第191話 魔国に向けての準備


「……とこんな感じで会議自体はあまり進展が無くてね。もしかしたら魔物をあんな風にしてしまう誰かか何かがあるから気をつけろってところで話しは終わったんだ」


 夜の宿の自室でのいつものミーティング。

 今日みたいに分かれて行動した場合何か皆に話すことがあればこの場で伝えるように場を設けている。

 もちろん今日のコロナやエルフィリアみたいに、別れた後にプライベートで過ごした内容を話す必要性は無い。

 あくまでパーティーとして必要な情報だけを報告しあう場だ。


「あの、セーヴァさん達と改めて集まったのって……」

「まぁ内々での確認みたいなものかな。出来ればもっと深い部分の話があれば良かったんだけどね」


 結局自分からの報告は前回の様に出先で見たことも無い魔物が出たりする可能性もあるから気をつけろ、ぐらいしかない。

 今回が初遭遇で出現頻度も個体数も何も分かっていないのが大きな理由だ。

 後は集まったメンバーと内容的に話せない事が多すぎる。


「ヤマル。それで、その……あの人との縁って……」

「んー……詳細はちょっと話せないんだけど、あいつが色々やらかしてくれたせいで俺はこの世界に来ることになったって感じかな。まぁやらかしたと言ってもあいつが自分に直接何かしたって訳じゃないんだけど、それが無かったら自分は今ここにいなかったと思うよ」


 でもここに来なかったらあのまま痴漢容疑で警察に連れて行かれてた気もする。

 見ようによっては助けられたとも取れなくはないけど……でもやっぱり感謝はとてもじゃないが出来そうに無い。


「後あの貴族が色々言ってくれたけど、俺からは何かやったってことは絶対に無いからね。もし偶然で片付けれないなら、それこそ他の要因が絡んでいるはずだよ」

「でもそれが結局分からねぇんだよな」

「まぁねぇ。それが分かればあの時反論できたし、これからは前以て対策出来るんだろうけど……」


 結局こちらが出来ることと言えば気をつけるのと情報を共有するぐらいしかない。

 何とも情け無い話だが、情報が足りなさ過ぎてどうにもならないのだ。


「全部を話す事が出来なくて皆には悪いと思ってるよ。ほんとごめんね」

「でもその理由ってヤマルだけじゃどうにもならないことなんだよね」

「そうだね。俺が話したところで皆がべらべら喋るとは思わないけど、洩れることを考えたら言わない方が良いと思う」


 正直こんなこと言うと隠し事してますよと公言しているようで心が痛い。

 でももしこの辺の内容がどこかに洩れて、その情報を知ってる対象に皆が含まれることを考えたら自分で止めておいた方が絶対に良い。


「まぁそう言うことなら俺はそれで構わねぇよ。お前が言わないって事は言うと俺らに何か不都合でも出てきそうなんだろ?」

「……ドルンってたまにこっちの心見透かしたこと言うよね」

「そうか? あぁ、コロナとエルフィリアも別にそれで構わねぇよな?」


 ドルンの問いかけに残り二人も問題無いとばかりに首を縦に振ってくれた。

 とりあえずはあの貴族が言っていた件については全員納得してくれたと言うことでほっと胸を撫で下ろす。

 正直この三人に疑われたままだと思うと心が保ちそうに無いし……。


「ドルンの方はカーゴどうだった?」

「あぁ、特に問題は無ぇな。前以てあいつらには言っておく必要はあるが、いつ持ち出しても大丈夫だ」

「了解。コロ達の方は……まぁ連絡事項はないか」


 流石に仕事はしてないだろうし、会議後は好きにしていいと言っておいた。

 だから多分休養とかに充ててると思っていたのだが、意外なことにコロナからは一つだけ報告があるとの回答が来る。


「あのね、今日はあの後エルさんと冒険者ギルドにも寄ったんだけど、いつもの職員の人がヤマルにギルドに来て欲しいんだって」

「……? 何の用事なんだろう」

「んー……本人じゃないとダメって言ってたから、多分ギルド絡みなんじゃないかなぁ」


 まぁそう言うことなら明日にでも寄ることにしよう。


「さて……じゃぁカーゴも問題無く動くみたいだし、お金もここ最近の依頼で溜まりつつある。そろそろ魔国へ向けて準備を始めようと思うんだけどどうかな」


 個人的に資金はもう少し余裕を持たせたいところだが、金銭効率の良い指名依頼が入る予定が無い以上今の状態がほぼ限界値だろう。

 せめて冒険者としてのランク上がれば別の依頼も、なんて思うが流石にそれを待つのはジリ貧にしかならない。

 こちらの言葉に対し全員の顔を見るが特に反対はされなかった。


「準備出来次第すぐに魔国に行くのか?」

「ううん。準備をしながら一先ず魔国の情報集めたいかなって思ってるよ。前回の獣亜連合国の時はコロが居たから向こうの常識とか色々情報があったけど、今回はあっちのこと全然知らないからね」

