第231話 ようやく手に入れたもの


『実はヤマルが欲しがってたものだがその部屋には無くての』


 それはいざ本来の目的の物である魔宝石を探そうとした矢先のこと。

 カレドラがまるで見計らったかのように、この場には魔宝石が無いと告げてきた。


「あれ。それでは他の場所ですか?」

『うむ。流石に一緒に安置するのは危険じゃからの。反対側の部屋じゃ』


 と言うことはカレドラがいるであろうホールまで戻り、更に進んだ反対側の通路の先と言うことになる。

 取りに行くだけなら自分だけでも良いとは思うけど……。


「あぁ。こっちはまだ時間掛かりそうだから取ってきていいぞ」

「あ、私は一緒に行くね」

「わん!」


 チラリと皆に視線を向けるとドルンは残って素材調査。

 コロナとポチは一緒についてきてくれるようだ。


「ドルン氏だけ残すのも忍びないからな。こちらには我が残ろう」

「じゃあ私はヤマル君達の方に行くわね。何も起こらないでしょうけど、あなたが残るならそうした方がいいでしょうし」

「あ、その……私もヤマルさんの方へ……」


 と言う訳で自分と一緒に行くのは女性陣全員だ。

 ……そこまで大所帯にならなくても良い気もするが、よくよく戦力比率を考えればこれで同じぐらいか。

 むしろブレイヴが一緒に居るだけでドルンの安全は約束された様な物だろう。


「一応明かりを何個か残しておくね。まぁすぐ戻ってくるだろうけど……」

「おう、急がなくてもいいからちゃんとしたの取ってこいよ」


 《軽光ディライト》魔法の明かりを追加でいくつか作成しドルンに渡しては、一旦この部屋を後にする。

 そして再び《生活の光ライフライト》で通路を照らしながら来た道を戻ると、程なくしてカレドラの姿が見えてきた。

 体を丸め寝そべっているだけなのだが、やはりドラゴンと言うだけで存在感が物凄い。


「目的の物はあっちじゃ」


 そう言うとカレドラは尻尾で反対側の通路を示す。

 彼に礼を言い頭を下げては指定された通路の方へ歩みを進める。

 同じ様な通路、そして程なくして竜の遺体が安置されていた部屋と同じ構造の空間へと到着した。


「ここかな?」

「多分そうね。ヤマル君、灯りお願い」


 言われずとも、と言うことで《生活の光》をいくつか出し、部屋の中を照らすように天井付近へと飛ばす。

 現れた部屋は先ほどの部屋とまったく同じ造り。しかし巨大な竜の骨が無いためか随分と広く感じてしまった。


「さてと、魔宝石は……」

「あ、あれじゃないですか?」


 探そうと思った矢先、エルフィリアがあっさりと目的の物を見つける。

 彼女が指差す方向を見ると、そこには拳大ぐらいの魔石が床に山積みにされていた。


「……ミーシャさん」

「何かしら」

「魔宝石って結構お値段しましたよね。前教えてもらいましたし」

「そうね」

「……めっちゃあるんですが」

「まさに宝の山ね」


 そう、文字通り宝の山である。

 いや、ドルンが調べてる骸も宝の山だ。まさにここは竜の宝物庫と呼ぶに相応しい場所だろう。

 ただ床に平積みされているせいか宝っぼさが微塵も感じられなかった。

 勿論自分達みたいに見る人が見れば宝の山なのだが、仮に何も知らない子どもが見たら石投げに使われそうな雰囲気すらある。

 多分置かれ方の問題なのだろう。もし奉るように安置していればもっと宝っぽさが出ていたに違いない。


「それでどれを持っていくの?」

「中々贅沢な質問ですよね、それ。とりあえずこれに合うサイズがあるか探しましょう」


 そして取り出したるはカバンの中で厳重に保管してあった召喚石の台座。この台座の上に乗せれるサイズが希望の大きさだ。

 一応スマホも取り出し召喚石のレプリカの写真を皆に見せ、完成図がどの様になるか情報共有を行う。


「ヤマルさん。ぴったりの大きさが無かったらどうしましょう」

「魔宝石用の固定具があるからある程度ならなんとでもなるよ。ま、台座の現物があるから迷ったら実際に乗せて確かめよう」


 とりあえず石の山の前に来てはその場で正座をし、両手を合わせ今は亡き竜の御魂に祈りを捧げる。

 実際の効力があるわけではないが、個人的な心の区切りをこれでつけては早速選定に取りかかった。

 こちらが探し始めたことで皆も一緒になって選び始める。


「こうして見ると大きさも微妙に違うよね。結晶化した魔宝石だからか全部丸いけど」

「まぁ生前の持ち主の強さに比例してるんでしょうね」

「ドラゴンでも強さはまちまちなのかな?」

「俺からすれば確実に死ぬから、仮に弱い個体でもドラゴンの時点でアウトだろうなぁ」

「まぁ結晶化したのは似たり寄ったりだけど、魔族わたしたちの場合は生きてるときだと魔宝石は結構個性が出るものよ。大まかだけど大きさが扱える魔力の大きさで、形が内面みたいなものかしらね。攻撃的だったら鋭角な角が多くなったり、穏やかな人だと丸みを帯びてたりね」


