であること。
この別の魔法は特に指定があるわけではない。同じ魔法が等間隔で展開されていれば特に問題は無い。
自分は《軽光剣》を刺す事でこの条件を達成している。
その二。メインの魔法は条件その一の中心点で発動すること。
どうもこの魔法、イメージとしては結界魔法に近しいものらしい。らしいと言うのは
その為今回は《軽光剣》の中心点に《軽光外殻剣》を刺したことでこの条件を達成した。
一言でまとめてしまえば、《軽光外殻剣》の内側に仕込んだ《生活の氷》の氷剣を《生活の火》で一斉に気化させ内部で水蒸気爆発を起こし、それを《中央増幅法》で威力を上げる。
これがウルティナ考案の必殺技、《中央焦点撃》の全貌だ。
一応爆発による衝撃波は精霊石の加護で相殺できることは試した。と言うかこれがないと至近距離であんな危険なものは扱えないから必須事項だった。
風だけじゃなく衝撃波も対象だったのか、はたまた術者の魔法だったからかは不明だが、今はそのありがたみを甘んじて受けることにしている。
そして結果はご覧の通りだ。
内側から爆発の衝撃を受けたゴーレムは木っ端微塵に吹き飛び、残ったのは精々手足とかの末端ぐらいだろう。
流石にあそこまで体が無くなったら接合能力の範疇を超えているに違いない。
そんな大金星を挙げた現在の自分はと言うと……
(あ~、空が青い……)
大地に仰向けになって天を見上げていた。
いや、違うのよ。別に力出し切った感出してるとかそういうのじゃないのよ。
ゴーレム爆発するじゃん? 衝撃波は加護で相殺するじゃん?
でもゴーレムの破片は容赦なく飛んで来るのよ。もう、すんごい速度で。
一応さ、それを見越して《軽光盾》に破片防ぐように《追加構文》掛けてたんだよ、ちゃんとさ。で、《軽光盾》はそれしっかり実行してくれて守ってくれたのよ。
ただ……ね。浮いてる《軽光盾》って踏ん張り効かないから、でかい破片が当たるとこっちに飛んでくるのよね。
まぁそう言った訳でカウンターで顔面強打してひっくり返ったのです、はい。
「締まらないなぁ……まぁ俺らしいと言えば俺らしいけど……。うぇ、鼻血出てる……」
鼻から熱いものが垂れるのを感じげんなりしながら上体を起こす。
パラパラと未だゴーレムの破片が舞い散る中、《
どうやらあっちは爆発の巻き添えはなかったようだ。
……一応配慮して爆発の方向を上下に向けたからなぁ。何で真正面の俺の方だけ都合よく破片が飛んで来るのだろうか。
「ん?」
見るとポチが何やら見慣れぬ石を咥えていた。
大きさで言えば拳ぐらいの白い石。いや、何かの結晶……と言うか魔石?
「あ、核探してくれたの?」
こちらの問いかけに首を上下に振り肯定の意を示すポチ。
主人がマヌケな自爆カウンターで倒れてる中、せっせと核を見つけてくれるとか……ほんと良く出来た子である。
「よーし、偉いぞー」
立ち上がり頭を撫でて褒めてやるとポチはとても上機嫌そうに尻尾を振り――
「ゴクン」
「…………え゛」
咥えていた核を飲み込んだ。誤飲ではない、明らかに意思を持っての丸飲みである。
数秒思考が停止するも、次に気が付いたときには強制的にポチの口をこじ開けようとしていた。
「そんなの飲み込んじゃダメでしょ! ペッしなさい、ペッ!!」
「ん~~~~!!」
しかしこちらが無理矢理口を開けようとするも成体戦狼状態のポチの力は強くビクともしない。
何とか吐き出させようとあれこれやっている内に、模擬戦の終了の合図が辺りに響き渡っていたのだった。
~おまけ~
エルフィリア「ヤマルさんが覚えた魔法って便利そうですけど、何で他の人の魔術師の方と相性悪いんですか?」
ウルティナ「んー、別に使えないってわけじゃないのよ? 多分マルちゃんなら頑張れば使えるとは思うし」
ヤマル「この魔法って周囲に展開する魔法の数と強さ、中心点にいかにずれていないかを満たすことで最終的に増幅される威力に上方修正が掛かるらしいんだけどさ。この『周囲に展開する魔法』が曲者でね」
ウルティナ「ほら、人間の魔法って殆どが『魔術構文』に記された条件を達成すると消えちゃうでしょ? ヤマル君の《生活魔法》みたいに留まる力が殆どないのよねー」
ヤマル「例えばだけどもし普通の魔術師がやる場合、《ファイアボール》三発をゆっくり飛ばして、即座に無詠唱の《フレイムランス》突っ込ませて、タイミング良く中心点通過中に《中央増幅法》発動させて……」
ドルン「完全に曲芸だな」
ウルティナ「ヤマル君の例だとそこまでして魔法の火力上げるべきかーって問題もあるのよね。無詠唱魔法は大体1~2ランク威力下がるしねー。それなら普通に高威力魔法使った方がずっと良いわけね」
コロナ「あれ、でもウルティナさんの得意魔法なんだよね?」
ウルティナ「そうよー。あたしに掛かれば高威力魔法も無詠唱でちょちょいって出来ちゃうからね」
ブレイヴ「ヤマルは近接で使ったが、こいつは自身の周囲に魔法展開して遠距離でぶっ放してくるから更に
ウルティナ「《
ブレイヴ「…………」
ヤマル「どうどう……。師匠も煽らないで下さい……」
ウルティナ「てへっ」
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