第223話 閑話 魔王様のプライベート日記(極秘)
今日は驚きの連続だった。
まさに未知との遭遇。知識は豊富と自負していたのに、少なからずショックを受ける自分がいた。
ここ最近デスクワークが多かったせいか情報が古くなっていたのかもしれない。
この驚きを残すためにも今日の日記の内容はありのままに感じたことを書く事にする。
まずは今朝の事を思い出す。
この日、自分の思い込みで嵌められた結果、とある人間の冒険者パーティーと一緒にドラゴンの住まう地へ向かう事になった。
事の発端は■■■■■あいつが……ううん、この件は思い出すと少しムカムカするので割愛。
ともかく彼らとあいつと一緒に行く事になったのだが、そこで最初の驚きがあった。
道の端に何か巨大な四角いオブジェがあると思っていたが、なんとこれは彼らが所有する馬車とのことだった。
正確には馬が引くわけではないので馬車ではないのだが、彼らはここに来るまでもこれを引いて移動してきたとの事。
車輪も無く地面に鎮座し、明らかに鈍重そうな物体をどうやってと言う疑問を思わず投げかける。すると人間でありこのパーティのリーダーであるヤマルがその物体に向かって手をかざした。
何をしているのだろうとその様子を覗いていると、いきなり半透明の四角い光る板が彼のかざした手の先に現れたのだ。
突如発生した不可思議な現象に兵やストマクス達が驚き臨戦態勢を取り始めるが、それを引きとめその後の様子を見ていると二度目の驚きが訪れる。
何とその妙な物体が地面からふわりと浮いた。しかも魔法を使ったような形跡も無い。
あまりの奇妙さに更に問い詰めると、どうやらこれは人王国で発見された太古の遺跡の遺物らしい。
魔国にも遺跡はいくつか発見されているが、この様な物は耳にした事が無かった。
詳細についてはまだ調査中らしく彼らも全ては分かってないとのこと。少し残念に思っていると代わりにヤマルはこの奇妙な物体の名前はカーゴと言うことを教えてくれた。
次にそのカーゴについて記載するが、さすが古代の遺物だけあり未知の機能が満載だった。
まず浮くことは見せてもらったが、いざこのカーゴに乗車するとその快適さに驚く。
具体的に言えば振動が無い。地面にどこも接地していないのだから当然と言えば当然だが、まさか揺れないだけでここまで安定した車内になるのかと驚きを隠せないでいた。
更にいえばこのカーゴ、地面に降ろしたときの重さは相応にあったが、いざ浮くとなると非常に軽くなる。
具体的には今一緒に居るメンバーの誰もが手で押せたり引いたり出来る位らしい。馬いらず……いや、あえて馬を使うことで新たな馬車として利用できるのではないだろうか。
後はドアが触れずとも開くのも記載しておく。昔の人はどこまで楽することを求めたのだろう。
そんなカーゴの内装は外見から見るよりやや手狭だった。
だけどそれは様々な家具が中にあるからであり、それを考慮すればむしろ広いと言える。
移動中に今回の同行者であるコロナとエルフィリアに色々と教えてもらったが、このカーゴはキッチンにテーブル、椅子、ベッド、そして冷蔵庫も備え付けてあった。
内装に関しては古代の流用ではなく、全て人王国で仕入れたものとのこと。ただキッチンと冷蔵庫はヤマル運用前程と言っていたので、彼が居なければこのカーゴはほぼ機能しないのでは無いかとさえ思う。
以上のことをまとめ導き出される答えはひとつ。
『これ、物凄く欲しい』だ。
現在は快適な移動をコンセプトに内装をこのようにしたらしいのだが、基本的な性能からすれば他にも色々と使い道がある。
例えば荷を大量に持ち運びする事が可能だろう。重量過多によって馬などが潰れる心配も無い。
なんとか接収出来ないかと少し考えたが、正直難しいと言わざるを得ない。人王国の息がかかった物ではあるし、今はこんなことで外交問題を引き起こしたくなかった。
ただ諦めるにしては惜しすぎる性能なので、帰ったら遺跡探査のチームの編成を進言してみるのもいいかもしれない。
驚きと言えば同行する彼ら自身もかなり驚くに値する部類だった。
今回一緒に同行する『風の軌跡』は人王国の冒険者パーティー。あちらでのランクはCとまだまだ一流には程遠いが、彼らに聞いた所ある意味有名なパーティーになりつつあるとのこと。