 そこでミーシャ以外の面々が彼女の胸元の魔宝石を見る。

 カッティングされた様に整った八角形の赤い魔宝石。なるほど、確かに几帳面で真面目そうな彼女らしい形だ。


「とは言え当てにならない部分もあるけどね。大きさで魔力が決まるなら、アイツの魔宝石なんて人体じゃ収まり切らないでしょうし」

「あー……と言うかブレイヴさんてどんだけ強いんですか。さっきの話だとドラゴンを倒したんですよね?」

「そうよー。今はあんな感じだけど昔はもっとおっかなかったからね」


 そのおっかない昔にちょっと興味が湧くも、ミーシャの視線がその話はここまでと告げていた。

 興味本位であまり他人の過去に首を突っ込むべきではないと思い、再び魔宝石の選定を再開する。


 そして三十分ほどをかけ全ての石を改め、その中から五つほどに絞り込んだ。


「どれも同じ様なものになったね」

「まぁ台座の現物を使いながらだったから、そりゃ納まりがいい物に集約されるよね……」


 結局選定した五つはどれも台座にしっかりと固定できる物だった。

 形も大きさも細かく見れば確かに違いはあるものの、ぱっと見ではほぼ誤差の範囲と言って差し支えない。


「ヤマル君、どれにするの?」

「ん~……じゃぁこの微妙に一番大きいやつにします」

「ふむふむ。ちなみに決め手は?」

「単に帰る際の魔力足りなかったら嫌だなって思っただけですよ」


 とは言えこの台座に納まるぐらいの大きさなら多分問題はないのだろう。

 大きさで選んだのも念の為と言った面が強い。

 先ほどはとっかえひっかえと言った感じではあったが、改めて魔宝石を台座へ乗せては固定具をしっかりと取り付ける。

 そして魔宝石が無事納められ、今ここに本物の召喚石が完成した。


「……長かったなぁ」


 ここに来るまで随分と時間が掛かったし遠回りもした。

 色んな場所にも行ったし危険な目にも遭ったし日本ではしないようなことも経験した。

 だがこれでようやく日本に帰る算段がつく。


「それが人王国の異世界人を呼ぶアイテム?」

「はい。まぁ他にも必要なのは色々あるみたいですけどね。そっちは都合は付きそうだったんですが、これだけは自分で用意するしか無くて……」


 正確には十数年待てば用意できるが、そこまで待てないから自分で用意する事にしたと付け加えておく。


「随分と気の長い話ね。十数年あればソレが用意できるってこと?」

「召喚石本体の入手と言うよりは石に込める魔力が溜まる時間でしょうね。なので今後はこれを持って、魔力の高い人に入れてもらう旅になると思うんですが……」


 そう言いながらふと今まで話してた目の前の人物――現魔王であり間違いなくその辺の人とは一線を画す魔力の持ち主であるミーシャを見る。

 しかし彼女はこちらの言わんとした事が分かったのか、軽く首を横に振った。


「私……と言うより多分魔族じゃ無理ね。自身の魔力を何かに移すことは出来ないわ。その辺りは人間の領分よ」

「と言うことは……」

「その……私もちょっと……」


 視線をエルフィリアに向けるも、彼女は申し訳無さそうに顔を伏せた。

