第214話 その相性、抜群につき
「それでよく分からないところに監禁されてたってわけか」
「記憶あやふやだから俺も詳しくは分からないんだけどね。まぁこうして戻ってこれた訳だし……」
皆でテーブルを囲みながら、あの時何があったのかをざっくりと話す。
とは言えマテウスとの約束があるため本当の事は言えず、覚えてないなどと言い要所要所で曖昧にごまかすことにした。
ここはディモンジアのとある大衆食堂。
流石にあの時間帯で図書館に留まり続けるるわけにもいかず、出した資料類を皆で片付けて魔王城を後にしその足でとあるここへとやってきた。
酒場も兼任しているのかその店内は騒がしいほどに賑やかであり、店内に入るだけでいかに繁盛しているのかがよく分かる。
そんな場所に異色の
「でもホント良かったですよー。フルカド様に何かあったらと思うとずっと鳥肌立ってたんですからね!」
同じテーブルの対面に座っているピーコが心底安堵した表情をしていた。
しかしこれは彼女なりのギャグか何かだろうか。鳥肌ってか半分ぐらい鳥だろうに……。
まぁそれはさておき。
「ピーコさんにも心配かけちゃった上に自分を探すために色々協力していただいたみたいですし、お詫びも兼ねて今日は自分がご馳走しますね」
「やたー! ご馳走になりまーす!」
諸手……もとい両羽根を挙げ清々しいぐらい喜ぶピーコを見ていると、本当にこの子は気持ちよくお金を出せる女の子だと思う。
表裏が無く明るい性格のお陰だろう。あと見た目は普通に子どもにしか見えないのも今回は有利に働いていた。
ちなみにこのお店はピーコのオススメ。
こういう地元のおいしいところは現地の人に聞くに限ると思い尋ねたら教えてくれたのだ。
「そう言えばフルカド様達は明日は図書館には来られるのですか?」
「あん? つーか明日図書館は開いてるのか?」
ドルンの言葉は要するに自分がいきなり消えた現場が翌日に開けれるのか?と言っていた。
普通ならあんな事件があった後では閉鎖待ったなしである。
だがピーコから出た言葉は『もちろんですよ』であった。それも即答である。
「いやー、フルカド様が消えたから探検隊の方々に火がついたらしくむしろ閉めるなんてとんでもないと言われまして。なまじお偉方の集まりでもあるので中々こちらとしては強く出れないんですよね」
知識欲の塊と言うべきか好奇心旺盛というべきか。
血筋があるかは不明だが叡智の魔王の流れはしっかりと受け継いでいるようだ。
分からない事があり、それを解決するためならばあらゆる障害を取り除こうとする姿勢は確かにマテウスの系譜である。
「まぁそれならむしろ明日は行かないほうが良いかな。根掘り葉掘り聞かれて調べものどころじゃないだろうし」
「あー……それはありそうだね。じゃぁ明日は無し?」
「うん。そう言うわけでピーコさんには悪いんだけど明日はパスで……」
「仕方ないですねー。でもまた来られるんですよね?」
「うん、流石に今日は色々あってあまり進まなかったからね。改めてまた伺わせてもらうよ」
「では私の方から申請を出しておきますね。魔王様のお墨付きですから、城門と図書館の延長は問題ないでしょう。いつでも入れるようにしておきますねー」
上機嫌にそう言ってくれたピーコに皆で礼を言ったところで丁度料理が運ばれてきた。
全員で乾杯をし料理に舌鼓を打ちつつ話は再び明日の予定へと戻る。
「ヤマルさん。図書館行けないのでしたら明日はどうしましょうか」
「あー、実はちょっと行きたいところあってさ。悪いけど皆もちょっと付き合って欲しいんだけど……」
実は明日はちょっと行きたい場所があった。いや、正確には出来たが正しい。
聞いてきたエルフィリアがどこに行くのか更に尋ねて来たので、人差し指を立て皆も知るあの場所を告げる。
「冒険者ギルド。ちょっと皆にも協力して欲しいとこがあってさ」
◇
「……異常だな」
「……異常だよね」
「……異常ですよね、これ」
三者三様、全員が同じ意見で一致した。
三人の視線の先には床に積まれた武具の数々。
どれもこれもが白く光っており、一目で普通の物では無いというのが誰の目にも分かる。
「ポチ、いくよ! それ!!」
「わふーー!!」
そんな中、少し離れた場所ではヤマルがポチと遊んでいた。
その手には目の前の武具と同じ様に光った小さな車輪の様な物を持っていた。『ふりすびー』と言う異世界の遊具らしい。
水平に剣を振るうような動きでヤマルがそれを投げると、ふりすびーは見たことも無いような動きをしながら部屋の奥へと飛んでいき、それをポチが全力で追っかけていった。
そう、ここは室内。ディモンジアの冒険者ギルド内にある訓練用の一室だ。