理由としては言うまでもなくパーティメンバーだ。
そのメンバーについて今日一日一緒に過ごしたが、中々個性的なメンバーだった。
折角なので彼らについても個々に記す事にする。
まずは『風の軌跡』で一番の戦力であるコロナ=マードッグ。
彼女は獣亜連合国出身の小柄な犬系獣人の傭兵だ。あと可愛い。
戦闘能力は年齢にしたら高い方だけど、残念ながら自分の周囲の兵はもっと強いメンバーが揃っているのでどうしても見劣りしてしまう。でも可愛い。
接近戦だけで言えば種族特性から魔族とも渡り合えそうだが、種族特性ゆえに魔法の様な遠距離手段を持ち得ないのは明確な弱点になってしまっていた。それでも可愛い。
……本気で一人ぐらい可愛い衛兵を検討しようかな。
自分の周囲の女性の衛兵は美人は多いけど可愛い系は全く居ない。たまに女を捨てたようなすごいのもいるけど、本当にあの子のようなタイプは居ない。
少し彼らが羨ましく思えてきたので彼女の話はここまでとしよう。
次は同じく獣亜連合国出身のドワーフのドルン。
ドワーフ=鍛冶師のイメージはあるが、彼はそのイメージ通り主に武具をメインに作製する鍛冶師だった。
それもただの鍛冶師ではない。ドワーフの村で一番の腕を持つドノヴァンの息子でもある。
ドノヴァンの武器は魔国でも有名であり、武門の出の魔族なら一振りは欲しがる一品だ。事実、周囲の護衛の何人かは彼の手によって打たれた武器を持っている。
ドルンは流石にドノヴァン程の腕は持っていないとのことだけど、ヤマルやコロナの武器は彼の手製。
少し見せてもらったがそこまで武器に詳しくない自分でも『良い武器』と感じさせる代物だった。
彼も十分鍛冶師としての力は備わっている。
そんなドルンが何故一緒に居るのかその内聞いてみたいところだ。
さて、ここからは驚きと言うよりかなり珍しい部類の種族について記す。
何せエルフィリアはエルフだ。
そう、エルフなのだ。あの大戦時にも出てこなかった引きこもり一族が目の前にいて喋っている。
何故一緒に居るのか詳しくは教えてもらえなかったが、少々込み入った事情があるらしい。
無理に聞き出すわけにもいかなかったのでその話は一端横に置く。
戦闘において彼女は『風の軌跡』の中の魔法担当だった。
エルフと言えば弓の印象であったが彼女は弓は使えないらしい。一応他のエルフは弓の名手ばかりらしいが、何か理由があって魔法に転向したのかも知れない。
また彼女は総じてプライドが高いと伝えられてるエルフとは違いとても大人しいのも特徴だ。
もしかしたらエルフ族は実は変なイメージが先行してるだけなのかもしれない。
そしてポチと言う魔物の子も忘れてはいけない。
魔物なのは知っていたけど、まさか体が一瞬で大きくなる方法を身につけた戦狼なんて想像すらしていなかった。
戦狼はもっと荒々しい魔物のはずだが、主人であるヤマルと一緒に居るその姿からは元来の雰囲気は微塵も感じさせない。
ただ戦闘時においてはちゃんと戦狼らしく戦っていたのでしっかりと育成はしているようだった。
でもやはり小さい状態のポチは仔犬の様でとても可愛い。物凄く癒される。
少し抱かせて貰ったがずっと抱いていたい感触だった。もふもふ。
……つらつら書いたけどそろそろ彼の事が羨ましくなってきた。
コロナかポチかどちらか自分に譲ってくれないだろうか。彼の周りに可愛い生物が複数居るのはずるいと思う。
そんな彼、このパーティーのリーダーであるヤマルは特筆すべきことは無かった。
そう、無いと最初は思っていた。
別に彼の事を甘く見ていたわけでも貶めようとしたわけでもない。
性格はマジメで大人しく、有り体に言えば普通の人間だ。強いて言えばあいつと話せるぐらい忍耐力が高いぐらいだろう。
それに自分とあいつの仲を取り持とうとフォローしてくれたし、おかげさまでその、お買い物デートが出来た。
そう言った事もあり自分の中で彼の評価は『良い人間』ぐらいだった。
しかし今日一日でその評価は『不思議な人間』に変わっている。
何故そのように評価が変化したか。
今から書くことは信じれないかもしれないが、実際に起こったことだと強く書き記す。