「そうですね。基本的なところだけでも色々集めたいところですが……」

「ヤマルもだがエルフィリアも全然分からない状態か。コロナ、お前はどうだ?」

「うーん……知ってることと言えば……」


 コロナも魔国には言った事がないので、トライデント時代の又聞き情報でしかないが分かってる部分だけ教えてくれた。

 まず魔国は人王国より北東にあり、距離としては獣亜連合国とほぼ同じ。

 世界地図で各国の首都を結ぶと丁度正三角形のような形になるそうだ。

 住人は主に魔族と呼ばれる種族。国から出ることはあまり無い為、人王国や獣亜連合国でもたまに見かける程度らしい。


「魔族ってどんな人達になるの?」


 どうしても日本の知識のせいか、魔族と聞くと危険な感じのイメージしかない。

 前以てそのイメージは払拭したかったのでコロナに問うも、彼女もまだ見かけたことは無いそうだ。

 こちらも又聞きになる、と前置きし話し始めようとしたところでドルンがちょっといいかと手を挙げる。


「魔族なら過去に工房うちに来てるぞ。話したこともある」

「お、さすがドルンのとこの工房だね。人だけじゃなく魔族も来るんだね」


 改めてドノヴァンの工房のネームバリューを感じていると、彼が当時を思い出しながら魔族の事を話してくれた。

 基本的に魔族は人より獣人・亜人種に近いらしい。

 見た目はある意味では獣人みたいな感じらしく、魔族の場合は動物でも卵生の方と形状が似通っている人が多いそうだ。

 例えば角が生えてたり、背中から羽があったり、トカゲの様な鱗持ちだったりと形状は様々。

 ただ獣人や亜人と決定的に違うのはその身に宿す魔力の多さだろう。純粋な魔力では間違いなく他国の種族の追随を許さない。

 その為彼らの使う魔法はどれも強力なものであり、単体として見るなら獣人よりも戦闘能力は上なのだそうだ。

 一応獣人であるコロナの名誉のために言うと、主に体を使う近接系なら獣人に分がある。ただ遠距離が苦手である以上、総合的な戦闘力としてはどうしても魔族に軍配があがるらしい。