魔族の冒険者はこの様な室内ではなく外で体を動かすことが多いため、広い室内にも関わらず今は自分達しかいない。
魔族用に作られたこの頑丈な訓練場を自由に使えるのはちょっとした贅沢と思う。
そんな事を考えながらヤマルの方を見ていると何故か無性に体がうずいて仕方が無かった。
何故だろう。あのふりすびーをものすごく追いかけたい。
「コロナ、どうした?」
「あ、ううん。なんでもないよ」
ぶんぶんと顔を横に振り沸き上がる感情を払っては、意識を目の前の物に戻す。
今日ここにやってきたのはヤマルたっての希望だ。その理由がこの目の前に積まれた武具たちになる。
どうも彼は昨日消えた後、訳有りで話せないが『魔力固定法』と言う力を得たらしい。
詳しく聞くと魔力や魔法みたいな触れられないものに対し使うことで、実際に触れるようになると言う代物。
それらを色々試し、自分達の異なる目線で一緒に検証して欲しいと言うのが彼の願いだった。
しかしこちらとしてはそれどころではない。
そんな聞いた事も無い能力をどうやって得たのか詳しく話して欲しかった。だがどうしても言えない事情があると言うことで直接聞くことは叶わなかった。
ただそれとなくいくつかの話を聞くと、何となく遠まわしな言い方ではあるが彼の真意が読み取れてくる。
多分、ヤマルはあの図書館の謎の褒賞を何らかの拍子に得てしまったのだろう。堂々とそれを言わない辺り、多分偶発的な何かに巻き込まれたと見て良さそうだった。
言わないのは後ろめたさ……もありそうだが、何かしら言わないよう口止めをされていると推測。ただ完全に口を噤まない辺り魔術的な契約ではなく口約束に近いものだと思う。
誰とそんな約束を交わしたのかは予想がつかないが、ともあれこれ以上は聞いてもダメそうだったので追求はしないことにした。
「しっかし改めて見るとどうなってるんだ、これ」
「魔法だよね。ヤマルの《生活魔法》なのは分かるんだけど……」
この積まれた武具は彼の《
元々ヤマルの《生活の光》でこの様な武具自体は作ることは出来ていた。
ただしそれは見た目だけ。触れば透ける幻の様な物。
だがこの武具は魔力固定方法によって実体を持ち、しっかりと見た目通りの性能を出すに至っている。
「とりあえずあいつに話す前に俺らでまとめておくぞ」
ヤマルが遊んでいる――と言うか実際は少し休憩中。ただ最近はあまりポチと遊んであげられていないと言うことでついでに構ってあげているところだ。
その間にこちらはそれぞれの観点で『魔力固定法』について考察して欲しいとのことだった。
ヤマル自身も昨日から色々試しはしたが、専門家の目から見ての意見も欲しいらしい。
そこで自分は剣士として、ドルンは鍛冶職人として、エルフィリアは魔術師としてそれぞれの目線で考察をする事になった。
「まず鍛冶職人からすれば正直こいつらはそこまで強くはねぇ。良くて人王国で売ってる量産品ぐらいの性能だろう」
そう言ってドルンは積まれた武具の中から光の槍を一つ取り上げる。
まるで紙を摘むような持ち方だったが、槍は難なく持ち上がりそしてドルンによって床に突き立てられた。
一応これだけで刺すという性能は持っているのは証明されている。
そしてドルンが自前の槌で槍の柄を横から叩くと、甲高い音を立てて光の槍が破砕された。
その瞬間槍の形状を保てなくなったためか、残骸も全て光の粒子へと変化し綺麗きれいさっぱり無くなってしまう。
「見ての通りだな。多少腕に覚えのある奴と打ち合うだけで十中八九こうなるだろう」
「では武器としてはあまり使えないんですか?」
「あぁ、そうだな。
彼の言わんとしている事は自分もエルフィリアも分かっていた。
ヤマルの魔法は無尽蔵ではないが、弱いが故にあまり制限が掛らない。目の前のこの武具らを出すのもあっという間だった。
量産品程度とは言え、例え壊れたとしても次の瞬間には同じ物が現れる。
それは相手にとっては厄介極まりない能力だろう。
「代わりの武器の心配が無いってのは強いぞ。それにこの盾みたいに防具も出来るみたいだしな。まぁこいつも一発もてば御の字だろうが」
「防御手段が増えるのは良い事だと思いますよ?」
「こっちとしては瞬間的な守りよりエルフィリアの魔法の様に持続性ある方が安心できるんだがな。能力も上だろうし」
結局ドルンの感想としてはいくらでも武具が出てくるのは強み、ただし性能はあまり無いため過信は厳禁。
ただ形状は割と色々できるので、要所要所で最適の形にすれば使いどころはあるだろうとのことだった。
「じゃあ次は私ね。剣士としてみたらこの武器はちょっと使えないかなぁと思ったかな?」
「やっぱ威力が低いからか?」
