第189話 二つの会議~本会議~


「――この様にこの魔物は魔法や剣術など取り付けられた人の能力を使い――」


 王城の大会議室。自分達『風の軌跡』の一同はその隅っこに宛がわれた椅子に座っていた。

 現在ここではラウザによる先日のデッドリーベアの一件が報告されている最中だ。

 集まったのは主にラウザの様に領主の名代達。

 実際相対した者からすればその危険性からトップに報告したいところだが、現状では珍しい魔物の報告会でしかない。

 それでも王城からの呼び出しと言うこともあり、出席しているメンバーはそれなりの地位を預かっている者やラウザのような次期領主等である。

 その様な出席者の中、異彩を放つ二人の姿があった。


 一人は最上位席に座る禿頭の貴族だ。誰も彼の方に対し目を合わせようとしない。

 それもそのはず。彼の名はボールド=クロムドーム。

 大貴族であり現当主でもある彼が何故この場にいるのかと、他の出席者からの心の声が聞こえてきそうだ。

 そんな彼がわざわざ足を運び出席している。出席者の大多数が頭を抱えていることだろう。

 そして戻ってから各々の主が同じ様に頭を抱えそうな未来予想図が目に浮かぶ。


 もう一人は自分も知らなかった貴族の人だ。過去形なのはこの会議室に来たときに彼が誰なのかラウザに教えてもらったからである。

 歳は初老を差し掛かったぐらいか。白髪混じりの紫色のオールバックの髪型の男性だが、報告を聞く彼は表情に覇気が微塵も感じられない。


(そりゃまぁ息子があぁなったらそうなるわな……)


 彼はレイサン=ドラムスの親でもある現ドラムス領の領主だ。

 他の面々がどこまで知っているかは不明だが、少なくともレイサンが何をしでかしたかは親である彼の耳には入っているだろう。

 その上今回この様な形で失踪中だった息子が見つかったんだ。無理もない事だった。


(まぁ自分じゃどうしようもないけどさ)


 少なくとも今後彼とその領地がどうなるかは自分のような立場の人間には与り知らぬこと。

 多分国とエンドーヴルで色々取り決めが交わされるのだろうが、どう転んでもいいようにはならないのは自分でも予想できた。

 彼自身には流石に同情はするけど、レイサンのやったことが大きすぎてもはやどうにもならない。


「皆様も先程目にしていただいたと思います。あの魔物は元は三つの命だったと――」


 続くラウザの説明に耳を傾ける。

 彼が言うようにこの会議が始まり少しした後、全員で現在デッドリーベアが保管されている場所へと向かった。

 王城内の一角。魔術師ギルドと冒険者ギルドの共同で設置されたそこには丁寧に解体されたデッドリーベアの死体。

 それに加え上半身のみとなったマッドとレイサンの遺体だ。

 慎重に慎重を重ね彼らとデッドリーベアを分離するべく努力した結果だ。

 それによると遺体の形状通り、デッドリーベアの肩には胸より上の体だけが埋まるようになっていたらしい。

 そのため遺体には四肢は無く、また胸部もかなりボロボロとなっていた。

 頭だけでも原形を留めていたのは職員曰く幸運だったそうだ。


 それを見た参加者の反応は大よそ一つである。

 すなわち『得体の知れない何か』を見た恐怖だった。

 一応自分とドルンもこの場には立ち会ったが、人の死体に慣れていないのもあり吐くのを堪えるのに必死だった。

 尚コロナとエルフィリアには立会いを辞退してもらった。自分も大概だが、二人に見せるには刺激が強すぎると判断したからだ。

 特にコロナに至っては昔なじみの一人がこうなっているのだ。トラウマにさせたくなかったのと言う理由もある。


 そしてその場で説明されたことによると、少なくともどうやったらこの様な魔物になるかサッパリ分からない事。

 また人為的に何かしらの手が加えられた可能性が高いこと。

 まだまだ調査始めたばかりなこともあってかこれだけしか分からなかったが、少なくともこんなことをしでかす誰かがいると言う事は大問題である。


 その後再び会議室に戻って説明を続けているわけだが、正直会議と言うよりはほぼラウザの単独説明会と化していた。

 誰もラウザに対して質問を飛ばさない。

 何を聞いて良いか分からないと言うのもあるだろうが、それ以上にボールドの前で変な事を言って目を付けられたくないと言う考えがヒシヒシと伝わる。

 そう言うことをやってる場合じゃないのになぁと思うのは当事者だからか、はたまた貴族社会を良く分かっていないからか。

 そうこうしている内にラウザによる説明は大よそ終了したようだった。


「足早な説明になってしまいましたが以上で私の説明は終了させていただきます。本日の内容については配布した資料に纏めてありますのでご確認下さい。それでは質問等が無いようでしたら以上で終わらせていただきますが、何かありますでしょうか。何でも構いませんよ」