 つまり人間で魔力の高い人を探さねばならない。もしくは魔術師が大量にいる場所か。

 心当たりがあるとすれば王都の魔術師ギルドの面々や神殿、あとは魔法都市の人達だろうか。ただし平時で十数年、全力を以ってしても数年は掛かると言っていた。

 彼らが全力で行ったとしても精々数年が一年縮まるかどうかだろう。


「後は魔素の高い場所……それこそここにずっと置いておくとか。魔石は魔素を溜め込むし」

「あれ、ならこの魔宝石って結構魔力溜まってたりします?」


 先の話通りブレイヴが倒したドラゴンの魔宝石なら、すでにこの地に二百年弱は置かれている事になる。

 それぐらいの年月があれば目の前の魔宝石に魔力が溜まっていたところで何ら不思議では無い。

 しかしその淡い期待は即座に崩れ去る事になる。


『すまんがそこの石には魔力は殆どないからの。溜めておくと魔物化の一助になるから、定期的に散らしておるんじゃ』


 部屋に響くカレドラの声。

 そう言えば墓守の竜と言ってたっけ……。死んだ同胞が魔物化しないよう注意していたと言っていた。

 だから骸と魔宝石を別々の部屋に分けておいたのかもしれない。


「……まぁ何か手段考えておきます」


 とりあえず今は無事目的の物が手に入ったことを喜ぶことにする。

 そして手に持った召喚石が壊れないよう厳重に防護材で包みかばんに詰め、改めて皆に頭を下げた。


「本当にありがとう。皆のお陰で無事目的の物が手に入ったよ」

「あ、いえ、そんな……」

「私はあいつの付き添いみたいなものだったからね。気にしないでいいわよ」


 照れるエルフィリアと苦笑するミーシャ。

 しかしポチを抱えたコロナは笑顔ではいるものの、思うところがあるのか何とも言えない表情をしていた。


「コロ?」

「あ、ううん。なんでもないよ! ちょっとヤマルとの契約どうなるのかなぁって思って……」

「あー……そう言えばコレが手に入るまでだったっけ」


 他のメンバーと違い、この中でコロナだけが自分と正式に契約を結んだ間柄だ。

 契約内容は目的の物、すなわち召喚石が手に入るまでの自分の護衛である。

 彼女と契約完了をすれば一応これ以上付き合わせることは無い……が、今更コロナの代わりに他のメンバーを加えるつもりは微塵も無かった。


「正式には後になるけど延長でもいいかな。完成品と言うにはちょっと微妙だし……」

「ん、もちろん! ポチちゃんも私が一緒の方が良いよね?」

「わん!」


 ポチも異存なし。と言うことで現状口約束ではあるが契約は継続の形で話が纏まる。

 一応物が手に入った後に人王国に戻るまでの身の安全が契約期間なので、また王都に戻った際に改めて契約書を発効した方がいいだろう。


「さて、散らかした石を片付けたらドルン達の所へ戻ろっか」


 自分の掛け声と共に再び手分けして選ばなかった石を元の山積み状態へと戻しておく。

 そして片づけが済んだところで再び石の山に手を合わせ謝辞と共に拝み終えると、ドルンとブレイヴが待つ部屋へ戻る事にした。


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