「ん~……剣としての切れ味はドルンさんが言ったとおりなんだけどね」
説明を続けるためにドルンがやったように積まれた武具の中から光の剣を拾い上げる。
魔法で出来ている為か羽のように軽い。むしろ重さを感じない。
それが剣士としては問題だった。
「これね、
どう振っても剣を持っている実感が沸かない。
手に剣を握ってる感触があり、目で実物があるのは認識しているのだが、振るとこれまでの傭兵人生で培った感覚と全く違うため違和感が物凄い。
剣を振るというより腕を振っているという感覚に近かった。
「ヤマルやエルさんみたいにあまり力が無くて普段から剣を持たない人なら良いかもしれないけど、私じゃとても使いこなせないかなぁ」
「なるほどなぁ。ってことは俺の槌みたいな武器は作ってもらっても根本から合ってねぇな」
「そうだね。重さがないから打撃武器は絶対に不向きだと思う」
ドルンの指摘通り切れ味がある刃物の武器はともかく、重さと衝撃でダメージを与える武器との相性は最悪の一言に尽きる。
例え大きいハンマーをヤマルに作ってもらっても、固い板で殴られた程度のダメージしか与えれないのは目に見えていた。
そして最後にエルフィリアにバトンタッチする。
彼女は目の前の武器ではなく、他に見せてもらった魔法についてだった。
「正直この方法を持ったのがヤマルさんで良かったと心底思ってます……」
そう語るエルフィリアは仮にこの手法がヤマル以外だったらどうなるかを教えてくれる。
まずおさらいとしてヤマルの《生活魔法》全てがこの『魔力固定法』の対象になったかと言われたらそんなことは無かった。
何かしら相性があるのか、成功したのは大よそ半分。
《火》《水》《光》は成功。《電》は条件付きで可能。逆に《氷》《地》《音》はダメだった。
《風》も一応は成功したと言えるのだが、通常とあまり変わらなかった。むしろ悪化していた気さえする。
「分かりやすい例で比較するとヤマルさんの《
先ほどヤマルがやっていた実験を思い出す。
ヤマルが《生活の火》を固定すると彼の手の上で小さな火がコロコロと転がった。
転がしても問題ないのは燃えていないわけではなく、術者だから熱くないらしい。
試しに《
「つまり自分の魔法が持てます。もし高位の魔法使いの方が威力の高い魔法でこれをしたらと思うと……」
エルフィリアが言わんとすることを頭の中で想像するとあまり良いものではないのだけは分かった。
そもそも魔法は持続性があまりない。どれだけ威力の高い魔法だったとしても、発動後は消えてしまうものである。
だがこの方法があれば威力はそのままで保つ事が可能だ。最大出力状態の魔法を振り回されるなどぞっとするしかない。
「ヤマルさんだからこそ便利で済んでいるんですけど……」
「まぁそうだね……」
さっきの例で言えば火もずっとついたまま。焚き火を起こす際なんかあれを中に入れておくだけでヤマルが離れても後は勝手に燃えてくれる。
《
流石に触れた部分から徐々に水が染み出してはいたが、水を手掴みで持ち上げればその心配も無い。
液体を手で掴み上げるという未知の体験に考察を忘れ少し楽しんでいたのは内緒だ。
「……結局お前らが纏めるとどうなるんだ?」
「便利ですしやれることは増えたと思うんですがあまり変わらないイメージですね」
「そもそもヤマルがどれだけ武器や防具を出してもすぐに制圧されちゃうよ。接近戦なんて殆ど出来ないんだし」
「つまりいつも通りってことか」
異常ではあるが逸脱はしていない。
便利で人に出来ない事がやれるけど、出来ない事がそのままで弱点が消えたわけでは無い。
つまりいつものヤマルの立ち位置だった。
もしヤマルがいっぱしの剣士だったら、武器を取っ替え引っ替えするような独自の立ち回りが出来ただろう。
魔法使いなら強力な魔法を維持したりとかなり強くなっていたに違いない。
惜しいと思う反面、ヤマルらしいとも思い少し安心してしまった。
……もし一人でも立ち回れるほど強くなったら、自分はお役御免になってしまうかもしれないし。
「まぁ考察の結果はしっかり伝えるぞ。新しい力を持ったときが一番危ないからな。おーい、ヤマル!!」
ドルンがヤマルを呼ぶと彼はふりすびーを消しポチを抱えてこちらへと戻ってきた。
腕の中でポチが物足りなさそうに項垂れているのがまた可愛らしい。
「とりあえずそれぞれの観点で見た結果だがな――」
だけどまだ自分達は知らなかった。
遠くない未来、こちらが思いもつかない方法でヤマルがこの魔法を使いこなす事を。
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