 会議室をぐるりとラウザが見渡すもやはり誰からも質問が挙がらない。

 ここまでか、とラウザが締めくくろうとしたその時、とある人物が挙手をしていた。

 若い、と言っても自分やラウザよりは年上。三十代後半ぐらいの男性だ。

 身なりからして貴族なんだろうが、彼に見覚えは無い。


「一つ宜しいだろうか」

「はい、どうぞ」


 ラウザに促され男性が立つと、彼はボールドの方を向き頭を一度下げる。


「魔物についての説明は良く分かった。君ほどの年頃でここまで纏め上げた資料を上手く説明するのは素晴らしかったと思う」

「ありがとうございます」

「そしてこちらに対する要請も大よそは理解した。再びこの魔物、もしくは類する個体が出ても対処出来る様通達をして欲しいだったか」

「はい。恐らく混乱はあるでしょうがこの魔物は従来よりも強力で異端な種類です。生存率を上げるならば情報開示は必要かと思います」


 人と合体した魔物が出た、何て個人が話したら馬鹿にされるだろうが、公的の場所からの発表なら信憑性は高くなる。

 惜しむらくは対抗策が場当たりでしか無い事だ。

 今回はデッドリーベアをベースに人と獣人だったが、人為的に生み出されたと言う報告通りなら他の組み合わせだって十二分にありえる。

 そしてその様な魔物が出たとき、戦うにしても事前情報の差で生死の明暗を分けるかもしれない。

 逃げた人からの情報を元に討伐だって行えるだろう。

 今回の報告会はその為に各地に情報開示を要請する場だ。


「それについては領地に戻った後に報告と対処は行おう。ただ私が気になるのは、何故あの魔物は君の領地に出没したのだろうか」

「それは……残念ですが分かりかねます」

「そうかな? 女王陛下がまだ君の領地に居られた頃、婚約者がいたらしいじゃないか。そう、今回討たれたドラムス氏のご子息だ。これらを偶然と片付けるには些か疑問が残ると思うがどうだろうか」


 男性の言葉に場内がざわつく。

 もしレイサンの意思でエンドーヴルにいたとすれば、魔物と一体となった人間次第で行き先が決まることになる。


(……もしかして狙って魔物を送り込める?)


 ただこの考えは推測の域を出ない。

 仮にそうだったとしても、魔物と誰が一体化してるのかを知らねば行き先すら予想できない。

 今回は顔を知っている人物が複数いたので身元はすぐに割れたが、そうでない可能性のほうが高いのだ。


「……確かにその考え方はこちらでもありました。ですがまだ推測の域を出ません。可能性の段階で明確に答えることは出来ませんので、そこはご了承下さい」

「初めて尽くしの状態だからね、そこは仕方ないか。……ところで話は変わるが、実はもう一人彼と縁のある人間がいるのを知っているかい?」

「いえ。彼の交友関係は分かりかねますので、この場で縁があるとすれば自分ぐらいと思いますが」

「そうか。連れてきてるから知ってると思っていたんだが……なぁ、フルカド君」


 急に名を呼ばれ反射的に背筋が伸びる。

 そして周囲の人にラウザ、果てはコロナ達までもが驚いた様子で自分の事を見ていた。

 唯一違う表情をしているのは自分を呼んだ男性とボールドぐらいだ。

 前者はどこか怪しげな笑みを浮かべ、後者は腕を組んだまま静観の体制をとっている。


「君はあのご子息とがあるね? そしてもう片方の獣人も知っている顔だったそうじゃないか。さすがにこの広い大陸、それも国を跨いだ君と縁のある二人が魔物と一体化していたは偶然では片付けられないと思うが、その辺りはどう思っているのかね?」