「ただ単騎で力がほぼ完成してるから、仲間と一緒の集団戦は獣亜連合国うち以上に苦手らしいな」

「へぇ。その辺は人間が得意だよね」

「まぁ魔族は力の強さも方向性も振れ幅がでけぇからなぁ」


 ともあれこれで分かった事が一つ。

 魔族の人にはケンカは売らないでおこう。いや、別に魔族じゃなくても基本売らないけど、今回は相手がやばすぎる。

 まぁ有益な情報としては別にそこまで凶暴ではなく、性格としては他とそんなに変わらないとの事だった。

 もちろん他と変わらないと言うことは変なのもいる可能性もあるので気は抜けないが、全員危険人物かもと身構えていたので随分とありがたい情報である。


「実際の最近の話ならギルドで聞いてもいいんじゃねぇか? どうせ明日行くんだろ?」

「そうだね。他にも何か注意事項あるかもしれないしそうするよ」


 何はともあれまずは明日。

 冒険者ギルドに行って色々と魔国について情報を仕入れてこよう。



 ◇



「ヤマル、お前今日からCランクな」

「……へ?」


 明けて翌朝、冒険者ギルドに行くと第一声でランクアップの事を告げられた。


「そんなマヌケ面すんな。大丈夫だ、ちゃんとギルド側で審査手順踏んだ正式な結果だ」

「あー、はい。その……ありがとうございます」

「何だ、嬉しくないのか?」


 そんな事は無い。もちろんCランクには上がりたいと思っていたから嬉しいは嬉しい。

 ただ何というか、全然実感がないのだ。

 立ち位置で言えばラムダン以外の『風の爪』の面々と同ランクと言うことになる。

 自分が彼らと同じ実力があるようにはとてもじゃないが思えない。

 だから嬉しい反面、どうしても申し訳ないような気持ちが沸いてきてしまうのだ。

 ……いや、Cランク目指してはいたけどさ。なんかこう、最後にCランク相当の何かやったぞー!的なのがあればもう少し気持ちに区切りが付けれてたのかもしれない。


「いえ、なんと言うか今ひとつ実感が湧かなくて……」

「まぁ普通なら戦狼が最後に残るからな。大体のDランクのやつは討伐出来たことに喜んで実感湧いたりしてるんだが、お前の場合それを最初に済ませてるからなぁ」


 結局残った他の規定のクエストや条件を満たしていく形になり、今回めでたくそれが達成されたためのランクアップになったらしい。


「以前の特例の時と違って今回はお前の意見は反映されないからな。ありがたく受け取っておくことだ。……ま、良くやったな。正直最初お前見た時はここまで上がるとは思ってなかったぞ」

「……ありがとうございます。これからも頑張っていきますね」


 おぅ、と珍しく職員が笑顔で応えてくれたので、彼に頭を下げて待たせていた皆の下へと向かう。

 その途中、顔馴染みの職員に言われた言葉が頭の中で反芻されると、じんわりと自分の心の中で実感が湧いてきた。

 油断すると頬が緩んでしまいそうだ。

 そして皆が待つギルドの備え付けのテーブル席へと戻ると、ドルンが何かに気付いたように声をかけてきた。


「お、何か良い事あったか?」

「うぇ?! え、何で分かったの……?」

「だってヤマルさん、ちょっとニヤニヤしていると言いますか……」

「微妙に口角緩んでるよ」

「わん!」


 油断してたつもりは無かったが、ポチにまでばれるほど締まりの無い顔をしていたらしい。

 いかんいかんと気合を入れる様にペチペチと頬を数回両手で叩く。


「それで何があったんですか?」

「うん。実はめでたくCランクに昇格できました!」

「おぉ、良かったじゃねぇか」

「ヤマル、おめでとう!」

「おめでとうございます! 魔国行く前に幸先良いですね」


 皆に褒められると非常に照れくさいがとても嬉しい。

 これも皆のお陰だとお礼を言っていると、ふと周囲からの視線を感じた。

 ちらりとそちらを見るとそれは周囲に居た見知ったの冒険者の面々。

 本来であれば半人前のDランクから一人前のCランクになった際は、先人が祝い後輩が称えるのが慣わしと言う事をラムダンから教えてもらっている。

 ただどの人もそんな雰囲気では無く、何とも言えない微妙な感じを醸し出していた。


「なんだ、あいつら」

「ここの人はヤマルのことずっと下に見てたからね。冒険者の矜持で褒めたいのと、今まで散々言ってきた人に先を越されたから何て声を掛けていいのか分かんないだけだと思うよ」


 コロナはコロナで自分の事で鬱憤が溜まってたのか、ドルンに説明するその顔はとても得意気な表情だった。

 その横でエルフィリアがまぁまぁとコロナを宥めるようにしている姿がなんとも微笑ましい。


「まぁ他所は他所、うちはうちだよ。でもこれで今まで受けれなかった依頼も出来るようになったから、金銭面は少し余裕が出るかもね」

「だがその分危険なところもあるんだろう? お前は調子に乗るタイプじゃないから大丈夫だと思うが、Cランク用の依頼を受ける時はしっかり吟味するんだぞ」

「うん。大体難しくしても負担掛かるのは皆だしさ。特に最初は皆と相談しながらやっていくよ」


 とりあえず今日のランクアップは想定外だったので、このランクでどの様な依頼があるのかはまだ知らない。

 今日は様子見と言う形で皆でCランククエストの依頼はどんなものなのか見ても良いだろう。

 もしくは職員にアドバイス貰うなり色々聞いて選ぶのも……って!


「あ、ランクアップのことで頭一杯になって魔国の事聞いてないや……」


 嬉しさのせいか本来の目的がスコンと抜け落ちていた。

 慌てて職員の下に戻ろうとするも、またここで自分が話すのであれば二度手間になってしまうと言うことでドルンから待ったが掛かる。

 結局全員で一度に聞くのが一番と言うことになり、皆で再び職員の元へと向かって行くのだった。

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