まず戦闘面では彼は正直弱かった。恐らくこの中ではほぼ断トツと言って差し支えないほどだろう。
ただ彼の持つ武器と魔法が特異だった。
ドルンによって産み出された彼の武器は銃剣と呼ぶ聞いた事もない武器種。近接向きの剣と思いきや、その実態は高速で矢が発射される弓矢だった。
魔法においても彼は次々に光る武器を生み出していった。人間の魔法は少しの間にここまで至ったのかと感心したものだ。
その光る武器を手に取り、コロナとドルン、そしてあいつが敵を屠っていくのは印象的だった。
特に光る両刃の大剣を手渡されたあいつが感涙でむせび泣いていたのは初めて見る光景だった。とても珍しいシーンに出くわせたと思う。
ただ戦闘が終わり戻ってきたあいつの手には光る剣は無く、代わりに何故か頭から水を被っていた。
なにやら気落ちしていたが、ヤマルが同じのを作り渡すと機嫌が直っていたので放っておくことにする。
しかしあの光る魔法の真骨頂は戦闘以外にあった。
《生活魔法》と言うその魔法は今日一日だけでも大活躍と言う位の働きを見せた。
例えば昼食時。
カーゴ内でコロナとエルフィリアが料理を行っていたが、その時使っていた火と水は彼が魔法で出したものらしい。
更には先ほどの光の剣の応用なのか、椅子やテーブルなども生み出していた。ただ風に弱いのか硬さや大きさの割りには非常に軽く、すぐに上に何か置くことになってしまったことは追記しておく。
ただヤマルはこっちが本来の使い方だと苦笑していた。
他にも簡易トイレを作製したり、夜にいたっては希望なら風呂も準備すると言い出した。
流石に野営中に風呂は普段はしないそうだが、今回はメンバーが多いため大丈夫と言う後押しもありお言葉に甘えてはいる事にした。もちろん覗かれないよう見張りは立てた上でだ。
旅先において貴重な水を文字通り湯水の如く使う贅沢を堪能しつつ風呂から出ると、彼は洗濯とあいろんがけなるものを行っていた。
洗濯は分かるがあいろんがけが何か分からなかったため尋ねると、どうやら熱した鉄の薄い板と水を利用して服の皺を伸ばすものなのだそうだ。
そして最後の驚きは何と言っても遠距離会話だろう。
それは深夜帯に指しかかろうとしたときの事。周りに誰も居ないはずのヤマルが誰かと会話していた。
彼に近づき何をしているのか尋ねたところ、どうも人王国のある人と世間話をしていたらしい。
その時の衝撃は今日一番だったかもしれない。
何せ自分の場合あいつの魔法で遠くから一方的に告げられることはあっても、こちらから話すことはできない。
しかし彼のような魔力が全く見受けられない人間が国を跨いで会話していることが信じられなかった。
一体誰と話しているのか。むしろ自分もそんな不思議体験をしてみたい。
良ければその誰かと話をしたいと声をかけた所、彼にしては珍しく答えを濁すように良いとも悪いとも言えない曖昧な回答をされた。
やはり秘密にしておきたい部分でもあったのだろうか。
だがヤマルは先方が良いといえば構わないといったので、お言葉に甘えそれで頼んでもらう事にした。
そして待つことしばし。あちらからの許可が下り無事会話をする事になった。
彼が手にしていた小さな薄い箱のようなものを受け取り、ここに向かって話すようにと説明を受ける。するとちょうどその箱の表面には小さな女の子が見えた。
話の流れから察するにこの子が少し前まで話していた子なんだろう。
ちょっと緊張した面持ちの銀髪の少女と少しだけ会話してはお開きになったが、とても貴重な体験が出来て満足だった。
そう言えばあの子は誰だったんだろう。お互いに名前を言いそびれてしまったので、次の機会があれば教えてもらうことにする。
最後に。
日記でここまで書いたのは久しぶりだが、まだこれで初日だ。
問題なく旅を続ければ十数日は彼らと一緒に過ごす予定である。
目新しいことは徐々に減るので今日ほど長い日記にはならないと思うが、それでも今後まだ色んな事を見せてくれそうなのは少し楽しみだ。
……あ、後あいつとの仲が少しだけでも進展出来るように頑張る。
折角の旅なんだしせめて◼️◼️◼️◼️(乱暴に文字を潰した痕跡でこれ以上は読めない)
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