 なるほど、つまり彼は自分が何者でどうしてこの世界にいるかの経緯まで把握しているようだ。

 そして表情から察するに何故か自分を邪魔と思っていると言った所だろう。以前のボールドの様ないやらしい雰囲気がある。


「つまり自分が何か関わっている、と」

「気を悪くしたら済まないが、最悪君が彼らをあのようにしたのではないかと言う可能性だってある」

「ヤマルはそんなことしません!!」


 こちらが反論の言葉を言う前にコロナが立ち上がり男性を睨みつける。

 だがそれすらどこ吹く風とばかりに平然とした表情を浮べていた。


「お仲間がそう言われ腹を立てるのは分かるが落ち着きたまえ」

「落ち着けません!」

「コロナ、一旦座れ」


 尚も噛み付こうとするコロナを今度はいつの間にか立っていたドルンが片手で制する。

 まだまだ言い足りない様子だったが、ドルンの顔を見てはコロナは不承不承といった様子だったものの大人しく椅子に座りなおした。


「貴族様よ、仲間が済まなかったな。だが俺も心情的には一緒だし、そもそもこいつにはそんな大それた事が出来る力は無ぇよ」

「本当にそうかね? 仲間なら君も知っているんだろう、彼のここは普通じゃないと」


 トントンと人差し指で自らのこめかみを突く男性。

 それが意味することは異世界の未知の技術が頭の中に詰まっていると言わんばかりの所作だ。


「残念だが仮にそうだったとしてもそいつは無理な話だ」

「と言うと?」

こいつヤマルの戦闘力じゃそもそもあの熊をどうにかすることが出来ねぇ。嘘だと思うんなら冒険者ギルドでもここの顔見知りの兵士らにでも聞けば言質は取れるぜ」

「だが君やそこのお嬢さんがいれば可能じゃないかね?」

「俺らがグルだってか? 可能か不可能かならまぁ出来るだろうがな。だがその捕らえた熊をどう運ぶんだよ」

「最近面白いものを発掘したと聞いているが。何とどんな重いものも積めるとか」

「内装ががらんどうならな。あんなデカブツを中に積むのは無理だ。外だなんて言うなよ? 目立ちすぎてすぐにバレる」

「ならデッドリーベアを従えれば問題あるまい。彼は獣魔師と言う魔術師ギルドの中でも珍しい要職だと聞いている。そこの戦狼同様に従えたと言う可能性があるのではないかね?」


 もはや押し問答状態だった。

 男性の疑問にドルンが真っ向から否定するが、周囲の目がだんだん怪しいものを見るような視線へと変化していっている。


(……あまり良くないな、これは)


 しかしこの男性も良く自分の事を調べている。

 もし自分がその辺に座っている赤の他人ならきっと怪しく見えてしまいそうだ。

 マッドやレイサンとの関係性や、まさかポチの関わりすら織り交ぜてくるなんて思わなかった。

 しかしこのままでは埒が明かないのでいい加減閉めることにする。

 幸いにもあの男性はこちらの事を良く知っているようなので、彼の事も知っているはずだろう。


「……スヴェルクさんを呼びましょう。それが一番早いです」


 こちらの提案に殆どの人が『誰?』と言った疑問を浮べていたが、目の前の男性は面白く無さそうな顔をしていた。

 やはりスヴェルクの事も、その能力のことも知っているようだ。

 レイサンを見つけた手法でもある彼の能力への信頼性はかなり高い。

 『真実の眼トゥルー・アイ』の結果に対してケチをつける代償は見過ごせないはずだ。


「……構わないのかね?」

「それで納得していただけるのであれば」

「自信満々と言ったところか。良いだろう、一先ずは君への疑いは横に置いておくことにしよう」


 そして不利と悟ったのかあっさりと引く。

 しかし横に置くってまだ嫌疑をかけられてる状態じゃないか。以前にも同じ様な事があった気がするのは気のせいではないだろう。


「あの……」

「ラウザ君、済まなかったね。とりあえず自分の質問はこれで終了とさせて頂こう」

「は、はぁ……」


 何とも釈然としない様子のラウザではあったが、ともあれ質問が終わった以上彼が掛ける言葉はもう無い。

 最後に一悶着あったものの他の人物からの質問は特に出ることなく、デッドリーベアの報告会は無事終了を迎えたのだった。

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